2018年6月9日土曜日

イギリスの原子力回帰は孤独な道


イギリス政府は50億ポンドを注ぎ込んでウェールズ北部に新原子力発電所を建造しようとしている。気候変動への対応としては世界の中では奇妙な策だ。


The Guardian
Fred Pearce
Fri 8 Jun 2018

政府は一度止めた形になっていた原子力への投資を再開する気になったようだ。今週、英ビジネス担当大臣であるグレッグ・クラークは50億ポンドを北ウェールズ、ウィルファの新原子力発電所に注ぎ込むことを発表した。これは原子力関連施設の建設に投資はしないとしていた長年の保守党の政策を転換するものだ。何故突然そんな意欲を燃やし始めたのか?そしてクラークは世界各国が何をしているか知っているのだろうか?

世界中のほぼすべての場所で、あらゆる政府と企業が原子力から電源プラグを引き抜こうとしている。世界が気候変動の脅威に晒されいる中、今世紀の半ばまでには化石燃料の使用を止めることを約束しているような国でも、ほとんど誰も核には触れたがっていない。

ドイツは2022年までに脱原子力化を予定している。欧州最大の原子力支持国だったフランスは引き返そうとしていて、マクロン大統領は全電源中の原子力の占める割合を75%から50%に引き下げようとしている。福島の事故から7年が経った日本では、54基の原子力発電所のうち数基以外は稼働していない。

アメリカの電気事業者も、まだ数年の稼働許可が残る原子力発電所を急いで閉鎖している。アメリカの規制緩和された市場では原子力に競争力はないのだ。先週トランプ大統領は電気事業者に対し国家のエネルギー安全保障を理由に原子力発電所の閉鎖を停めるように要求している。彼は自分の方法論を取るために公の力に訴えるかもしれないが、それでもトランプですらも新しい原子炉を求めているわけではない。

一方で、近年世界の原子力発電所建設をリードしている中国だが、その熱意は薄れてきている。北京の政府はここ2年以上にわたり新規の建設許可を出していない。唯一ロシアだけが今も勢いを保っている。つまりイギリスはなんとも居心地の悪そうなクラブに属することになる。

イギリスではこの23年間、新しい原子力発電所を完成させていない。政府はこの新たな意欲について気候変動と戦うことを理由として発表し、特に2025年までに閉鎖を約束している石炭発電所に代わる電源としての必要性を挙げている。しかし原因は正しいとしても、その解決策は世界の中では奇妙なものに見える。

原子力が実証済みの大規模な低炭素電源であるのはその通りだ。しかし、太陽光や風力などの再生可能エネルギー源は今はかなり低価格になり、価格は更に下がり続けている。他方、原子力のコストは高くなる一方だ。

「エコ・モダニスト」と呼ばれる人の中には原子力と再生可能エネルギーとは極めて相性が良いと主張する人がいる。つまり、太陽が出ていない時や風邪がおさまってしまった時に原子力が穴埋めできるというのだ。しかしこの主張には問題がある。再生可能エネルギーの気まぐれさを効果的に穴埋めするためには稼働と停止を頻繁に切替可能である必要がある。水力発電や天然ガス火力発電ならこれが可能だが、原子力発電にはできない。原子力発電は基礎不可にあたる電力を安定して供給し続けるのが得意分野である。

それでも原子力は他に何も問題がなければ、ずっと点灯させておくようなもののための役割を担うことができるかもしれない。しかし、原子力は常に悪しき隣人であり厄介な市民である。放射線について私たちが感じている恐怖のいくつかは誇張されたものかもしれないが、それでも脅威は現実のものである。そして、原子力発電と核兵器は単に技術共有できるというだけの関係ではない。イギリスは現在世界最大量のプルトニウムを備蓄しているのだ。

私たちは核兵器の心臓部となる人間が作り出した物質130トン分と一緒に暮らしている。およそ10年前に王立協会の科学者たちから、テロリストの手に渡って武器として利用されるかもしれないという安全保障上の重大なリスクについての警告を受けているが、それを無視した形でカンブリア州セラフィールドの倉庫に備蓄されている。

このプルトニウムは数十年をかけて発電所の燃料として使われて作り出されたものだ。イギリスはプルトニウムを燃料として用いる発電所に関わる新しい世界産業で最前線にいることを望んでいた。しかし、世界市場がプルトニウムを求めそうな兆候は全く無いにも関わらず生産を続けている。サマセットで建設途中になっているヒンクリーポイントの新発電所もウィルファに提案されている発電所もプルトニウムを利用するものではない。

政府は核の夢を追い求めることを決断したようだが、この国には有害な遺産を残しただけで明らかに夢を実現できなかった原子力政策の過去があるのだ。

予定されているウィルファ発電所の隣には古い原子力発電所の抜け殻が鎮座している。これは2015年に閉鎖されたものだが、2105年までほぼ1世紀の間解体の予定がない。これはイギリスの海岸線に鎮座する閉鎖された11の発電所のうちの1つである。11の元発電所はケントのダンジネス原子力発電所からスノードニアのトロースフィニッド原子力発電所までと、サフォークのサイズウェル原子力発電所からスコットランド南西部のハンターストン原子力発電所まで並んでいる。

これらの元発電所は現在業界用語で言う「管理と保守」の状態にある。つまり、放射性物質が崩壊する間、そして政府の原子力廃止措置機関が放射性物質を保存する場所を見つける日まで棚上げにされているのである。

そして今の体制ではその日は決して来ないかもしれない。現在イギリスでは、最も危険で最も長く持続する放射性廃棄物の最終処分場について1976年の時点よりも進んだ合意は得られていない。1976年には環境汚染についての王立委員会が、イギリスはこの最終処分場の問題が解決するまでこれ以上原子力発電所を建設するべきではないと述べている。バカげたことに、最も最近出された計画は湖水地方の国立公園の地下にトンネルを掘って放射性廃棄物を埋めるというものだった。

こんにち原子力は酷く人気のない産業になっている。政府の手厚い支援がない限りは不経済であり、保険がかけられず、核兵器用の材料が溜まり、よりクリーンな競合産業に追い抜かれ、誰も解決できていない廃棄物問題を抱え、そして、チェルノブイリと福島の事故が起きたため、常に公衆はパニックに陥り易くなっている。

廃棄物の問題はいずれ解決され、革新的な新原子力発電所が設計される未来があることを信じている人も存在する。それはそうかもしれない。しかし実際は、60年前に核兵器産業が「原子力の平和利用」を最初に約束して日の出を迎えた原子力産業は、現在になって日没の時が来ているのだ。イギリス政府だけがそのことに気づいていないようだ。

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