2018年9月18日火曜日

ハリケーンの北上は新たな常識になったのか


西アフリカ沖から北上する「欧州のハリケーン」は今後更に一般的なものになるのだろうか


The Conversation
Alexander Roberts
September 18, 2018

9月7日、ハリケーン・ヘレーネは西アフリカの海岸で発生してから、あまり馴染みのない動きを見せた。多くのハリケーンはここから西に向かって大西洋を横断していくのだが、ヘレーネは北向きに進みイギリスやアイルランドの方に向かって来た。そして現在ヘレーネは「元ハリケーン」となったが、9月17日にイングランドとウェールズに到達し強い風を吹かせると考えられている。

似たようなことが2017年10月にもあった。「元ハリケーン」オフィーリアが北に向かって来て、ブリテン諸島を直撃し、3人が犠牲となり200,000戸以上が停電する被害が起きた。

大西洋を横断するのが普通だと考えられていたためにオフィーリアの動きは極めて特殊なものだと考えられていた。しかし2年続けての2つの(元)ハリケーンが北上してきたことで、これが新たな常識になったのではないかという疑問が自然と浮上していくる。海洋と大気の温度が上がり続けていることによって、イギリスとアイルランドに住む人々は更に凶悪な秋の嵐の到来を覚悟する必要があるのだろうか?


嵐(storm)の発生


広く言われていることとして、大西洋で発生する嵐は2つのカテゴリーに分けることができる。通常、ブリテン諸島で秋冬の悪天候の原因になるのは中緯度に位置する温帯低気圧である。この低気圧は冷たい空気と温かい空気がぶつかるところで大気が不安定になることによって発達する。この現象はテレビの天気予報の時に「前線」として見慣れたものである。

一方で、ハリケーンを含む熱帯低気圧は殆どのエネルギーを形成される場所である温かい海洋水域から引き出して得ている。水蒸気が雲を形成する雲粒に変化する時に潜熱(エネルギー)が放出されて深い対流雲が作り出される。条件が整うと強力に低圧化してより多くの燃料(湿った空気)を嵐の中に取り込むことになる。

中緯度の地域で熱帯低気圧が温帯低気圧に変化するのは珍しいことではない(年に数回起こっている)。大西洋では通常この変化は、熱帯低気圧が西に進み徐々に北向きに曲がり中緯度の中の低気圧経路に入った時に起こる。しかし、去年のオフィーリアと今回のヘレーネが通ったルートは珍しい軌跡を残している。

では、オフィーリアとヘレーネは大西洋の低気圧の性質の変化を示唆しているのだろうか?このことを理解するためには、熱帯と温帯両方の地帯で気候変動がどのように影響しているのかを考える必要がある。


物理的なメカニズム


現在、海面の温度は明確な上昇傾向にあり、海の温度が上がればより頻繁により強力な低気圧が発生するものと考えられている。しかしこれが大西洋のハリケーンのケースに当てはまるのかどうかははっきりしていない。

海水温度の上昇によって熱帯低気圧が以前より北で形成されるようになり、中緯度と高緯度の境目にある寒帯前線まで達して温帯低気圧に変化することが多くなる可能性がある。同時に熱帯低気圧は北で発生するほど亜熱帯ジェット気流の影響を受けるため、早い段階で北東の欧州に向かって(オフィーリアやヘレーネのように)進むようになる可能性もある。

しかし、気候変動が寒帯前線の位置や強さとそれによる熱帯低気圧の進路にどんな影響を与えるのかは明らかではない。大西洋の低気圧の軌道が緯線の向きか経線の向きにシフトするというようなことは、気候変動の影響の典型には反しているように見ることもできる。この種の不確実性は将来の低気圧の挙動予測を困難にしている。特に、気候システムというものは混沌としたものであり、温度や気圧が辿った変化が他にそのままの影響を齎すとは限らない。

より確実に言えることは、海面上昇によって極度に大きな嵐でなくても(嵐に伴う水位の上昇によって)沿岸は浸水する可能性があるということだ。また、気温が上昇すると大気は多くの水蒸気を保持することができるようになるため、大量の雨を振らせて水害を起こすようなハリケーンや温帯低気圧がより頻繁に発生するようになる。

科学者たちは未だに気候変動が天気にどう影響しているのかを正確に掴んではいない。しかし、私たちは珍しい極端な気候現象が起きることが増えていることは知っているし、将来的には更に多くなると考えるべきである。オフィーリアやヘレーネのような欧州のハリケーンが更に一般的なものになるのかどうかはまだわかってはいない。しかし、世界の気候から見て2018年が異常な年であることを更に印象深くするものであることは確かである。

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