2018年1月21日日曜日

笑顔をくれたロナウジーニョ


彼の素晴らしい才能を私たちは忘れないだろう


The Guardian
Sid Lowe
Wed 17 Jan 2018



ロナウジーニョ、という単語を見ただけであなたは既に笑顔になっているだろう。彼がやってきたこと、それを成し遂げた彼だけのやり方、それを考えたただけで思わず微笑んでしまう。彼の名前を YouTube で検索したら、あなたはきっと再び彼から目が話せなくなってしまう、彼を相手にしてきたデフェンダーたちと同じように。見始めてそう長い時間はかからないうちに、あなたはきっと立ち上がって賞賛を贈りたい気持ちになるに違いない、あのサンティアゴ・ベルナベウでそうなったように。両チームのライバル関係も彼の才能によって負けていることにも関わらず、レアル・マドリードのホームスタジアムでバルセロナの選手であるロナウジーニョへ賞賛が送られた。ディフェンダーのセルヒオ・ラモスがピッチに倒れ込んだ時、観客は立ち上がった。カメラに映し出された北側のスタンドにいた髭とタバコの男性の唇は「なんてことだ、今の見たかよ!」と動いているように見えた。

私たちが知っていることはたくさんある。ロナウジーニョが成し遂げたものは、他の誰も成し遂げていないものだ。そしてそれは彼だけができることだった、彼だけが人々に感じさせることができるものだったのだ。懐かしい思い出がたくさんある、たくさんの出来事があったしたくさん感動させてもらった。ロナウジーニョを見ていると楽しかった、人々はみんな幸せになった。これらのことはすべておそらくごく簡単な2つの言葉で言い表すことができる、子供っぽいと言われるかもしれないが、これ以上に適切な言葉はないだろう、フットボールの本質というのは「幸せ」と「楽しさ」なのだ。

そして時に面白おかしいこともある。

ロナウジーニョのように試合を楽しいものにしてくれる選手はいなかった、それはおそらく彼がまさにゲームを楽しんで遊んでいたからということもあっただろう。「ボールが大好きなんだ」と彼は常に言っていた。あるコーチは彼にこれではフットボール選手として一流にはなれないと変わるように指導をしたこともあったというが、そのコーチは間違っていた。なぜなら彼は遊んでいたからこそ、楽しんでいたからこそ成功できたのだ。ロナウジーニョのにっこり笑う笑顔は、リーグ優勝した時、チャンピオンズリーグで優勝した時、ワールドカップで優勝した時、そしてバロンドールを受賞した時だけそこにあったのではなく、そこに至る間にいつもあったのだ。そしてそれは周りに伝わりやすいものだった。「彼は私たちの歴史を変えたのです」とバルセロナのミッドフィルダーだったチャビは話す。

ある時レアル・マドリードのディレクターがマドリードがロナウジーニョと契約しなかったのは彼が「不細工すぎ」てブランドイメージを「損なう」からだと言及したことがあった。彼は「ベッカムのおかげで、すべての人が我々と繋がりたがっている」とも発言していた。この人もまた間違っていたのだ。すべての人はロナウジーニョを抱きしめたくなり、彼の存在を楽しんでいた。長いツヤのある髪と出っ歯の笑顔で、サーファーが「波」を示してするように親指と小指を立てて振る彼の姿はバルセロナ復活を象徴するものとなり、ファッションとしてデザインされグッズショップで売られることにもなった。

ジョゴ・ボニート(美しいゲームというポルトガル語)を体現する存在として、ロナウジーニョを中心に広告キャンペーンが行われた。彼自身は確かに美しいというわけではなかったかもしれないが、彼の試合は誰のものよりも魅力的だった、マドリードはマーケティングの夢を掴み損ねたのだ。またロナウジーニョはアニメのキャラクターにもなっている、彼の存在から「バルサトゥーンズ」というものが作られた。そのスペイン語版ではロナウジーニョを模したキャラクターが、ひたすら笑顔で「フィエスタ!(パーティー)」という言葉を繰り返していた。ロナウジーニョ本人も「フィエスタ」が大好きである。

