2018年7月13日金曜日

アイスマン・エッツィが最後に食べたものは驚くほど旺盛なものだった


アイスマンは、1991年にアルプスにあるイタリア・オーストリア国境のエッツ渓谷(海抜3,210メートル)の氷河で見つかった、約5300年前の男性のミイラ。エッツィ(Ötzi the Iceman)の愛称で知られる。


Gizmodo
George Dvorsky
July 12 2018

30年前に彼のミイラ化された体が発見されて以来、アイスマン・エッツィは科学者たちに欧州の青銅器時代に関する情報を山のように提供してきた。今回、彼の胃の内容物に関する最新の分析でアイスマンが最後に食べたものがわかってきた。それは極めて高脂質なものだったようだ。

5300年前のものとされるアイスマン・エッツィの体は1991年にイタリアアルプスの東部でハイカーたちによって偶然に発見された。彼の体は極めて良い保存状態だったことから、エッツィは亡くなった時に45歳前後で、背中に矢を受けて殺されたことがわかっている。エッツィは青銅器時代のハンターであり、全身はタトゥーに覆われていて、慢性の関節痛、ライム病、歯周病、潰瘍を患っていた。彼には致命的でない傷も山ほどあり、右手には死の数時間前に受けたとみられる深い切り傷があった。エッツィは道具を一揃い所持していたが、酷く使い古されて交換が必要そうなものが多かった。このアイスマンは何らかの原因で、矢じりと一緒にあるはずの弓と矢は持っていなかった。このことは彼が死の直前に攻撃を受けた印である可能性がある。

今日出版された Current Biology に掲載されいている新しい調査結果を見ると、私たちはエッツィが最後に食べたものについてより明確に思い描くことができる。以前から科学者たちはアイスマンの消化器系からサンプルを取り出して分析していた。しかし今回、イタリアのユーラック研究所ミイラ研究班のフランク・マイクスネルが率いる研究チームは、エッツィの胃の実際の内容物を調査することによって脂質のような生体分子を分析する機会を得た。これは彼の腸ではなく胃に残されていた。

この新しい調査結果では、エッツィが最後に食べた食事はアイベックス(野生のヤギ)やアカシカ(鹿)の肉、ヒトツブコムギのシリアルで構成されていて、高割合で脂質が含まれていることが示されている。科学者たちは有害なシダ植物の痕跡も発見した。これはエッツィが腸内寄生虫を駆除するために摂取したと考えられている。

全体として極めて膨大で旺盛な食事内容は、おそらく故意のものと思われる。アイスマンの胃からは驚くほどに高い割合の脂質が発見された。彼の胃の内容物の46%が動物の脂質の残留物から成っていた。今日健康的な食事をする場合、こうした資質は10%を超えるべきではないとされている。

「エッツィは脂質が素晴らしいエネルギー源となることに気づいていたのでしょう」とマイクスナーは Gizmodo に話してくれた。「アイスマンが死後5300年経って発見される前に生きていた場所は標高3200mにもなるアルプスの高地で、そうした場所は間違いなく人間の生理機能に影響があります。エネルギーの急激な低下を避けるために十分な栄養を摂ることが求められます。エッツィの最後の食事は、炭水化物、タンパク質、脂質がバランスよく混ざったもので、アルプスの高地で求められるものに完璧に合致していたと言えます」

つまり、エッツィは事前に山岳地帯を旅することを知っていて、その最後の旅の前に高脂質な食べ物で贅沢に食事を摂った可能性が高い。彼が直ぐに攻撃を受けることを知っていたのかどうか、その攻撃が待ち伏せによるものであったのかどうかは謎のままである。

「アイスマンの胃の内容物はたまたまの瞬間であって、おそらく当時の食生活全体を反映したものではないでしょう」と、この新しい調査の執筆者の1人であるアルベルト・ツィンクは Gizmodo に話した。「ですが、エッツィの食事には狩猟肉、脂質、シリアル、果物が含まれていて、一般的に考えてよくバランスが取れていると私たちは考えています」。ツィンクはアイスマンが数日間旅をすることに備えていたようだと言う。大量の高エネルギーの食事を取っていたことに加えて、彼はアイベックスと鹿の乾燥肉を含む食べ物を携帯していた。

「青銅器時代の人々が何を食べていたのか、食べ物をどのように準備していたのかはあまりわかっていません」とツィンクは言う。「私たちの研究で初めて彼らの食事の構成と、どのように準備していたかの詳細が明らかにされました。さらに、彼らが健康問題に対処するために薬草を用いていたという初めての見識も得ることになりました」

アイスマンの最後の食事を再現するためにマイクスナーと彼の同僚たちは顕微鏡を用いた調査と合わせて学際的な「マルチオミックス」アプローチをとった。メタジェノミクス(遺伝物質の研究)、メタボロミクス(代謝に関わる化学的プロセスの研究)、リピドミクス(脂肪酸の研究)、プロテオミクス(タンパク質の研究)、そして高解像度顕微鏡、といった様々な分野の国際的な専門家チームを巻き込んで分析が行われた。

イタリア、フィレンツェにあるソプリンテンデンザ博物館の考古学者ウルスラ・ウィーレルは、この調査には関わっていない。彼女はこの調査チームが「アイスマンの死の直前の食事の正確な構成を再現するために広範な方法論を組み合わせた手法」を用いたことについて「素晴らしい仕事」だと話す。

ウィーレルはこの新しい研究ではエッツィの最後の数日にについての重要な新情報が示されているとし、その結果に驚いたと話す。

「私は肉の材料が家畜ではなく野生動物で特にアイベックスであることに興味を惹かれました。家畜を育てることはアイスマンの時代には既に経済活動として行われていました」とウィーレルは Gizmodo に語る。「アイベックスは高地に生息する種です。つまりアイスマン個人か、あるいは彼のコミュニティ全体は高地で狩猟をする必要があったことになります」

彼女は、エッツィの胃に大量の動物性脂肪が残されていたことは、狩猟採集で生活していた現代の人の食習慣を思い起こさせるという。

「野生動物の肉を基本にした食生活では1人の人間に十分なエネルギーとなるカロリーを摂取するのは大変なのです」と彼女は言う。「なので、近年のアフリカやオーストラリアの狩猟採集の生活者たちの間ではカロリーを得るために最も脂肪の多い部分が好まれていました」

ウィーレルは今回の調査の結果として、アイスマンは例外的な存在なのか、それともアイベックスが当時のアルプスの高地では通常の食習慣の一部とされていたのかを知ることができれば素晴らしいことだと言う。アカシカについては青銅器時代のこの地域で標準的な食物だったことが既に確立されている。

私たちが古代の1人の個人について学ぶことができるのは驚くべきことだが、こうしたものは時に間違った方向に我々を導くことがあるとウィーレルは言う。エッツィには情報が詰まっている、しかし、彼自身の特別な習慣や特徴と彼のコミュニテイ全体のそれとを区別することが今後の課題になる。彼が無残にも殺されたという事実によっても話は更に複雑になる。この青銅器時代の謎めいた人物はどの程度特別な存在だったのだろう?

0 件のコメント:

コメントを投稿