2018年11月19日月曜日

ドナルド・トランプはアメリカの全てなのか


一部のアメリカ人たちの間ではドナルド・トランプはアメリカの価値観を反映した存在ではないという考えが広く受け入れられている。しかし、彼らは間違っている。


Al Jazeera
Hamid Dabashi
15 Nov 2018

2018年11月に行われた米中間選挙の数日前、ニューヨーク・タイムズに思慮深く時宜を得た記事が掲載されていた。コロンビア大学にいる私の優れた同僚アンドリュー・デルバンコが「アメリカの魂のための長い闘い」という手厳しいエッセーを書いていた。

この優れた文章でデルバンコ教授は、民主的に選出されたドナルド・トランプ大統領の冷酷な行動や政策以前に、長いアメリカの歴史の中で人々が苦しんできたことについて、特に奴隷制度に焦点を当てて情熱的に書いている。

私たちはこの文章から学ぶことが多い。「北部の自由な黒人たちであっても、かつて南部で誰かに所有されていたという口実で捕らえられ追放される恐怖に怯えながら生活していた。逃亡奴隷法によって、彼らにとってはドアに近づくあらゆる足音やノックの音が恐怖となった。そして未だ拘束状態にあった何百万もの南部の人々は更に絶望を深めたのだった」

デルバンコはその後のアメリカの歴史で重要な出来事についても記述している。アブラハム・リンカーンが独立宣言の「再採用」を要求したこと、1930年代のニューディール政策、そして奴隷制度の恐るべき過ちを正す試みとしての公民権運動。

彼のこのエッセーと最近の著書を読むと、彼は「アメリカの魂(American Soul)」というのは何か本質的に良いもので、高貴で崇高で美しいものであることが前提であり、それを乗っ取り破壊しようとする暗黒の力が存在すると見ているようだ。

しかしそれでも、デューデリジェンス(適切な注意)と粘り強い闘い、そして神のご加護によって、この前提は続いていく。つまり、アメリカ人はいつかそこに辿り着くことになり、「アメリカの魂」のための崇高な闘いに勝つことになるのだ。


反対が真実になる可能性


しかし、「アメリカの魂」の良心的な本質についての考えは広く受け入れられているもので疑問視はされておらず、本質的に良くないものとされるその反対の仮定について注意深く検討されることはなかった。

したがって、この反対の主張の方が真実の「アメリカの魂」である可能性がある。この「アメリカの魂」はトランプとトランプイズムの中に今見えているものかもしれない。これは、奴隷制度の凶悪な歴史だけでなく、それ以前のアメリカ征服と原住民虐殺の歴史の中で制度化されてきたということだろうか。

そして、このことが、アメリカが地球上のほぼすべての大陸で強引な軍国主義の歴史を維持してきた原因ではないか。各地で戦争を起こし、政権を転覆させ、軍事クーデターを扇動してきたことは、その自然な現れなのではないだろうか。

実際、私たちはアメリカの歴史の中に、人種差別、性差別、軍国主義、外国人嫌悪がこの「アメリカの魂」を決定づけていない瞬間を一瞬でも見つけることは難しい。

この「アメリカの魂」は最初から完全に邪悪で、混乱を呼び、残忍で、執念深く、恐ろしいほど欲深いものだった可能性はあるだろうか。

歴史にあまり造詣がなく政治的な修辞に長けたリベラル派の政治家たちはバラク・オバマからヒラリー・クリントン、バーニー・サンダースに至るまで、トランプのすることが「アメリカの全てではない」と口を揃えている。

ドナルド・トランプに相対する中間選挙の期間中にオバマは大声で宣言していた。「我々は、法の支配、人権、民主主義、尊厳、個性の価値といった確かな価値観と信念を広めることに貢献してきました」

本当だろうか?これがアメリカが世界に対してしてきたことだろうか?ここで言う「我々」とは正確に誰のことなのだろう?「我々」にはパレスチナ人を虐殺するために数十億ドルをイスラエルに与え、サウジアラビアにはイエメンでの戦争犯罪を奨励したアメリカ大統領は含まれているのだろうか?イラクとアフガニスタンを廃墟にした大統領は含まれているのだろうか?

私たちはこのアメリカの魂とは何なのか真剣に検討して、それが世界の平和に酷く有害なものである可能性を考え直す必要があり、そこで「本当のアメリカとは」ということを再発見することになるかもしれない。

民主党関係者や政府職員だけでなく、人権団体もトランプはアメリカの価値観とは対立した存在だと考えている。ヒューマン・ライツ・ファーストの政策担当上級副代表ロブ・ベルシンスキは「トランプは国連でアメリカの価値観を捨て去った」と主張している。

しかし、トランプとトランプイズムというのはアップルパイと同じくらいアメリカ的なもので、人種差別的で外国人嫌悪に覆われたアメリカの歴史がそれを裏付けている。バラク・オバマ、ヒラリー・クリントン、ナンシー・ペロシ、チャック・シュマー等のリーダーシップの下で構造的に腐敗している民主党がその真実の代わりになるはずだと言うのなら、共和党政権と民主党政権の下で同じように酷い扱いを受けたアフガニスタン、イラク、パレスチナ、イエメンの人々は何か言いたいことがあるかもしれない。


国家が分裂している?