表現の幅を広げることはピッチ上でも同じだった、「選手はボールを持った時、自由になる」とロナウジーニョは、若い時の自分へ宛てた手紙という企画で書いている、そして「創造力は計算を超える」という言葉を何度も繰り返している。「音楽を聞くことと似ている。この感覚によって人へ喜びが広がっていく。フットボールが楽しいから笑顔でいる。なぜ難しい顔をする必要がある?目的は喜びを皆に与えることなのに」。ロナウジーニョはこの考え方を父親から学んだという、造船業者で週末にはグレミオのグラウンドで働いていた父親に子供だったロナウジーニョはそこでプレーするように言われた。彼の兄であるロベルトもグレミオの選手だった。そこでボムボムという名前の犬とも一緒に練習し成長したのだった。

ロナウジーニョにとって常に兄が目標だったが、彼自身が兄より上手くなってその時は終わる。その時には彼は誰よりも上手くなっていた。ロナウジーニョが頂点にいた時間は十分に長かったわけではないかもしれないが、彼は今まで誰も見せたことがないことをして見せたために、彼のスキルの多くはそれを思い出そうとすると私たちにはその時の感情までも蘇ってくるのだ。「彼の足の動きは物凄く早くて0.5秒の間に4回はボールに触ることができた。彼がやってることを私がやろうとしたら怪我をしてしまうだろうね」とフィリップ・コクーは語っている。

約3年の間、私たちは誰もがロナウジーニョを見て、叫んだり、黙ったり、口を開けたままになったり、笑いが止まらなくなったりすることに抗うことができなかった。ヒールパス、跨ぎフェイント、しなる足首、力強さ、緩急、ノールックパス。背中でパスを出したなんてこともあった。壁を超えて落ちてくるフリーキック、転がして壁の下を通すフリーキック。股抜き、ループ、オーバーヘッド… なんでもありだった。

ロナウジーニョが出演したCMでこんなものがあった。彼はペナルティエリアの端で新しいシューズを履いてボールを空中に蹴り上げ、そのままリフティングしながら歩いて行く。ペナルティエリアの周りを少し歩いたところで、彼はボールをゴールに向かってボレーで蹴り込む。ボールはクロスバーに当たり彼のところに戻ってくる、彼はそれを胸で受け止め、ゴールに向かって再びボレーで蹴る。再度ボールはクロスバーに当たり戻ってくる。彼は再度ボールを下に落とさずにコントロールしてゴールに向けて三たびボレーで蹴る。三度目もガンという音と共にボールは戻ってくる。最初に蹴り上げてから一度もボールを下に落とさずにこれをやって見せる、笑顔で。このシューズには「happiness」という刺繍がしてあった。



これは極めて驚くべきもので、特撮か編集かだろう、そうでないわけがない。議論はあったが、ロナウジーニョの尺度は別なところにある。平然とやって見せたこんな芸当が本物であるかもしれないと誰もが信じ始めたこと自体が全てを語っていた、ロナウジーニョだけがそういう存在だったのだ。このCMは実際ではなかっただろうが、ベルナベウで賞賛を受けたのは本当にあったことだ。深夜1時20分にセビージャを相手にクロスバーを直撃してそのままゴールになった稲妻のような一撃もあった。CLでミラン相手に決めたゴールもあった。チェルシー戦でつま先で決めたゴールもあった、「まるで誰かが3秒間一時停止ボタンを押したような感じで回りの選手が止まっていた、僕だけが動いていた」と彼は振り返っている。 

ブラジルのレジェンドであるトスタンは次のように語っている「ロナウジーニョはリベリーノのドリブルの技術、ジェルソンの視野の広さ、ガリンシャの精神と楽しさ、ジャイルジーニョの緩急、技術、パワー、ジーコのテクニック、ロマーリオの創造性を持ち合わせている」。そして何よりもロナウジーニョは特別な能力を持っていた、彼はみんなを笑顔にすることができた。

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