2018年7月29日日曜日

銃暴力に怒るカナダだがアメリカと状況は異なる


トロントの銃乱射事件の後、カナダでは拳銃の完全な規制が議論されている


The Atlantic
SIGAL SAMUEL
JUL 28, 2018

他の多くのことと同じように、銃規制についての議論もカナダではアメリカよりも静かに起こっている。しかし時には悲劇的な事件によってこの問題が国として課題の最優先事項に押し上げられることもある。この時ばかりはこの国でも銃規制について礼儀正しさの枠から外れて大声で議論を始めることになる。

それが起こったのがこの一週間のことだった。単独の銃犯罪者ファイサル・フセインが日曜日の夜、トロントのダンフォース通りで2人を殺害し、13人以上を負傷させた。それに続く数日間、カナダで銃規制を支持する人たちは信じられないくらい忙しい時間になった。この悲劇は国家的な議論に火をつけ、トロント市長のような政治家たちも拳銃の販売規制を後押しする発言をした。より厳しい銃規制法を求める人々は、一般の人にこの議論に注目を集めさせる機会を得たのだった。

しかし、議論そのものはアメリカで行われているものとはかなり違っているように見える。カナダには憲法修正第二条は存在しないし、最高裁はカナダでは誰も武装する権利は持っておらず、厳格な審査を経て適格者だけに与えられる特権なのだと明確に述べている。そしてカナダには全米ライフル協会(NRA)のような強力な政治力を持った銃器ロビー団体は存在していない。実際、カナダにも小さな草の根運動を続ける銃器ロビー団体は存在するが、それについての話をカナダで暮らす中で耳にすることはほぼない。

カナダ政府が最後に銃規制法について真剣に改正に取り組んだのは、モントリオール理工科大学で14人の女性が殺された虐殺事件の時である。1989年に起きたこの事件の後、カナダ政府は銃の購入者に対して新たな適性検査と研修を課すことにしたのだった。警察が個人の銃器を追跡可能になる銃登録制度も開始されたが、その数年後に保守派の首相スティーブン・ハーパーによって中止されている。

「今この瞬間、人々の注意を惹くことができています」と銃規制連合の会長ウェンディ・クキアーは話す。彼女は様々なメディアでインタビューに応えるために駆け回っていたが、その間に捕まえて話を聞いた。「(中道右派の保守的な政党の)リーダーも務めたことがあるトロント市長が拳銃の規制を呼びかけているという事実は、おそらく彼らの党の内部にもこうした考えが入り込んでいることを示唆しています。かつては銃規制の熱心な支援者でなかった人たちも、今は声を上げてくれています」

トロント市議会は火曜日に政府に対して拳銃規制を働きかけ、トロント市長ジョン・トーリーは「何故この街で銃が必要になると言うんだ?」と話している。

カナダの全人口3000万のうち約200万人が銃を所持している。拳銃の殆どは合法的に購入したものかアメリカから違法に密輸されたものである。(カナダ当局は今回のトロントの乱射事件で容疑者が使用した拳銃が合法的に獲得されたものかどうかまだ発表していない)。「私達の抱える問題は、彼らと国境を接していることが原因になっています」とクキアーはアメリカを指して言う。「私達が拳銃を規制したとしても、密輸の問題は残ります」。銃規制で効果があるのは合法的な流通に対してだけで、違法な銃の流通を止めることはできない。

このことが、オタワの弁護士ソロモン・フリードマンが「銃規制法を強化しても犯罪には殆ど効果がないし、単に法に従うことにペナルティをかけることになる」と主張する理由の一部になっている。フリードマンは全国銃器協会の顧問弁護士を務め、射撃の選手で銃器の擁護者として知られている。

フリードマンは「カナダで銃所持の許可を得ようとする人は、安全研修を完了し、警察に二通の推薦状を提出し、経歴調査と配偶者への通知を経た上で28日間待たなければならないのです」と話す。「私の意見では、カナダで合法的に銃を所持しようという人は既に調査済の潔白な人ということになります」と彼は言い、銃を殺人に使いたいと考えるような人は銃を手に入れるためには別な方法を見つけようとするだろうと付け加える。「銃規制を強化することによってポジティブな結果が得られるということを証明する責任は、規制強化を望む人たちの方にあるはずです」

