2018年1月1日月曜日

カタルーニャ危機は今始まったところだ


スペインの首相はカタルーニャに対し強硬手段に出て失敗した。この結果は膠着状態を長期化させる。


Foreign Policy
RICARD GONZALEZ
DECEMBER 27, 2017

2017年の10月以来カタルーニャ全土で街灯、橋、建物などが黄色のリボンで彩られている。これはクリスマスの伝統ではなく、2ヶ月間近く勾留されている2人の独立派の政治家と2人のよく知られた活動家に対する連帯の意志を表すものだ。黄色は10月にスペインからの独立を試みて失敗したカタルーニャ自治州でスペインに対する抵抗を表す色となった。そしてこの抵抗の精神は先週(2017年12月21日)の選挙結果にも現れている。

スペインの首相マリアノ・ラホイは10月1日にカタルーニャ州政府が独自に独立投票を実施した後に、カタルーニャ州議会選挙を指示した。マドリードのスペイン政府は独立派が圧倒的多数を占めた独立住民投票は無効であると宣言していた。スペイン政府は武装警察に住民投票の投票所を襲撃させ投票箱を没収した、そしてその後に新たに「適法な」選挙を実施したのである。ラホイはスペインの中央政府によって制裁を課されている独立派の政党をこの選挙で破ることでカタルーニャ州の混乱を解決することを狙っていた、しかし彼は間違っていたのだった。

五分五分の情勢の中、12月21日の州議会選挙では3つの独立派の政党が投票率約80%の選挙で約48%の支持を受けて勝利したのだった、これによって彼らはカタルーニャ州議会の絶対多数を維持することが許されたのだった。この結果はラホイにとっては顔面を張られたようなものだ。おまけに怪我までしてしまったようなもので、彼の政党である国民党は135議席のうち4議席しか確保できず、カタルーニャ州から消えかかってしまった。彼のスペイン右派のライバルである政党シウダダノスが36議席を確保したのだった、この結果は数年前には想像もできなかったものだ。

この選挙結果以降、スペインの国家主義者系のマスコミ関係者たちはラホイに対して辛辣になっている。10月末にカタルーニャ州の自治権を停止して数時間後に州議会解散総選挙を命じたことが失敗だったというのが彼らの論調だ。しかしながらその時点でラホイにとっては他に選択肢はなかった。スペイン国家主義者の強硬派が求めるようにカタルーニャ州の自治権停止をそのまま継続させていたら内戦に繋がりかねなかったからだ。

不公平な財政政策やカタルーニャ人の国民性の認識の欠如からくるカタルーニャ州政府の不満に対応することをスペイン首相が怠っていたことで、ずっと前からあった失策が最近の全ての失敗に繋がったというのが実際のところだ。ラホイは、独立機運は高まっても最終的には収縮するものなので譲歩する必要はないという「スフレ理論」と呼ばれるものを長い間信じていたようだ。振り返ってみると、2012年のスペインの景気後退と連動して独立機運は突然に高まったが、経済が復調に向かうと同時に自然に弱まっていった。しかしこの軋轢はもっと深いところにある、そもそも大本のきっかけは10年前にカタルーニャ州の自治権拡大の手続きが不調に終わったことにある。2000年代の半ば、新たな自治州法について話し合われていた時、ラホイの国民党はこの法律の制定に対し強力な抵抗運動を実施してカタルーニャ製品のボイコットまで引き起こし、多くのカタルーニャ人を苛立たせた。この法律は一度はカタルーニャとスペインの両方で議会を通過したものの、スペイン憲法裁判所はカタルーニャを「国家」と認識している部分など、いくつかの主だった条項を破棄したのだった。

ラホイは、カタルーニャ州の独立機運が今だに消え去ってはいないということが明らかになるとカタルーニャ州政府を無視することを選択しスペイン国家の権威に抗う訴えは司法制度によって対応させることにした。この方針の結果、追放されたカタルーニャ州首相であるカルレス・プチデモンは現在ブリュッセルにいることになり、副首相だったオリオル・ジュンケラスは収監されているのだ。彼らはなんの暴力も用いていないにも関わらず30年の刑を受ける可能性に直面している。100人を超える権威あるスペインの法律家が「扇動」と「反逆」で彼らを告発することは事実無根であると声明を出していて、カタルーニャ人の多くは彼らを政治犯であると考えている。しかしラホイは政治的な問題を政治的に解決することを模索することの代わりに軋轢を悪化させ、これを「法と秩序」の問題として扱った。カタルーニャの問題を司法に下請けに出してしまったことで、彼は今この問題についての統制権を失う危険性に陥っている。

