2017年11月27日月曜日

トランプが近づける悪夢の核シナリオ


ハビエル・ソラナは、各国が核兵器を開発する動機をトランプが作り出すことを恐れている



euronews.
Javier Solana
26/11/2017

2012年の夏に国際政治学者ケネス・N・ウォルツが発表した「何故イランは核兵器を持つべきなのか」というタイトルの論文ではイランが核武装することでイスラエルの対角として中東のバランスが望ましい形に成り立つのではないかと著されている。

この年の終わりに、ウォルツは制裁を交えた外交努力という戦略ではイランに核開発を思いとどまらせることはできそうもないとも述べている。2012年9月のフォーリン・アフェアーズには「軍事力の行使以外に、どのようにしてイランが核兵器を持つことを阻止するか想像もつかない」としている。

ウォルツは2つの意味で間違っていた。1つめは、地域あるいは世界の安定の源として核兵器の存在を擁護していることで、彼は核兵器がテロリストの手に渡る危険性や間違いによって使われてしまう危険性を完全に過小評価している。

2つめは、ウォルツはイランの核開発についての交渉が纏まることを予見できていなかった(あるいは核武装したイランを望む視点からの「失敗」か)。ウォルツは2013年に亡くなったが、もし彼が今生きていたら、疑いなくイランとP5+1(国連常任理事国+ドイツ)、そして欧州連合が2015年に締結した
包括的共同作業計画(JCPOA)の終焉を指摘しているに違いない。しかし彼は同時にJCPOAは、彼と他の多くの人が考えていた以上に、特に軍事的手段を提唱していた人たちに対して外交の力を証明していることを認めなければならないだろう。

JCPOAは多国間主義の金字塔であった。それにも関わらず、おそらくこの人はあらゆる意味で多国間主義を無視しているからであろう、アメリカのドナルド・トランプ大統領はこれを「過去最高にバカげた取引」と呼び、「核のホロコーストに導くものだ」と言及した。ハーバード大学のステファン・M・ウォルトなど幾多の研究者達が、この発言は事実無根で極端な誇張であると表明している。しかしそのことはトランプが10月にJCPOAを「非承認」とすることを止めることにはならなかった。

トランプはイランに数多くの合意違反があるとして、米議会にイランに対し原子力関連の制裁を再び課すことを提起した。議会がこの件について何もしなかったとしても、トランプの反イランのレトリックと議会で主導権を持つ共和党はJCPOAを逼迫させ脆弱にしてしまうだろう。

JCPOAが破壊されることは中東と世界全体に重大な危険を引き起こす可能性がある。イランが改めて原子力プログラムを始めることはイランの戦略的なライバルであるサウジアラビアとの関係に不安な局面を付け加えることになるかもしれない。実際この二カ国は冷戦状態から既に対立が加熱してきているようだ。サウジアラビアの若くて大胆なムハンマド・ビン・サルマン皇太子(彼はトランプの全面的な支持を受けている)は最近イエメンからサウジアラビアのリヤドに向けてミサイルが発射された後にイランに対し「戦争行為である」と非難している。

同時にアメリカは既に北朝鮮の核問題について行き詰まっている時に、中東で似たような危機を引き起こすことは最もやってはならないことだ。幸い、ドイツ、中国、フランス、イギリス、ロシア、そしてEUは全てJCPOAを守ることを表明しており、トランプ政権の態度からは距離を置いている。

トランプの外交政策によって核拡散の領域への歪んだ動機の長いリストが更に書き加えられることになる。アメリカが2003年にイラクに侵攻した時、サダム・フセインが大量破壊兵器を隠し持っているという前提だったことを考えてほしい。結局フセインは大量破壊兵器を隠してはいなかった。フセインが殺された時、ジョージ・W・ブッシュが言うところの悪の枢軸の他の二カ国、イランと北朝鮮は政権交代を機に核武装しないことがアメリカに対して脆弱になると結論づけたようだ。この結論は2011年にその8年前に核プログラムを放棄したカダフィ大佐を失脚させることにアメリカが協力したことによって更に強化されることになる。

北朝鮮の金正恩はカダフィ大佐が反政府軍の戦闘員の手によって処刑された数週間後に権力の座についている、このことは疑いようもなく彼の外交政策に影響を与えている。トランプの脅しは金正恩を後退させることよりも、金正恩自身の命と政権の命運は核兵器に依存していることをますます明らかにしている。過酷な経済制裁を課しても彼の気持ちを変えることはできないだろう。金正恩は権力の座を維持するためにあらゆるものが困窮している北朝鮮の人々を服従させようとしている。

もちろん北朝鮮とイランでは明らかな違いがある。最も明らかな違いはイランは核開発をまだスタートしていないということで、一方の北朝鮮はイランとは違い核不拡散条約にも参加しておらず、既に60の核弾頭を所持していると考えられ、核兵器搭載可能なアメリカ本土まで届く大陸間弾道ミサイルを開発しているところのようである。簡単に言えば、北朝鮮に絡んだ軍事衝突はその場で世界的なリスクを生ぜしめるということだ。

トランプは北朝鮮に対する圧力を強めることが金正恩と交渉の席に着くことを妨げるものではないということを認識し始めたかもしれない。実際のところ圧力と交渉の両方を組み合わせる方法がもっとも賢明な策であろう。

しかし外交的解決の機会を与えるにはトランプは扇動的なレトリックと過激主義的な立場をとることを止め、中国の習近平と建設的に連携する必要がある。最近、中国共産党第十九回全国代表大会で権力を強化した習近平は国際問題の解決においても積極的な役割を担いたいだろう。優れた世界的なリーダーは、状況によっては、あえて同盟国に立ち向かい、敵国に対して手を差し伸べることもできなければならない。

北朝鮮の脅威を確実に抑制する戦略を見つけることは、韓国と日本が核武装国に加わるような残念な選択をしないようにする唯一の方法である。ウォルツは核兵器は拡散する傾向にあると述べた。しかしそれは私たちが核拡散について諦めるべきだという意味ではないし、ましてや核兵器の破壊的な能力を軽視するべきではない。国際安全保障はJCPOAのような外交努力の成功例を保つことに依る、それは負の伝染を避け、敵意と分断の危険なスパイラルをきっぱりと終わりにするために不可欠なことである。


ハビエル・ソラナは欧州連合外務・安全保障政策上級代表、NATO事務総長、スペイン外務大臣を歴任。彼は現在ESADEセンター代表、ブルッキングス研究所名誉フェロー、世界経済フォーラムのメンバーである。

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