2018年11月17日土曜日

エジプトの性暴力と国家的抑圧


性暴力に対する不満を語ったアマル・ファシーは逮捕されて刑務所にいる。彼女にまつわる話から見えるエジプトの国家による抑圧と蔓延する性暴力。


The Conversation
Scott Lucas, Giovanni Piazzese
November 16, 2018

彼らは深夜にやってきた。2018年5月11日の午前2:30頃、アマル・ファシーと彼女の夫モハメド・ロトフィ、そして3歳になる子供はエジプトの警備隊員に目を覚まさせられた。7人の武装した特殊部隊の隊員と2人の制服の政府職員が彼らの家に数時間に渡って踏み込んだのだった。

その2日前に元女優でファッションモデルでもあったアマルは、自分が受けたセクシャル・ハラスメントについての怒りをFacebookに動画で投稿していた。12分間のこの動画で、アマルはタクシー運転手が彼女の体を触ってきたこと、銀行の警備員が彼女の股間に手を伸ばしながら言葉で侮辱してきたことを嘆いていた。



アマルと夫と子供はカイロのマーディ地区にある地元の警察署に連れて行かれた。数時間後に夫のモハメドと子供は解放されたがアマルはそのまま勾留された。モハメドは8月に次のように記している:

エジプトにも世界中にも性暴力が蔓延しているのは誰もが知っていることです。しかし、エジプトではあまりにも日常的になっているために誰も訴えようとしないのです。

こうした暴力を拒否する人は、変わった人として扱われてしまう。それがアマルに起こったことだった。彼女は立ち向かうことを決断して自分の経験を広く知らしめようとした、そして彼女は今そのことによって刑罰を受けている。


訴追


アマルは事実に反するニュースを放送し国家の安全に影響を与えたこと、そして不適切な衣服を所有していた廉で起訴された。しかし、当局にとってはこれで十分ではなかった。逮捕されてから2日後、アマルは国の治安当局からテロリストグループに所属しているとして訴追されたのだった。

9月29日、アマルは最初の訴えについて2年間の自由刑と1万エジプト・ポンド(約560ドル)の罰金刑を言い渡された。彼女は上訴中に刑の執行を停止させるために2万エジプト・ポンド(約1120ドル)の保釈金を支払ったが、未だ勾留されたままで2つ目の訴えについての裁判を待っている。

元エジプト国軍総司令官だったアブドルファッターフ・アッ=シーシーは2013年にクーデターを起こし、2014年に大統領に選出され2018年に再選されている。彼の治世下ではインターネットの利用は制限され、監視され、しばしば刑罰の対象になる。2011年にはエジプトで市民による抗議運動の広がりに貢献したウェブは両刃の剣となり、エジプトの警察と治安当局が政敵を特定し抑圧するために使われるようになっている。

シーシーは市民社会組織と一般市民を支配することに執着している。6月5日にはインターネット検閲が合法化され、当局によるウェブサイトのブロッキングを可能にし、違反者には多額の罰金と拘束を可能にする法律を制定している。

この「サイバー犯罪」法では、国家の安全保障や経済に脅威を与えると見做されたものはいつでも、警察等の調査当局にウェブサイトをブロッキングする権限が与えられる。インターネットサービスプロバイダはブロッキングの命令を受け取ったらすぐに実行しなければならず、司法の判断を仰ぐ前に治安当局がウェブサイトを停止することが可能になっている。


監視国家


この新しい法律でコミュニケーションの包括的な監視が確立される。通信に関わる会社は利用者のデータを180日間保管しておく必要があり、プロバイダは音声通話、テキストメッセージ、ウェブの閲覧履歴、スマートフォンとパソコンのアプリケーショの利用履歴を含む利用者の通信に関する情報の詳細を当局に手渡すことが義務付けられている。また、サービスプロバイダは国の治安当局や警察に対し、権限を行使するために必要な技術と施設を提供する義務を負っている。

権利団体によって曖昧過ぎると批判を受けているこの法律では、違反者に29段階の刑があり、5年以内の自由刑と最大2千万エジプトポンド(約112万ドル)の罰金刑を科すことが出来る。それだけではない、6月10日に議会が承認した規定では、個人のウェブサイト、ブログ、あるいは5千人以上のフォロワーを有するオンラインアカウントを持つ全ての個人に対して制裁が課される。これは、誤ったニュース、暴力や憎悪の扇動、差別、不寛容、個人に対する中傷、信仰への侮辱、こうしたものを公開し広めることを禁止する。

国際人権連盟による報告によれば、この法律は「最も基本的な自由を抑圧することを目的としているだけでなく、この法の執行に関与する様々な治安部隊や諜報機関の完全な免責を保証する」枠組みの一部になっているという。


全滅のための抑圧


アマル・ファシーはアル・カナターにある女性刑務所で6ヶ月を過ごしている。彼女は頻繁に起こるパニック障害に苦しんでいて、刑務所の医師が彼女に適切な投薬をするまで2週間以上かかり、左足に合併症を抱えている。

アマルの逮捕に掛けられた多くの容疑は、人権団体 Egyptian Commission for Rights and Freedom(ECRF)の代表を務める彼女の夫モハメド・ロトフィに対するメッセージである。ECRFはエジプトの市民たちに法的支援を行っており、この団体による人権侵害についての報告は政権の脅威になっている。2015年からECRFの職員は日常的にエジプトの治安当局から嫌がらせを受けている。ミナ・サベトやアーメド・アブダラ等は数ヶ月間刑務所で過ごすことを余儀なくされ、ロトフィを含む他の人々に対しては渡航禁止措置がとられている。

また、ECRFはエジプトで惨殺されたイタリア人研究者ジュリオ・レジェーニの家族に対する支援も行っている。アマル・ファシーの拘束は、エジプト当局がイタリア検察とレジェーニが最後に目撃された可能性のあるカイロの地下交通システムの映像を巡って交渉している最中に起きたことだった。こうした嫌がらせはエジプトではよく見られるものになっている。

エジプトでは2014年10月以降、7500人の市民が軍事裁判にかけられている。今年5月には何人かの活動家、ブロガー、ジャーナリストが意見を表明したために逮捕されている。ビデオブロガーのシャディ・アブ・ゼイド、自由活動家のシャディ・ガザリ、労働者の権利に関する法律家ハイサム・モハメディーン(10月末に解放)、そして受賞歴のあるジャーナリストでブロガーのワエル・アッバスといった人々である。警察は11月1日に19人の人権擁護者の逮捕に踏み切っている。この中には国家人権委員会の元メンバーであるホダ・アブデルモネイムが含まれている。

こうした拘束はエジプト憲法に反したものだ。憲法は57条で市民のプライバシーの権利と訴追に関する国際的な最低限の手続きを保証している。しかし、これらは氷山の一角に過ぎない。一部の試算によると少なくとも6万人の政治犯が人員過剰になった監獄に閉じ込められているという。エジプト政府は如何なる種類の反対派も全滅させたいと考えているようだ。

こうした環境では、同じ日に2度も嫌がらせを受けたことに対する不満を敢えて表明しようとする女性は簡単に犯罪者にされてしまう。

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