2018年3月7日水曜日

イタリア人にベルルスコーニとポピュリズム気運の高まりについて聞いた


今回の選挙の結果で、失脚していた三度の首相経験者がまた関わってくる。


Eve Peyser
Mar 7 2018, 6:56am

アメリカの政治機構はドナルド・トランプとその周辺とでおかしなことになっているようだが、アメリカは公職に明らかに相応しくない人物が支配的地位についている唯一の国ではない。イタリアでは過去三度首相の地位についたシルビオ・ベルルスコーニがまたしても政治家として復権しようとしている。彼は金銭と性的スキャンダル両方に長いリストを持ち、実際に有罪判決も受け、法的に2019年まで公職に就くことができないにも関わらずのことだ。日曜日の選挙で14%の支持を得た中道右派政党「フォルツァ・イタリア」の党首であるベルルスコーニは、連立政権を掌握すると火曜日には述べている。しかし、今回のポピュリズムが支配した選挙結果はイタリアの新聞ラ・スタンパが「制御不能なイタリア」と表現するほどに深く分裂した結果をもたらした。

ベルルスコーニと彼の仲間で更に右傾化する排外主義者たちとは別に、多くの選挙区で勝利したポピュリズム政党はイデオロギー的にはスティーブ・バノンとバーニー・サンダースの間のどこかに位置するものだ。ワシントン・ポスト紙は「2つの既存政党を合わせて、かろうじて五つ星運動の得票数をなんとか上回った。五つ星運動はインターネットを基盤にコメディアンによって設立された政党で、政治的な右派左派両端から投票者を奪い取った。10年前には存在すらしていなかった」と伝えた。

今この瞬間イタリアでは何が起きているのだろう、これはアメリカのトランプによる混乱を映し出したものだろうか?私はイタリア人の同僚、VICEイタリアの編集者であるレオナルド・ビアンキを捕まえて何が起こっているのか探った。


イヴ・ペイザー:ベルルスコーニはこの復活をどうやって成し遂げたのでしょうか?

レオナルド・ビアンキ:実際には彼が復活したわけではないのです。全く逆で今回の選挙で彼は最大の敗者の1人です。彼の政党、フォルツァ・イタリアはたったの14%しか得票していません。それに彼はもはやイタリア中道右派の最大権力者ではありません。右派排外主義の同盟(かつては北部同盟と呼ばれていた)が17%の支持を得ており、今はそのリーダーであるマッテオ・サルヴィーニが中道右派連合の真のリーダーでしょう。

選挙を通してベルルスコーニは大変老けて見えました(実際老けてるわけですが)、疲れていて調子も悪そうでした。私は彼が多少の支持をまだ受けているとしても、実際イタリア人は彼に対して辟易しているのだと思います。私は第一線への「ベルルスコーニの復活」が実際には存在していないのだと確信しています。これはベルルスコーニが不滅だというよくあるメディアのお話でしかありません。むしろ彼は不滅ではないということが今回の選挙で証明されたと思います。

あなたはベルルスコーニはイタリアのドナルド・トランプだと思いますか?似た点はあるでしょうか?

私はドナルド・トランプがアメリカのベルルスコーニなのだと思いますね、ベルルスコーニの方が先でしたから!イタリアからトランプの隆盛を見ていたら既視感に襲われました。この2人は明らかな共通点を持っています。両者とも億万長者で、メディア操作の名人で、性差別的で、本当の政治的な手腕は備えていない。そしてジャーナリストのアレクサンダー・スティールによれば「自己破滅の傾向がある」とのことです。

共通点はここまでです。ベルルスコーニとトランプを生み出したイタリアとアメリカの政治機構はかなり異なっているからです。例えば、ベルルスコーニが1994年に首相に就任したのは彼が彼の会社と、もちろん自分自身とを犯罪捜査や裁判から逃れさせる必要があったからです。そのためには彼自身の新しい政党が必要だったのです。

彼らの違いはどんなところでしょうか?

ベルルスコーニの方がトランプに比べると暴力的な修辞は少ないですね。彼の長年の合言葉は「愛は常に妬みと嫌悪に勝つ」というものです。経済的な保護主義についての意見も多くは言いませんし、トランプよりも国家主義者色も薄いと思います。彼は決して「イタリアを再び偉大な国にする」などとは約束しませんでした。一般的に見てベルルスコーニの方がトランプよりも穏健であると言えるでしょう。それからベルルスコーニは髪の毛の問題を頭の上からコンクリートを注いで解決しているのも違いますね。

多くのイタリア人が彼のスキャンダルを気にしていないように見えるのはなぜでしょうか?

