2018年1月26日金曜日

白バラは散らず



改訳版 白バラは散らず
ドイツの良心 ショル兄妹

インゲ・ショル著 内垣啓一訳

私が手に取ったものは1967年12月10日発行の第三刷でカバーはなく、上の表紙の写真は全部読んだ後にアマゾンで初めて見た。この表紙のゾフィーの写真は訳者の記すところによると著者から直接送って貰ったもので、訳者が台本とした(ドイツ語の)本にはなかったものだそうである。なんとも言えない美しい写真でこの少女が21歳にして反政府のビラを撒いたことで断頭台に送られて処刑されたと考えただけで胸が痛む。

この本は、著者のインゲ・ショルの弟ハンス・ショル(享年24)と妹ゾフィー・ショル(享年21)が白バラ抵抗運動と呼ばれるナチス時代のドイツ国内でナチスに抵抗を呼びかける運動を起こし、最終的に逮捕されて死刑に処せられるまでを姉の目から綴ったものである。巻末には彼らが抵抗運動に際し作成した「白バラ通信」及び「ビラ」の訳も付いている。

著者は姉ではあるのだが、決して感情的に書いてあるわけではなく、むしろ淡々と見聞きしたことを書いているように読める。著者の姉も含めて極めて素朴な望みを持った家族という印象である。父親はもともとナチスについて疑問を持っているのだが、子供たちは育っていく中で必ずしもそれに従おうとしなかった、というところに興味を惹かれた。子供たちも結局は自らの考えでナチスからは離れていく。

ハンスは医学生であるが、従軍して戦地を経験しており、その中で見た光景によってこの運動に駆り立てられたという部分もあるだろう。逆に言うと大半の人たちはその絶望の光景を経験してもまだ政府に反対する気持ちを持つことができなかったのか、表すことができなかった。

ハンスもゾフィーも逮捕され尋問に際しても取り乱すところを見せなかったという。おそらく逮捕されて死刑を前にして動揺するような程度の覚悟では抵抗運動をを試みることはできない状況だったのだ。結局のところ、逮捕されようがされまいが、抵抗に踏み切るには文字通り命を賭ける勇気が必要だったということに他ならない。

ただ彼らの中にどうせ何もしなくても死ぬんだから、というような諦めのようなものは感じられない。何が彼らをここまで突き動かしたのかというと、私にはわかるようでわからない。英雄としてミュンヘンの通りに名前が残っても死んでしまったら何もならないのではないかと思ってしまうのは我ながら情けないとは思うが否めない。

”「『死ぬことなんてなんでもないわ。私たちの行動がなん千人もの心をゆすぶり覚ますんですもの。きっと学生のあいだで反乱が起きるわ』。おおゾフィー、あなたはまだ知らないのだ、人間がどれほど臆病な家畜であるかを。」”

彼らの拠り所となっているのは、素朴なキリスト教の信仰であり、キリスト教的価値観がない私には理解は及ばない。それでも私は人の人生の幸せというのはおそらく持って生まれた使えるものをなるべく多く使い切ることなのだろうと考えているので、その意味で彼らの勇気ある行動は1つの正しい選択だったのかもしれないと思う。訳者は「この本が広く読みつがれることによって、二度と再び白バラを散らせ汚すことがないならば、兄妹の死は決して犬死ではないのである」という。

”スターリングラード惨敗の悲しみとショックは、灰色の無感覚な歩みをひきずる日常に、ふたたびまみれることがあってはならない。それはドイツ人がみな、かかる自殺的戦争を盲目的に受け入れようとしたわけではない、という証拠をちゃんと残すべきなのだ。”

彼らの抵抗は誰かが後押しをしたわけでもなく純粋に自分たちを信じてのことで最後まで全くブレることがなかった。白バラ通信やビラの内容も知己に富んだもので、結局のところこうした優秀な若い世代を政府を批判するという一面で排除してしまわなければ成り立たない国が長続きするはずがないのは当然のことだろう。そこからだけでも学ぶべきことはあると思う。


今年2018年の2月22日で彼らの処刑から75周年である。

2 件のコメント:

  1. 良い報せをありがとうございます。写真もほんとに可愛い写真で、ごく普通の婦人であったことを証明するものです。ショル兄弟の姉のインゲ・ショルさんの文言の中から、二度と再び繰り返してはならない戦争の悲劇だというのは、事実としても、日本人が心に記銘しなければならない言葉です。原子爆弾といい、人間の戦争はどこまで続くのでしょうか。フィリピン・バギオ市の土地から、今これを綴っています。バギオは今豪雨が1週間ほど続いていますが、75年前は、この土地で日比米三軍50万人が三つ巴になって戦った激戦地なのです。こんな豪雨の中で日本軍兵士たちは波頭千里を越えて何の為に戦死しなければならなかったのか、考えない人はいなかったのではないでしょうか。戦争は二度と繰り返してはならないのです。
      世界徴兵拒否ボランティアの会 世話人代表 デドモ・トマス大原邦清

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    1. コメントありがとうございます。特にこの季節は日本人として過去の戦争に向き合って未来を考える必要があると思っています。年々実際に戦争を経験した世代が減っていることに危機感を覚えますが、それはどうしようもないことなので、次の世代がそれぞれに向き合って考えなければなりませんね。

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