2017年12月3日日曜日

読書:日本戦後史論



内田樹/白井聡


2015年2月28日第一刷

日本の戦後史について内田樹と白井聡の対談による本。

本自体は大きくて厚みもあるが、ページ数はそう多くなく字も大きくて読みやすい本だった。単に今の日本と安倍政権の問題点を語るだけだったら(そこから目を背けるべきかどうかは別として)読みにくいかと思ったが、当然ながら話の流れ上そういう話は終始出て来るものの、両者の話は歴史に基づいてその末に存在に至った現政権についても整理されている。また、「今の若い人は」「ネットが」「SNSが」という話もほぼない。

初版が2015年で、そう昔のことでもないのだが、その後、アメリカにはトランプ大統領が誕生し、また北朝鮮のミサイル危機が起こり、それなりに状況は変化している。それでも内容に特に違和感はない。そのことから特に日本にとってのアメリカという国は、誰が大統領でも(それが相当変わった人でも)アメリカはアメリカであるということも考えさせられた。

もともとは白井聡が書いた「永続敗戦論」という本がこの対談の出発点になっていて、白井聡がそれを書こうと思ったきっかけは2011年の津波と原発事故を見てのことだったという。震災と原発事故で隠されていたもの誤魔化されてきたものが顕になって、その顕になったものが白井聡の言う「永続敗戦レジーム」であるという。あの時に多くの人達が何かおかしいと気づいた、そして変わってきたのが悪い方に変わってきた、という話は実感としてもよくわかる。

内田樹が言う、戦前から敗戦までの日本政府内にあった「賊軍のルサンチマン」という話が面白かった。長州閥の時代が終わって、ある種の実力主義で「賊軍」扱いだった軍人が多くのしあがってきて、戊辰戦争から75年かけて薩長が作り上げてきた近代日本のシステムを最終的に全部壊すことになった。それは日本の国益のためにということではなく、怨念にとらわれて無意識的に大日本帝国のシステムを破壊する選択をし続けていたのではないかという。

そこから安倍政権の「戦後レジームからの脱却」は破壊願望によって駆動されているのではないか、という話と繋がる。現政権のTPPや最近の対北朝鮮政策のように破滅に近づこうとしているように見える選択、安倍晋三個人から感じる、戦後の日本を70年間作り上げてきた日本国憲法と日本国憲法的なものに対する怨念のようなものに理解が繋がる。

その他フランスの現状や天皇制の話などやや消化不良を感じたところもあったものの、対談ということもあって難なく読める本だった。もちろん必ずしも明るい話をしているわけではないのだが、基本的に腑に落ちる話が多く、自分の中に持っている漠然とした不満や違和感を整然と説明してくれるため読後感は良かった。

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