デルバンコ教授のエッセーのすぐ後、民主党は下院の支配権を得て、共和党は上院の掌握を維持した。

強力なクリントン信奉者であるナンシー・ペロシと彼女の同僚でより倫理的に妥協したチャック・シュマーは、1%の富裕層を保護して差別主義を扇動するミッチ・マコーネルと彼の50人の仲間たちに対する、革命的な「抵抗」の象徴になっていた。私たちは深刻に腐敗した民主党が腐敗した共和党にささやかに勝利したことに喜ばされている。

では、「アメリカの魂」とは何処にあるのだろう?トランプのホワイトハウスなのか、ミッチ・マコーネルの上院か、ナンシー・ペロシの下院か、あるいは、ブレット・カバノーの最高裁だろうか?

リベラル系のメディアは異なる主張をしているかもしれないが、今回の中間選挙では民主党の躍進もドナルド・トランプに対する拒否反応も現れなかった。今回の選挙結果はアメリカの中間選挙では必ずある揺れ動きが見えただけだ。

私たちにとって、気違いじみたトランプ支持者たちの敵が革新的な政治に明るい人たちであるという考えの罠に嵌らないようにすることは極めて重要なことだ。アメリカではネオコン・トランピアンの恐怖から逃げ出そうとすれば、ネオリベのクリントナイトの結社の中に飛び込んでしまう。

中間選挙の赤く染まった選挙結果を見れば、この国はリベラル派が言うような分断された国ではないことがわかる。この国は、間違いなく人種差別、性差別、外国人嫌悪、暴力の国であり、国内の銃暴力と外国への征服に執着していて、気の抜けたリベラル主義者がこことあそこで少し抵抗しているだけの国だ。

ブラジルからサウジアラビア、イスラエル、欧州の人種差別、外国人嫌悪、原始ファシズム主義者たちまで、彼らは全てアメリカ政府の三権(ホワイトハウス、議会、司法)すべてに堅実な協力者を持っている。

ドナルド・トランプが政治に登場した最初の頃から、リベラル主義者が彼をぶっきらぼうでファシズム的な存在として扱ってきたのとは違い、私は彼を「実質的な存在」と見てきた。アメリカの政治は民主主義的な見せかけと気取った新自由主義が引き剥がされて裸の本質が現れたのだ。

バラク・オバマの8年間は、ホワイトハウスの裏ではイスラエルとサウジアラビアにパレスチナとイエメンの子供を殺すべく武器を送りつけながら、アメリカ国内で銃撃の犠牲になった子供たちには涙を流してみせる表裏をの顔を持っていた。

リベラル主義者は今回の選挙で革新的な女性たち、2人のイスラム教徒、新たな移民出身者が議会に加わったことに満足している。確かにこの傾向が後150年くらい続けば、イスラム教徒のナンシー・ペロシやヒラリー・クリントンが現れるかもしれない。

こうした感情的なアイデンティティに頼った政治は私たちを世界が直面している本当の問題から目を背けさせてしまう。


決まりきった分岐


「2つのアメリカが今日対決することになる」というのが中間選挙の日の典型的な見出しだった。一方の立場からは「若者とマイノリティの有権者、そして大学教育を受けた白人、特に女性は現政権に抵抗を示す。このことは共和党にとって教育水準の高い場所、人種が多様な地域で得票を失う脅威になる」

では反対から見たらどうなのだろう?「一方で、トランプは女性を含む福音主義者、農家、大学教育を受けていない白人の有権者から強い支持を受けている」

評論家の間で人気になっているこの極めて認識論的な分断の構図では、トランプに反対して投票する人はオバマ-クリントンを軸にした民主党には海外に対する軍国主義と党内の腐敗という酷い歴史があることを無視して投票するということを前提にしている。

DNAや「血脈」に何かが含まれていない限り、アメリカ人を含め人々は生来ファシズム敏感なものである。最近のアメリカ政界で最も革新的な人物であるバーニー・サンダースに集った人々は、腐敗した企業政治の行き詰まった拘束から自由になるという希望を持っていた。

しかし、民主党はサンダースには2016年の大統領候補になる可能性はないことを機械的に確定させてしまった。現在のトランプ災害の2年後、2020年には再びヒラリー・クリントンをホワイトハウスに向けて走らせるという話まで存在する。彼女と民主党は恥を知るということがない。

バーニー・サンダースより左側により広い政治的な可能性が開けない限り、アメリカはホワイトハウスのドナルド・トランプ、上院のミッチ・マコーネル、下院のナンシー・ペロシ、連邦最高裁のブレット・カバノーがそのまま居座り続け、スティーブ・バノンとスティーブン・ミラーがこうした人々のために扇動する白人至上主義者の差別運動もそのまま残ることになるだろう。もし歴史に学ぶべき教訓があるとすれば、これが本当のアメリカということであり、これこそが確かに「アメリカの魂」の真髄なのである。

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