分離独立論者の政治家たちも批判を免れない。カタルーニャ政府の最大の失策はわずか43%の投票率の住民投票の結果を受けて独立を宣言しようとしたことだ。スペイン警察が有権者を容赦なく抑圧するようなことがなければ、投票率はもっと高かったはずだという議論がこのバカげた独立宣言への動きを法的に正当化することにはならない。この一方的な独立宣言の結果として、新しい「共和国」を認めた国は1つもなく、自治権は停止され、カタルーニャ社会は独立派と反独立派に分断されてしまったのだ。

自己批判が殆ど見られないこの一連の出来事の中で、選挙期間中にカタルーニャ独立派の政治家からはいくつか失敗を認める動きもあった。「カタルーニャ政府は独立を強行する準備はできていなかった」とクララ・ポンサティ前州教育大臣はブリュッセイルからの声明で述べている。2つの独立派政党の連合、ジュンツ・パル・カタルーニャとカタルーニャ共和主義左翼は合わせて66議席を獲得し新州政府を形成することになるが、彼らは党の公約としてマドリードとの交渉の必要性を認識し、現在の軋轢を解決するための一方的な考えは否定するとしている。

これは緊張感を落ち着かせてくれる可能性のある好ましい前進ではあるが、両者の真剣な対話については不確定なままだ。まず世論調査ではシウダダノスの躍進が1980年代の後半から続いているラホイの国民党によるスペイン右派の支配を脅かそうとしていて、おそらく国家主義政党同士での競争に繋がるだろう。実際シウダダノスの総裁アルベール・リヴェラは既に独立派への対応が甘すぎるとしてラホイを非難している。反カタルーニャ感情を高揚させることはスペインの右翼政党としては常に成功する選挙戦略であり、彼らが今になってこのことを止めるとは考えられない。

予測できる範囲で最もありそうな今後のシナリオはこの軋轢が固定されてしまうことだ。両者とも「勝つ」ことはできないようだし、マドリードはEUによるいかなる調停案も拒否している。過去にカナダとイギリスはスペインとは異なる方法を取った。この両国ではケベック州とスコットランドに独立するかどうかを決定する住民投票を実施させている。そしてこの両方のケースで独立派が敗れ最終的に緊張感は和らいでいった。マドリードもカタルーニャに対し財政面と政治面で自治権についていくらかの譲歩を示せばこれらのケースと同様に選挙で勝つことができるだろう。しかしラホイは法が禁じていることを強調し、そうした選挙が実施される可能性についてすら協議を拒否している。しかしもしスペイン政府がこの問題に真剣に取り組みさえすれば、こうした選挙を認めるように憲法を改正することはそう難しいことではないはずだ。

別な長期的な解決策としてはスペインが国内の全ての少数民族の存在を認めた完全な連邦国家になることだ。住民投票とは違い、この変化なら勝者も敗者も作り出すことがない。非公式な会話の中では何人かのカタルーニャの独立派の政治家は連邦化を妥協案として受け入れることができるとしている。しかしながらスペイン政府側の政治家たちにはどうやらその準備はないようだ。連邦化となればスペイン国家自身が過去3世紀に渡って作り上げてきた方法論を考え直すことを強いられることになる。連邦国家は過去適切に機能していたことがある。カスティーリャのイザベル女王とアラゴンのフェルナンド国王が15世紀末に結婚したことに始まって18世紀初めのスペイン継承戦争まで続いたカタルーニャとスペインの間の取り決めがそれだ。

これまでのところスペイン政府は「カタルーニャ問題」にそこまで高い代償を払ってまで終わらせる必要があるとは見ていないようだ。スペインの政治家や学識者の多くはカタルーニャでの軋轢を慢性痛のようなものだと考えていて命に関わる難病とは考えていない、つまり本当に国家の統一を脅かすようなものだとは考えていないのだ。カタルーニャ社会の両極化から考えれば今のところ彼らの考えは正しいようである。

しかしもしスペイン政府が根本的な改善策を提示しないでその場しのぎの鎮痛剤に頼り続けるならば、カタルーニャの独立は長期的に見て否定できないものになり得る。世論調査によれば、独立を求めているおおよそ50%の人たちに加えて、20%の人が自治権の強化を求めている。つまりこれを合わせれば明らかな多数派が現状に抗っていることになる。さらに独立への支持は高齢の有権者の中で非常に弱い、これはおそらく彼らの多くがスペインの他の地域で生まれて1960年代カタルーニャが好景気だった時代に移民してきた人たちだからである。それ故に今後20年の世代交代で独立への支持が単純に上昇する可能性がある。

しかし現在ラホイ首相と彼のライバルたちにとっては、2040年までに登場しそうな仮定の脅威の発生よりも緊急に心配するべきことがある。スペインは現在少数与党により率いられていて、近く解散総選挙となる可能性が非常に高い。そうしたこともあり、カタルーニャとスペインの間の軋轢には終わりが見えてこない。

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