2018年11月4日日曜日

チェルシーが選手指導に利用する人工知能(AI)


解説者たちが「この選手はこうすべきだった」と話していることを AI を使って検証できるようになる


The Conversation
Varuna De Silva
November 3, 2018

最高のフットボール選手というのは必ずしも物理的に最高の技術を持った人というわけではない。フットボールの世界で選手として成功できるかどうかの差は、ピッチ上のほんの一瞬の間に正しい判断ができるかどうかにかかっている場合が多い。何処に走り込むか、どのタイミングでタックルにいくか、パスかシュートか。クラブチームとしては選手たちに体と同じように脳も鍛えてもらいたいが、どうすれば良いのだろう。

私は同僚たちと一緒にチェルシーの下部組織で、こうした「意思決定の技術」を人工知能(AI)を用いて測定するシステムを開発するために働いている。私たちはこの作業を数シーズンに渡るすべての試合で選手たちとボールの動きを追跡したデータを用いて行っていて、プレーするポジション毎のコンピューター・モデルを作り出そうとしている。コンピューター・モデルはそれぞれの選手たちのパフォーマンスを比較するための基準となるものだ。この方法で、私たちは他の選手達の動きからは独立した個々の選手のパフォーマンスが測定できるようになる。

そして、私たちはあらゆる場合に、もし選手たちが異なる判断をした場合には何が起こることになったかを視覚化することを可能にしている。テレビの実況では常に選手の行動が批評の対象にされている。実況席からこの選手はここでこうすべきだったと言われても、その理論を実際に検証する方法は存在しない。しかし、私たちのコンピューター・モデルはこうした提案された理論を現実のように視覚化して魅せることを可能にする。

解説者が、この選手はここではパスではなくドリブルを選択するべきだったと言う場合、私たちのシステムは、その時点でその選手にどの程度疲労が溜まっているかといったような要素を加味した上で、その場合の結果を見せることができる。私たちは、コーチやサポートスタッフたちがこのシステムを利用して選手たちと試合後にプレーを振り返ることで、徐々に意思決定の技術を磨いていくことの助けになってくれることを願っている。


「意思決定」を形成する


数シーズンに渡って意思決定の技術を測定するというのは極めて難しいことである。第一に、試合中に起こっていること全てを追跡するのは人間には不可能であること、そして第二に、1人の選手の行動を他の選手と切り離して考えることは非常に難しいということがある。例えば、ある選手がボールをパスした数秒後にチームがボールを失った場合、この選手は誤ったタイミングで誤った人にパスを出したのか、それとも誰か他の人にミスがあったのか?

この問題に取り組むために、私たちは AI の学習方法の1つである模倣学習(imitation learning)として知られるものを利用した。この技術は、過去の大量のデータを分析してピッチ上のフットボール選手の行動のようなものをコンピューター・モデルが学習するのである。簡単に言うと、コンピューター・モデルが既存の人間の専門家を模倣して学ぶことである。

AI に於ける殆どの意思決定システムというのは、囲碁システムの AlphaGo のように強化学習(reinforcement learning)を土台にして作られている。これはコンピューターが正しいことをしたという返答が得られるまで何度も実行を繰り返して学んでいくものである。これは、私たちが犬を訓練する時に何かご褒美を用意しておくのと似ている。しかし、現実の世界では多くの場合、囲碁で言う勝利のようなわかりやすい報酬があることは殆ど無い。

一方で、模倣学習では、専門家がどのように仕事を実行しているのかを見て、それを模倣しようと試みることで基本的な意思決定の方針を理解しようとする。フットボールの専門家(選手)をコンピューター上で形成することは非常に難しい。彼らは、何に注意を払うのかを選択し、状況に対する適切な反応を選択し、他の選手がしようとしていることを予測している。こうしたことはコンピューターにプログラムするのが困難な高度な意思決定である。

したがって、コンピューター・モデルが現実的なものであるためには、利用する過去のデータができる限り現実の世界を反映したものである必要がある。単に選手たちが他の選手たちとボールとの関係上どのように動いているか、というだけのものではなく、選手たちが疲れている度合いやその試合についての状況を把握したものでなければならない。例えば、選手たちは攻撃に出たいのか、守備を固めたいのか、あるいは、彼らは勝ちたいのか負けたいのか(大会によっては、負けた方が次の対戦相手が簡単になる場合というのが存在する)。


試合後の分析を変える


私たちは既に、選手同士とボールの動きとの関係で理想となるモデルを作り出すことができるシステ雨を作り上げている。これは選手のパフォーマンスを研究することに使うことが可能だ。私たちは、選手の動作、心拍数(疲労の基準になる)、そして試合の状況の詳細をこのモデルに追加することによって、より現実的なものにすることを計画している。そして、私たちは現在の選手たちの技術を測定するシステムを開発する予定で、2年以内に完全に動作させるものを作りたいと考えている。

私たちはこれが、選手や指導者たちが試合の分析、特に自身の試合を試合後に分析する方法に変化を与えることを期待している。選手たちに自身の行動がどの程度の違いをもたらすことができていたのかを見せることができれば、選手たちの成長に効果的な材料になるはずである。スカウト担当者やクラブチームはこうした意思決定の技術に関する重要なデータを利用することで、選手を選択し才能を特定することができるようになる。

AI が囲碁のような制御されたボードゲームの環境から、複雑な実際の世界に拡張していくことは重要な挑戦であり続けている。しかし、人間は複雑に変化する環境に適応して意思決定を行うことに極めて長けている。それ故に、人間の意思決定を模倣して学ぶことで AI は、人間が必ずしも常にルールに従わないような様々な種類の珍しい環境に取り組むことができるようになるはずだ。

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