彼の権力の大きさです、彼は基本的にイタリアのほとんど全てのメディアを所有していました。彼自身のテレビ局と政府の放送局Raiです。公衆の大部分は彼が「共産主義者」の裁判官と彼の富と成功を妬まれたことで政治的に迫害されたのだと信じていました。もちろんそれは真実ではないわけですが、申し上げているようにベルルスコーニはメディア操作と政治的に生き残ることに長けているのです。

しかし一方ではベルルスコーニに対する激しい抗議があったということを言っておかなければならないでしょう。そして結局イタリア人は20年も引き摺られた司法問題に疲れ切ってしまったのです。彼のセックススキャンダル(悪名高い「ブンガブンガ」パーティー)によってカソリック系の票は離れていきました、この件は彼の没落に大きな役割を果たしていたと私は思っています。

彼のセックススキャンダルと性的暴行で告訴されたことについて聞きたいと思っていました。2015年にベルルスコーニの「ブンガブンガ」パーティーでの売春事件で証言した、アムブラ・バッタリア・グティエレスさんという女性がハーヴェイ・ワインスタインを暴行で訴えています。また、イタリアの女優でディレクターのアシア・アルジェントもワインスタインに対する多くの告発者のうちの1人です。ワインスタイン事件とベルルスコーニの繋がりはイタリアでは反響がありましたか?

ベルルスコーニのセックススキャンダルと性的暴行で告訴されたことはイタリアではよく知られていて、そのことで彼の評判も支持率も完全に失墜しています。彼のここ十年の政治的な没落は、色々ある中でもフェミニストたちが始めた「Se non ora quando,(今じゃないなら、いつ)」運動の高まりが引き起こしたものです。「ベルルスコーニスモ」はイタリアのフェミニズム運動が1990年代に突然停止した主要な原因の1つと考えられています。

しかし、ワインスタインスキャンダルについてイタリアでは大きな反響はありません。#MeToo やスキャンダルの余波が実際に影響を与えているのは都会の若い女性たちだけです。イタリアの既成メディアのジャーナリストたちの多くがアシア・アルジェントを公然と「売春婦」呼ばわりしています、このことがすべてを物語っています。

イタリアの中道及び左派勢力は選挙の結果によってどのような警告を受けたのでしょうか?

言うべきことがたくさんあります。イタリア民主党は歴史的な低支持(投票の18%)で深刻に存在の危機に瀕しています。内紛と分裂で最期を遂げることになるかもしれません。(前首相の)マッテオ・レンツィは4年前は欧州の民主党を代表する存在でしたが、昨日党指導部を辞任し彼の政治生命は窮地に立たされています。左派政党は更に悪い状況です。元民主党の党員が創設した Liberi e Uquali(自由と平等)は3.3%の得票で、議会に参加できる線をわずかに上回りました。イタリアの左派は良くなる見込みのない状況です。

ポピュリスト政党、五つ星運動についてはどうでしょうか?

五つ星運動が今回の選挙の真の勝者です。彼らは32%の得票率で抜きん出ています。彼らは厳密な意味で進歩主義でも左派政党でもありません。約10年前にこの政党を設立したコメディアンのベッペ・グリッロは彼らは左翼でも右翼でもなく、伝統的な政治的断層を「超越」したものだと常に言っていました。他のポピュリズム運動と同じように、彼らは社会を分かれて対立する2つのグループに分断しています、「人々」と「堕落したエリート(la casta)」とにです。彼らは自分たちを「人々」の真の声であると表現して、この15年間イタリアに蔓延してきた反既成組織の感情を彼らの得票のために利用しているのです。

その上で、彼らは移民に対する厳しい姿勢と左派の社会経済的な政策とを組み合わせています。彼らのベーシックインカム「reddito di cittadinanza」のような形にです。これが私が彼らを「なんでもあり政党」になってしまった「中道」ポピュリズム運動だと呼ぶ理由です。

イタリアの右翼政党には正確にファシストと表現されるものは存在していますか?

確かにありますが、小規模なものです。私は2003年に創設されたネオ・ファシスト運動 CasaPound が伝統的なファシズムの真の「継承者」であると常々言っています。この過激派集団は自分たちを「第三ミレニアルファシスト」と定義付けています。CasaPound は社会的でメディアにも通じたネオ・ファシスト運動でオルタナ右翼とも少し似ていますが、メディアの注目を集めている割には選挙では酷い出来で0.8%の得票率しかありませんでした。

イタリアの反EU、反エリート感情をイギリスのEU離脱と比較することは理に適っていますか?そうではなく固有のものでしょうか?

明らかに西洋のリベラル民主主義には共通の傾向がありますから、比較できる話でしょう。しかし同時にイタリア特有でもあります。欧州の中でイタリアは常に一種の政治ラポとして機能してきました。私たちはファシズムを発明し、第二次世界大戦直後には独自ブランドのポピュリズム Common’s Man Front を発達させました。

90年代の初めには「マーニ・プリーテ」(清廉な手)司法調査が第一共和政と呼ばれるものの崩壊と多くの政治政党の消滅を促しました。反エリート反政治家感情はその時以来ずっと優勢な感情で、今では実質的に全ての政治政党が「反政党」の政党になっています。私は2018年の選挙があらゆる合理的な疑義を超えてしまっていることを証明したのだと考えています。

ル・ペンやトランプのような人物が首相になることを恐れていますか?

恐れてはいません、それはビザンティン選挙法のおかげです。単独過半数の取れない政党の政府でイタリアで最もル・ペンに近い政治家であるマッテオ・シルヴィーニのような人物が首相になる可能性は非常に低いのです。今の段階ではまだはっきりはしていませんが、次期政権はおそらく選挙前の政権と同じような連立政権になるでしょう。しかし、次の政権が失敗した場合、イタリアの政治に更に強力な極右勢力が入り込んでくる隙間を与えてしまうことを私は懸念しています。

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