2018年11月11日日曜日

アイスランドの開放型刑務所


ある教授によるアイスランドの開放型刑務所の体験 – 彼らはドアに鍵を掛けることもしなかった。


The Conversation
Francis Pakes
November 6, 2018 11.06am GMT

アイスランドはヨーロッパの端にある小さな国で人口は34万人しかいない。そのアイスランドの刑務所も相応に小さなものだ。全部で5ヶ所にしかなく、収監されている人数は200人を下回る。この5つのうち2つが開放型刑務所(open prison)と呼ばれるものである。私は過去にその両方に訪れたことがあり、強い興味を惹かれていてもっとよく知りたいと考えていた。

私はアイスランドの刑務当局にこの2つの開放型刑務所で一週間ずつ過ごさせてくれないか頼んでみたところ、驚くほど快く受け入れてくれた。彼らも国外の研究者が囚人の体で刑務所に入るというこのアイディアを気に入ってくれている印象をうけた。彼らは私のために部屋を開けてくれる約束をしてくれ、私は喜んでわくわくしていた。私はこの両刑務所を囚人として中から体験することになった。この刑務所が落ち着いていて安全であることは知っていたが、そこには深刻な暴力や性犯罪で有罪となった人々が収監されている。壁も塀もない刑務所はどのように運営されているのだろう?

アイスランドの開放型刑務所というの単純に本当に開放されて、警備機能が備わっていないことが際立っている。最初に私が滞在した刑務所はアイスランド西部にある Kvíabryggja 刑務所で、敷地の境界にもほぼ警備システムを持たない場所だったが、近づいてはいけないという標識が出ていた。これは主に観光客に向けたものだ。

私はそのほとんど一軒家のような建物に車で向かった。駐車して中に入り(文字通りドアは開いていた)挨拶した。そこで私はすぐに囚人のうちの1人が用意してくれた夕食を供された。彼は私が訪問することを知って待っていてくれたのだった。私はその週をその場所で囚人として過ごした。


眺めの良い部屋


ここでは囚人と職員たちが様々なことを一緒にやっていることが一見して明らかだった。刑務所では食事が重要視されていて、Kvíabryggja 刑務所では共同のダイニングルームが中央に配置されている。ここで囚人たちは朝、昼、晩と職員と一緒に食事をする。囚人たちが料理をし、彼らは週に一回近所の村の食料品店まで職員に伴われて買い出しにも行く。食事は美味しくて豊富で、囚人のシェフの努力に感謝の意を表さないといけないと思った。そして、食事をしたら後片付けは自分でしなければならない。

共同生活が重視されてはいるが、囚人の部屋は個室になっている。そして、各部屋にはインターネット(制限が付されている)と携帯電話があり、囚人の中には10代の少年のように多くの時間をそこで過ごす者もいる。囚人たちは自分の部屋の鍵を持っているが、鍵が掛けられることは殆どないようだった。このことは Kvíabryggja での生活は信頼に基づいているのだという強力な象徴と言える。私は自分のパスポート、レンタカーのキー、研究のノートを自分の部屋に置いていたので、このことに当初違和感を感じていた。だが結局は周りの囚人たちと同じように鍵は掛けず、寝るときすらも開けたままだった。私は夜は子供のようによく寝て、毎朝自分の部屋の窓から景色を楽しむことができた。羊と草原と頂が雪で覆われた山が見えた。

アイスランドの刑務所に於いてはこの外のスペースも重要なものだ。アイスランドを象徴する山でよく写真にも撮られている Kirkjufell 山が東に大きく広がり、海にも面していて素晴らしいビーチと草原があった。この環境は囚人たちに刑務所の敷地内にいながら、何らかの意味で「離れている」ことを感じさせるものだ。私が聞いたところによると、外への障壁は動物の侵入を妨げるキャトル・グリッドしかないこの場所で、囚人たちは入り口の所まで歩くことを好むという話だった。一歩外に踏み出すだけで、自由を感じる奇妙な感覚があるのだという。


上手く付き合うこと


私が最も驚かされたのは、彼らのやり取りの気楽さだった。私は彼らと一緒にフットボールを見たが、彼らが遠慮したり恥ずかしがったりすることはなく、アイスランド代表がプレーしているのを見た時は性犯罪者もテレビに向かって叫んでいた。麻薬密売人は冗談を言い合っていたし、問題のある薬物使用者が職員と笑って話ているのも見かけた。私は、私自身がこの場所で研究者としても人間としても満足した状態にあることを感じていた。もちろん、全ての刑務所の研究者が経験するように、私も多少からかわれることがあった。しかし、私は多くの囚人や職員の人々と個人的で親密な話すらするようになり仲良くなった。囚人の1人であるピーターが刑期を終えて自由を得て、彼の父親が迎えに到着した時、彼は多くの囚人とスタッフの人々そして私と抱き合って別れの挨拶をしていった。私たちは少し感傷的になったのだった。

もちろん、それでも Kvíabryggja 刑務所は監獄である。多くの囚人たちは欲求不満、怒り、不安、精神衛生に困難を抱え、将来を心配している。しかし、ここの環境は安全で食事は楽しみになるものだ。外部と接触する機会もあり、面会の手配も寛容で、常に聞く耳を持ってくれる。この刑務所が運営されていることは多くの意味がある。

この僻地にある刑務所は、20人弱の囚人にほとんどの時間は3人前後の職員がいるだけの小さな共同体である。囚人たちと職員は狭くて混雑した喫煙所で一緒にタバコを吸うことになる。彼らは上手く付き合っていく必要があるのだ。

こうした普段のやり取りでここの生活は左右される。これは必ずしも楽なことではない。この刑務所に収監されている人たちは極めて多様で、女性、外国人、年金受給者、障害者、が全て混在している。

私が見た限りここでの全体的な友好感は性犯罪者にも向けられている。性犯罪者は普遍的に何処の刑務所でも嫌われるもので、その結果危険な立場に置かれる。その友好感は時々限界に達することもあるが、それでも上手く機能している。どの刑務所にも緊張感はあるものだが、ここの人々は上手くやっているように見えた。

この刑務所の経験から得たことは人々同士が上手く付き合うことの重要性である。これは、毎日誰かが出所し、新しい囚人が入所してくるような大規模で忙しい刑務所に求めるのは困難なことだ。しかし、一般のコミュニティでも人々同士が友好的であれば治安が良くなるのと同様に、刑務所でも中の人々同士のやり取りが友好的で悪意のないものであれば、その刑務所はより好ましい場所になる。囚人と職員たちが場所を共有し、話し合い、コミュニティの感覚を共にする場所になれば、囚人たちがより良い方に変化する機会を大きく広げることができる。

アイスランドの開放型刑務所は極めてユニークなものだ。それはこの国の小ささや人口の少なさによるものかもしないし、自然と身についたほのぼのとした気質によるものかもしれない。あるいは、歴史的に北大西洋の過酷な気象条件で生き残るためにはお互いに助け合う必要があったアイスランドという国を象徴しているものかもしれない。それが何であれ、この静かな僻地の刑務所で、少し奇妙な方法で人々と共に生活することは理に適ったものである。

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