クキアーはそのことを証明できると信じている。「カナダで起きている銃乱射事件の殆どは合法的に銃を所持している人によって起こされているのです」と彼女は、モントリオール理工科大学虐殺事件、2017年のケベック市のモスクで起きた銃撃事件などいくつかを例に挙げて話す。(カナダの銃乱射事件はアメリカよりも遥かに少ない)。合法的に銃を所持している人が時々犯罪に用いることがあるというだけの話ではない。銃の所有者は合法的に所持できない人に銃を売る場合があり、それが犯罪に使われることもある。「ストロー・パーチェイス」と呼ばれるこの第三者購入の手法は、ロビー団体CACPの調査によれば、犯罪で使用された拳銃の50%を占める。

誰かの手から銃を遠ざけることは犯罪を思い止まらせることにはならない、というフリードマンの主張について、クキアーは「証拠はそれを証明してはいません。数字を見て下さい」と言う。彼女は2016年の殺人事件の統計を分析する。「銃が関係していない殺人事件の数字で、カナダ、アメリカ、イギリス、オーストラリアを比較すると、アメリカがやや多い程度で4カ国で大体同じ割合になります」とクキアーは言う。別な言い方をすれば、銃がない状態では4つの国の人々は殺人事件についてほぼ同じ行動を示している。

銃が使われた殺人事件の数字を見ると話は全く違うものになる。「銃が使われた事件を見ると、アメリカではカナダの6倍になります。カナダはイギリスの15倍、オーストラリアの4倍の数字になっています。この殺人事件の割合の国による違いの原因は銃器の入手のしやすさにあることは明白です」。さらに彼女は2016年に人口6000万人のイギリスでは銃による殺人事件が27件しか起きていないことを付け加える。この理由の少なくとも一部は、イギリスでは1996年のダンブレーン銃乱射事件の後に拳銃規制を実施していることにある。

カナダ人の多数が都市部での銃の完全な規制を支持しているが、国は決して実施しようとしない。これはおそらく一部には、銃暴力問題はアメリカと比較すれば軽微な問題であり、銃規制に賛成する多数派が行動を起こすことは滅多にないことが理由になっている。一方で、銃擁護の少数派は(一般市民ではなく)政治家に対して大きな声で主張をするようになっている。この意味でNRAはカナダにも大きな影響を与えている。

「NRAの会長がカナダの銃ロビー団体にアドバイスと激励をするために、一度カナダを訪れています。カナダのいくつかのロビー団体とNRAには正式な関係が存在します」とクキアーは言う。「非常に深刻なのは、アメリカで実施している彼らのレトリックと活動戦略は殆どそのままコピーして持ち込むことができるということです。カナダで現在銃を所有している人たちは、カナダに於ける銃所持の権利について話していますが、そんなものは存在しないのです!そして私達は自己防衛の必要性についてのレトリックがひたすら繰り返されているのを見ています」

今年の秋にはより広範な経歴調査が含まれる強化された銃規制法案が議会に提出される予定になっている。しかしこれは今のところ全面的な禁止を求めるものにはなっていない。この点に関して、クキアーはジャスティン・トルドー首相の政府は「女性権利団体や医療従事者たちが言うことよりも銃ロビー団体の言うことを気にしているようです。 … 政治家たちは銃ロビー団体がすると言っていることに怯えているのです」

フリードマンはこの点については、政治家たちは今回のトロントの銃撃事件を見てその恐れを克服するかもしれないと話すが、特に支持するものではないという。「政治家は悲劇が起きたら何かをしたがるものです。彼らは自分たちがどれだけ無力であるかを認めようとしません。何かをしているように見せなければならないのです」と彼は言う。彼は銃への接触を更に制限する法律には効果がないと主張し、この案が魅力的なように見えるのは、代替案の方がずっと理解が難しいからだと言う。

「もしあなたが『彼はどうやって銃を手に入れたのか?』という質問に留まっているなら既に大事な点を逃しています。『なぜ彼は社会から阻害されているように感じたのか?』と問うべきなのです」。フリードマンは政府は精神病の予防と治療に投資する方が良い効果に繋がると信じている。トロントの乱射事件の容疑者は、彼の両親によると精神病を患っていたという。両親たちは証拠もなく容疑者はISILの一員であると主張したカナダのマスコミに情報提供を急いでいた。

カナダが何に病んでいるのかについて正反対の主張があるように見えるが、銃規制の強化と精神病の予防と治療に投資することは背反するものではない。おそらく両方が緊急に必要なものだ。実際、日曜日のトロントの事件で悲しい皮肉な出来事の1つは、トロント当局が銃暴力についての問題を話し合う予定が組まれていたことで、彼らはこの事件が起きる前には数時間話し合っただけだった。この議論は誰が予想していたよりもずっと緊急に必要なものであったことが明らかになったのだった。

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