How a frog became the first mainstream pregnancy test, by Ed Yong https://t.co/9JNfPH4l1h pic.twitter.com/Ziy9fggoEc— The Atlantic (@TheAtlantic) August 12, 2018
1950年代、女性が妊娠しているかどうか知りたいときは尿をカエルに注射する必要があった。
The Atlantic
ED YONG
MAY 4, 2017
アフリカツメガエル、属名クセノプス(Xenopus laevis)は掌くらいの大きさで、緑がかった灰色でアフリカの池や川に住んでいる。彼らは何百万年も尿を注射されることなく生きていたが、1930年代、イギリスの科学者ランスロット・ホグベンによって一変することになった。
ホグベンは才能に溢れた人物だったが、かんしゃく持ちの動物学者で、左派活動家であり、自らを追い込むことを趣味にしている人だった。彼は研究生活の初期にホルモンをカエルに注射する研究をしていて、1927年に南アフリカに移り住んだ時も当地のカエルを使ってその実験を続けていたのだった。そのうちの一種だったクセノプスは大量にいて簡単に使えたのでホグベンはこの生き物と多くの時間を過ごすことになった。彼は後に自身の家にこのカエルの名前をつけている。
1930年、ホグベンは牛の脳下垂体(脳の下にあるエンドウ豆大のホルモン分泌器官)をアフリカツメガエルに注射したところ、これに反応してカエルは卵を産み始めた。この発見は全く思いがけないものだった。当時の科学者たちは、妊娠中の女性の尿には卵巣の発育を助けるために、脳下垂体で作られたホルモンが含まれていることを既に知っていた。つまり、もし同じホルモンがきっかけとなってカエルに卵を産ませたのなら、カエルは生きた妊娠検査機として機能する可能性があることになった。
ホグベンは初期の研究ではこの利用法を全く仄めかしていなかったが、すぐにこれに向けて研究を進めることになった。彼は南アフリカの人種差別に幻滅していたので、この画期的な実験から程なくしてイギリスに戻ったが、クセノプスの群れを運んできたのだった。彼の同僚の研究者、チャールズ・ベラービーはクセノプスを適切に育てる方法を研究し、彼らが妊婦の尿を注射された時は確実に卵を産むことを示し、そうでない場合はカエルは自発的に卵を産まないことを確認した。南アフリカのチームも同様の研究をしていて、学術界によくあるように2つのグループの争いに発展したのだった。結局この争いに決着が着くことはなかったが、ホグベンはこの研究から生まれた検査法に名前を残しているので、その意味では勝ったと言えるかもしれない。
「ホグベン検査」は極めてシンプルなものだ。女性の尿を採取してそれをすぐに未処理のままクセノプスに皮下注射する。もしその女性が妊娠している場合、5時間から12時間の間にカエルはミリサイズの白黒模様のついた球体の塊を産み出す。この結果は信頼できるものだった。ある研究者は150のカエルで実験を試みたが、誤って妊娠と判定することはなく、3つのケースで妊娠を見逃しただけだった。当時の医者がホグベンに対して次のように書き送っている。「某夫人の妊娠検査報告をありがとうございました。何年も経験のある1人の一般医、1人の産婦人科専門医、そして1匹のカエルのうち、カエルだけが正解だった、ということをお伝えしておきます」
民間に伝わる妊娠検査には長い歴史がある。私の元同僚だったカリ・ロムは「女性が棒に向かって放尿するようになるまで、いろんなものに放尿してきたのです」と書いている。最も信頼できる最初の検査法は1927年にドイツの科学者ベルンハルト・ツォンデクとセルマ・アシュハイムによって作り出された。彼らの「A-Z検査」は、尿を未成熟なメスのマウスに注射して数日置き、解剖して卵巣が通常より大きくなっているかどうかを見るものだった。
この方式の進化版ではマウスの代わりにウサギが使われた。どういうわけか当時の人々は妊娠した女性の尿を皮下注射されたウサギは死ぬと信じて「ウサギが死ぬ(the rabbit died)」という言い回しは妊娠の婉曲表現となった。実際のところ、マウスと同じように解剖の必要があったためウサギは常に死んでいたのだった。いずれにせよ、この妊娠検査は手間がかかり、高価で、出血を伴う作業が必要なものだった。ホグベンの友人が経営していた妊娠診断所では毎年6000羽のウサギを犠牲にしていた。
