2018年11月18日日曜日

マッテオ・サルヴィーニの自画撮り政治


極右かどうかは別として、イタリアの副首相はソーシャルメディア戦略によってイタリアで最も人気のある政治家になっている。


Foreign Policy
EMILY SCHULTHEIS
NOVEMBER 16, 2018

イタリアはEUの来年度予算案を巡って注目を集めている渦中にあるが、先週本国イタリアでは全く別のドラマに注目が集まっていた。それは副首相のマッテオ・サルヴィーニがソーシャルメディアで演じたものだった。

「私たちに何かが足りなかったわけではないけど、もっとできることがあったのかもしれない」サルヴィーニが3年間付き合ってきたガールフレンドであるテレビ司会者のエリザ・イゾアルディは Instagram のコメントで2人が破局したことを発表した。「真実の愛を大きく尊重してくれてありがとう、マッテオ」。この詩的なコメントは2人がベッドにいて裸のサルヴィーニが彼女の頬にキスをしているところを撮ったセルフィーの下に付けられている。この写真はすぐさまイタリアのメディア中を駆け巡った。

その日の遅く、極右で反移民の政党「同盟」のリーダーでもあるサルヴィーニは FacebookInstagram で恋人との破局について説明した。彼は笑顔で両腕を広げた自分の写真を載せて、イタリアの人々は彼の私生活を気にしていないと思うが、状況を説明する必要を感じたと書いている。「私は愛していたし寛容でもありました、私も間違いは犯しましたが自分のやり方を信じています」と彼は書いている。「残念ながらそれぞれの優先順位が異なる場合もあるのです」。そしてその夜、彼は Instagram にピンクの花束と共に写ったセルフィーを投稿し、再び自身とイゾルディの破局についてコメントした。「私は確かに悲しんでいますが、不満に思ってはいません」と書いている。

世の殆どの政治家は恋人との破局をソーシャルメディアで嘆いたりはしないし、夕食に食べたラビオリについて議論したり、その晩のテレビ番組について語ったりもしないだろう。しかし45歳のサルヴィーニはそれとは異なる種類の政治家だ。彼は内務省の会議の様子を短い時間中継したり、イタリアに向かっている移民についてネガティブに書かれた記事へのリンクを共有したりする。その場の状況やセルフィーを常に投稿し続けているのは、スマートフォン世代の若者の期待に応えようとしているのかもしれない。

「彼は、法律に則ってイタリアの人々のために懸命に働いていますよ、と言いながら内務省からライブストリームをします。その2時間後は食事に行ってハムとモッツァレラの写真を投稿して、見ている人に『これは好きですか?はい?いいえ?』と質問をします。すると何千人もの人が『はい好きです。食べたいです』『私もです』『おお、あなたは素晴らしい』となるわけです」と、ミラノの新聞 Fatto Quotidiano 紙のジャーナリスト、エレオノラ・ビアンチーニが話してくれた。彼女はサルヴィーニの政党「同盟」についての記事を広範囲に渡って書いている。「そしてその後に、彼は移民たちが法に違反したと言って怒り狂うところに戻るのです」

私生活と政治を取り混ぜることで個人としてのサルヴィーニの価値が押し出され、彼の過激な修辞を柔らかく見せてより親しみやすく見せることに役立っている。このことは党の支持層を勇気づけるだけでなく、彼に対してより懐疑的な有権者たちに対しても効果を発揮している。Demos が今月公開した調査によると、彼は今の政府で最も支持される政治家であり支持率は60%にもなる。

彼のこの戦略の少なくとも一部が貢献した形で、サルヴィーニは「同盟」にこの8ヶ月の間で新たな政治的立場と選挙結果をもたらしている。3月の総選挙で投票の17.4%を獲得して5月下旬にポピュリスト政党である「五つ星運動」と連立政権を樹立して以来、サルヴィーニの「同盟」は支持率をほぼ倍に伸ばし、「五つ星運動」を上回ってイタリアで最も強力な政治政党になっている。

もちろん、この成功にはいくつもの理由が存在する。移民についての問題がイタリアと欧州全体の最優先の政治課題になり続けていることも一因ではあるだろう。しかし、サルヴィーニのメディア戦略も、24時間働き続けるメディアチームの助けもあって、確実な成果を上げている。

「同盟」は他の欧州の右派ポピュリスト政党と同様にソーシャルメディアを積極的に利用している。しかし、サルヴィーニは Facebook で340万人、Twitter と Instagram でそれぞれ90万人以上のフォロワーを持っている。彼は Facebook に通常1日あたり10程度の投稿をしているが、そこには数万の「良いね」と数千のコメントが付けられる。その多くは熱狂的な支持者によるものだ。例えば、今回の破局についての彼の Facebook の投稿には8千以上のコメントが付いている。そのコメントの殆どは連帯の意志を示すものや元気づけようとするものだ。「あなたの本当の恋人はイタリアです。彼女は誠実で感謝の気持ちを持っています!」と1人が書けば、別な人が「元気を出してください。あなたを愛するイタリアのみんなは常にあなたと一緒です」と書いている。

他の欧州各国の「同盟」に相当する右派政党には支持率を高め選挙でより幅広い層にアピールするためにサルヴィーニのやり方を参考にしているところも多い。他国の政治家がサルヴィーニや「同盟」の政治的メッセージを発する手法を真似できるかどうかは、政治家の人格を中心にしてバランスを取れるかどうかに依存しているが、おそらくそれができる人は殆どいない。「同盟」の連立政権の盟友である「五つ星運動」でさえ、党首のルイジ・ディ・マイオ副首相の人格よりも政党としてのアピールの方に集中している。

しかし少なくとも、有権者が政治機構自体を蔑んでいるように見える現在のイタリアでは、政党としてのアピールだけではもはや十分ではないのかもしれない。サルヴィーニの戦略は有権者に政治家も普通の人であることを認識してもらうことに役立っている。イタリアで世論調査機構に勤めるロレンツォ・プレグリアスコは次のように言う。「一方では力強く気丈であり、もう一方では市民に近い共感できる存在であるというのはある種のリーダーシップを示しているのだと思います」

0 件のコメント:

コメントを投稿