2019年1月29日火曜日

「人質司法」日本の司法が自白と有罪を取り付ける手法


カルロス・ゴーン氏が経験していることは、検察が容疑者を長期勾留することで悪名高い日本では普通のことだ。


Al Jazeera
Danielle Demetriou
JAN 29 2019

日本の東京にあるその部屋は、装飾のない冷たい部屋で、最小限の家具としてベッド、トイレ、鉄格子付きの窓、取っ手のないドアだけが備え付けられている。

カルロス・ゴーン氏が現在いる場所は、日産の会長として世界を駆け巡り、世界で最も力を持った自動車業界の経営者の1人として住み慣れていた高級住宅や5つ星ホテルとはかけ離れたものだ。

それどころかゴーン氏の世界は、日本の巨大都市の北部郊外にある12階建ての白い建物の中に、いつ終わるともわからずに制限されている。

既に日産の会長としての地位を追われたゴーン氏は、11月19日に東京羽田空港に自家用機で到着したところを警察に劇的に逮捕されてから既に2ヶ月以上勾留されている。

この元自動車業界の権力者は、ルノーの舵取役をジャン=ドミニク・スナール氏とティエリー・ボロレ氏に譲るためにルノーの会長及び最高経営責任者の地位を辞した。その場所もこの独房だった。


保釈のためには自白


ゴーン氏の逮捕以来この件に世界の注目が集まっているのは、彼の栄光からの思いがけない失墜や資金を巡る不正行為を告発されていることからだけではない。彼の勾留がいつまでも続いていることで日本の司法制度にも大きく注目が集まっている。

先週ゴーン氏は2回目の保釈請求を行った。彼はその中で、日本から離れず、3つのパスポートを預け、常時足首に電子タグを装着することを約束していたにもかかわらず、東京地方裁判所によって保釈の請求は却下されている。

却下の理由は法廷からは開示されていないが、日本の司法制度の専門家はこの結果に驚いていない。日本では自白していない容疑者に保釈が認められることは滅多にないからだ。

2018年3月までの8年間、給与を過少申告していたこと、そして個人的な金銭的損失を一時的に日産の帳簿に振り替えていたという正式な告発に対してゴーン氏は強く無罪を主張した。

その結果としてどうなるのか?今後も自白がない場合、ゴーン氏は裁判が始まるまで勾留が続くと広く予想されている。彼の妻によれば、米と大麦が主の拘置所での新しい食生活によって彼の体重は既に7キロ減っているという。

彼の勾留により、日本の刑事司法制度は国際的な監視の目の下に置かれることになった。特に、容疑者を起訴せずに最大23日間勾留でき、その勾留期間が終了しそうになるとまた別の被疑事実によって更に勾留を続けることができることについてだ。多くの人が自白するか審理が開始されるまで勾留されたままになっている。


「人質司法」


この「人質司法」とも揶揄される明らかに特異な日本の司法制度は、裁判になる事件の99%に有罪判決が下されるというよく語られるこの国の統計と直接に結びついているとされている。

「全ては自白を促す環境を作るためです」と京都の同志社大学法学部のコリン・ジョーンズ教授は説明する。「日本の刑事訴訟法の下では、起訴前勾留は捜査の道具になっています」。「ですから、早い段階での勾留は、誰かが有罪であると推定した捜査当局による尋問を容易にするために行われるのです」

「日本の検察当局は極めて強く自白に依存しています。多くの事件で自白を得ていることが、この国で非常に高い有罪判決率を維持する方法になっているのです」

ジョーンズ教授はゴーン氏は裁判まで勾留されると考えている。


変化を求める声


ゴーン氏の事件は、近年の中では国際的なメディアの注目度の観点から最も知名度の高いものになったかもしれないが、こうした長期勾留のケースはこの件だけのことではない。

日本弁護士連合会(Japan Federatio of Bar Associations:JFBA:日弁連)が発行した2017年の弁護士白書によると、検察が逮捕された容疑者を勾留する許可を裁判所に要求した数が近年急増していて、1990年は72,597件だったが2016年には105,669件になっている。

勾留が許可される率は同じ期間で99.8%から96.6%になり、僅かながら下がっているものの、この数字は通常圧倒的に勾留が支持されることを示している。

日弁連の刑事拘禁委員会の委員長である海渡雄一弁護士は「勾留が許可される率は少しずつ下がってはいますが、それでも非常に高いものです」と話している。

「2017年には保釈請求の62%が認められています。これも高い数値に見えますが、10〜20年前は50%に満たない数字でした」と彼は付け加える。

海渡弁護士は、日弁連は40年間に渡って日本の刑事拘禁制度の改革を訴えて運動してきたが、変化は遅く効果的でないものに留まっていると話す。

「殆どの法律家はこの制度を支持してはいないのですが、特に反対もしていないので、反対を訴えて上がる声は非常に弱いのです」と彼は言う。「最も重要な点は、日本では検察が容疑者を勾留できる期間が長過ぎることです。多くの国では24時間か48時間となっていますが、日本では23日です」

数え切れないほどの事例の中には、籠池泰典氏の例がある。彼は元私立学校運営会社の会長で、首相の妻が関係した大規模なスキャンダルの中で土地売却に関連した詐欺の疑いがかかり、彼自身の妻と共に10ヶ月間勾留された。

日本で活動するミュージシャンであるSUN-DYU氏も、店舗から1万円(91.41ドル)を盗んだ疑いで逮捕され、裁判で彼に無罪が言い渡されるまで10ヶ月間勾留された。

レバノン人の両親を持ち、ブラジル生まれでフランスの市民権を持つゴーン氏の状況が示しているように、長期勾留の危険に晒されるのは日本人に限ったことではない。

日本に住むフランス人で破綻したビットコイン取引所マウントゴックスの経営者だったマルク・カルプレス氏は、2015年に逮捕されてから、約3億4千万円(310万ドル)の横領の罪で起訴されるまでほぼ1年間勾留されていた。

彼の裁判は12月に結審しており、3月に判決が言い渡される予定になっている。カルプレス氏は裁判の中で不正行為を否定している。


「誇りではなく恥」


「裁判前の長期勾留により、検察は容疑者を孤立させ自白に署名させるように圧力をかけることができるのです」とテンプル大学東京校でアジア研究ディレクターを務めるジェフリー・キングストン教授は話している。「無罪を主張する容疑者は、自分自身の事件への関与を認めるまで長期にわたる勾留の対象となるのです。自白しない人に保釈が認められるのは非常に稀です」

この制度への批判はゴーン氏らの事件によって国際的に高まっているが、少しずつだが日本の中でも批判の声が上がっているようである。

「このやり方は広く受け入れられているわけではありません」とキングストン教授は話す。「地方のメディア、市民運動、弁護士らが検察権力の大幅な濫用と自白を強要して誤った有罪判決を導くことに注意を向けています。この視点からすると有罪率99%というのは、誇りにすることではなく恥ずべきことなのです」

日弁連は、特にゴーン氏のケースのような長い起訴前勾留を廃止することに加えて、制度改革の1つとして取り調べを記録することを求めている。

「現在の日本の刑事司法制度は日本国憲法と国際人権法に照らして様々な問題を抱えています」と日弁連はオンライン上の声明で発している。

「日弁連は『人質司法』の根絶と判決前の勾留制度の改革、… 起訴前保釈制度や容疑者の出廷やその他の活動を確実にするための措置の導入を求めています」

こうした制度改革はそこまで速く進まないことは明らかで、引き続き何ヶ月も勾留される可能性があるゴーン氏は東京拘置所で3月に65歳の誕生日を迎えることが現実的になってきている。

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