それに比べてクセノプスを使った検査は早く、開業医にも簡単で動物にも優しいものだった。アフリカツメガエルは30年の寿命があり、検査に使っても殺すことがなかったため繰り返して使うことができた。そして、このカエルは簡単に手に入れることができた。最初、医師たちは南アフリカからカエルを輸入していた。科学者のエドワード・エルカンの言葉によれば「動物を扱う業者たちは需要を満たすのに全く苦労していなかった」という。その後、クセノプスの群れは海を超えて生息することになったのだった。
こうした事情で、1940年代から1960年代までの間に数万匹のカエルに人間の尿が注射されたのだった。
1960年代になると、カエルが反応するホルモンである、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を化学的に直接検出する方法が発達した。カエルによる方法は徐々に廃れていくことになった。しかし、医学史家のジェシー・オルジンコ=グリンによれば、カエルによって妊娠検査が大規模な活動に革新されたという。彼は次のように記している。
施設は存在していても、検査を受けることは妊娠を期待している女性に必要な儀式だったわけではないし、望まない妊娠を中絶したい女性の助けになるものでもなかった。研究室で行われる検査は、例えば胎児の成長と腫瘍の成長とを区別するような、主に医療上緊急に識別診断することが必要な場合に使われていた。妊娠検査は検査を受ける女性たちではなく医者によってコントロールされていて、医者たちは希望するすべての女性に研究室のサービスを利用できるようにすることにあまり熱心ではなかった。実験室に採取した尿を送っても検査はしてもらえず、家庭医に相談に行っても、妊娠の身体的な特徴がはっきりする2ヶ月後にまた来なさいと言われるのが常だった。
クセノプスによって妊娠検査は変わったが、妊娠検査によってクセノプスにも変化が起きた。世界中でクセノプスが大規模に飼育されたので、科学者たちはこのカエルを他の研究にも利用するようになり、研究室で主流の「生物モデル」となった。細胞の働きや胚の生育を研究するために繰り返し使われ、あるいは宇宙へ運ばれ、初めてクローンが作られた脊椎動物になって、ノーベル賞にも貢献した。
しかし、このカエルが世界中で得た名声は不意の悪い面を伴っている可能性がある。2004年、南アフリカのノースウェスト大学のチェ・ウェルドンは、数百のクセノプスの標本を分析して、原生地の南アフリカで、このカエルはカエルツボカビ(Batrachochytrium dendrobatis:Bd)に感染している場合があることを指摘した。クセノプスはこの感染に影響を受けないが、他の殆どの種のカエルは彼らほど運が良くない。Bdは現在6大陸に広がり、数えきれない数のカエルを殺している。ウェルドンらは、妊娠検査や実験研究のためにクセノプスが国際的に取引されたことが、この両生類にとっての大惨事のきっかけになったと考えている。
他の種がBdを国外に持ち出す可能性もあるため、この件は今の所まだ決定的なものではない。しかし、クセノプスが「カエル界の腸チフスのメアリー」であろうとなかろうと、元々生息していない地域に放たれた場合、外来種として害を及ぼす可能性がある。そのため、アメリカの11の州では許可なくこうした動物を所有、輸送、売買することを禁止している。
ニューヨーク州はそのうちの1つではない。2012年8月29日、文化人類学者でアーティストであるエベン・カークシーは「パフォーマンス実験」として古代の妊娠検査をブルックリンのステージで実行してみせた。主役はこの種を研究施設等に供給する会社から仕入れたカエルのロレッタであった。そして壇上に登場した人の1人は体外受精を受けて、本当に妊娠しているのかどうか知りたがっている女性だった。
カークシーは近年この実験を何度かステージ上で試みていて、様々な結果を見ている。一度は動物愛護団体からの抗議運動を受けて中止になり、また別な時には聴衆の1人がカエルを救出しようとして混乱に陥った。(「カエルを盗んだのは初めてでしたが、不思議なことに妊娠した女性と戦うのは初めてのことではありませんでした」と後に彼女は書いている)
しかし、この8月29日は円滑に進んだ。カークシーはロレッタに注射した、そして何も起こらなかった。ライブカメラで見ていた130人の人々を含む見物人たちは、そもそも自分たちがカエルの卵がどういうものか知らなかったことを認識したのだった。「これがそれなの?」「いやちょっとまって、これは画面の汚れだろ」。後でこの実験に参加した母親候補の女性は現代的な妊娠検査を3種類実行したところ、妊娠していなかったことがわかった。
「我々はロレッタが常に正しかったことを認めなければなるまい」とカークシーは記している。
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