2018年1月31日水曜日

切り裂きジャックの手紙はフェイクニュースだったという分析


”切り裂きジャック”の手紙はフェイクニュースだったという可能性を言語学的分析が示している。



Gizmodo
George Dvorsky
30/1/2018

1888年、ロンドンのホワイトチャペルでの凄惨な連続殺人事件の後に、ロンドンの警察とメディアは切り裂きジャックによって書かれたと称する手紙で溢れることになった。マンチェスター大学の研究者はこれらの文章を識別し、このうちの最初の2通が同じ人物によって書かれたと結論付けた。この発見はジャーナリストたちが悪意をもってこの状況を生み出したことを示唆している。

ホワイトチャペルの連続殺人事件が明らかになった時、ロンドンの警察とメディア、そして様々な公的機関が殺人犯人によって書かれたと称する手紙を受け取った。捜査関係者はこれらの手紙を公開することにしたが、それは手紙の模倣を氾濫させ、殺人犯人を有名にすることにしかならなかった。警察とメディアは200以上の切り裂きジャックからの手紙を受け取っているが、その殆どが、全てではないのかもしれないが、完璧な偽物であった。

これらの手紙のどれかが本物の殺人犯人が書いたものであるかどうかは我々が知ることはないだろうが、歴史的な検証からは特に最初期のものはジャーナリストたちが原因となっている可能性が示唆されている。警察当局はトム・バレンという記者を二通の手紙について突き止めていた、その後、フレッド・ベストという名前のジャーナリストが「ビジネスを生かし続けるため」だったとして、手紙の偽装を自白した。このことから確実に最初の一連の手紙は新聞をたくさん売るために記者たちが偽装したものであったと考えられる。更にもっとも象徴的な二通の手紙、「Dear Boss」と呼ばれる初めて”切り裂きジャック”の名前が登場するものと「Saucy Jacky」と呼ばれるハガキは筆跡鑑定を元に同一人物が書いたものと結論付けられている。

デジタル・スカラーシップ・イン・ザ・ヒューマニティーズ誌に掲載された最新の研究ではこれらの手紙の作者について、筆跡と言語学的に一貫した表現からこの説を裏付けている。これら二通の切り裂きジャックからの手紙は実際に同じ人物によって書かれたものであった。このことは重要な事で、それは「Dear Boss」と「Saucy Jacky」とが、また別の切り裂きジャックの文章とされている「Moab and Midian」という手紙によってロンドンのセントラル・ニュース・エージェンシーと関連するという証拠が存在しているからだ。

これらの手紙を同じ作者に結びつけるために、マンチェスター大学の司法言語学者であるアンドレア・ニーニは、例えば「to keep back」(”差し控える”という意味)という動詞のように両方の手紙に現れる言語的構造の特定を行った。ニーニよれば現代の司法言語学の技術を用いてこの歴史的な手紙を分析したのは今回が初めてのことだという。

「『Saucy Jacky』のハガキが受領された時には『Dear Boss』の方は公開されていなかったのですが、これらの文章には繰り返し使われる単語の組み合わせには無関係な文章同士よりもはるかに高い言語学的な共通性があります」とニーニはGizmodoに語ってくれた。「二通の手紙に共通する単語の組み合わせは際立っていて、偶然だけではこのようにはならないでしょう。」

ニーニは他の200通の手紙についても確認している。これらの多くは当時既に見ることができた「Dear Boss」から表現を盗用して悪意の人たちが作り出したものだが、それでもこの研究で明らかにされた言語学的な類似点を持っているものは存在しない。

この研究は殺人犯人をを明らかにするものではないし、手紙の筆者を明らかにするものでもない、しかしこの件はジャーナリストの理論を私たちに示唆している。

「最初期の手紙(『Dear Boss』と『Saucy Jacky』)についてジャーナリストの仕業であることを指摘できる歴史的な証拠が存在します。そして『Moab and Midian』は原本が発見されないか警察に送られているのですが、これについてはセントラル・ニュース・エージェンシーの完全な創作である可能性があるため、もしこれが『Dear Boss』と『Saucy Jacky』と同じ作者であることの言語学的な証拠があれば、そのことが更にこれらをジャーナリストの仕業である説を強化すると言うことができるでしょう」とニーニは言う。「ですが、この結論に至るのは言語学者ではなく歴史学者であるべきです」。

ニーニは歴史学者に任せるべきと結論は留保したものの、彼の論文では初期の二通の手紙と「Moab and Midian」を結びつける証拠として、同じ単語の組み合わせが使われていることが示されている。ニーニはこの類似点は「筆者の関連性について証拠を成り立たせるのに十分な特徴」があると述べている。

しかしながら、仮にこれらがジャーナリストの仕業だったと確認されたとしても、このことはおそらく私たちに殺人犯人そのものについてのことや、そもそも切り裂きジャックが存在したのかどうかについてすら多くを語ってくれるものではない。

「今日に至っても私たちは5つの殺人事件が関連しているのかどうかすら確認できていないのですし、『正規の』切り裂きジャックの殺人であるとされる5つの殺人が同一人物によってなされたものではない可能性についても幾つかの説が存在するのです」とニーニは言う。

この研究に限界があるのは「Dear Boss」を真似して手紙を書こうとした悪意の人物の程度を知ることが不可能だということだ。ニーニはこの質問に応えることは難しいと言い、彼はそうした人々が真似して手紙を書こうとしていたことを前提として研究を続けていると言う。しかしこの件を確実だと言うことはできないため、この研究結果を事実としてそのまま扱うことはできないのだと彼は述べている。

興味深いことに、この新しい研究結果は私たちに現代の出来事についても示唆を与えてくれる。

「切り裂きジャックの物語は、私たちに人々の心理がどう動くのかについて多くのことを教えてくれるので、フェイクニュースの時代により深く調査することは非常に重要なことです」とニーニはGizmodoに語った。「私個人にとっては、これらの手紙が切り裂きジャック本人(彼が存在していればですが)が書いたものであるかどうかよりもニュース・エージェンシーによって創作されたものであるかどうかを解明することの方がずっと興味深いのです。もし創作されたものであることが事実なら、歴史上最も成功した欺瞞の1つということになりますね」。

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