2018年6月5日火曜日

エドワード・スノーデン:人々は無力なままだが、今は気づいている


歴史的な情報漏洩から5年、内部告発者スノーデンはガーディアンに後悔はないと語る


the guardian
Ewen MacAskill and Alex Hern
Mon 4 Jun 2018 18.00 BST

エドワード・スノーデンは歴史上最大規模の最高機密書類を漏洩させたことについて、この5年間後悔したことはない。彼はアメリカから身柄を求められている。彼はロシアに亡命している。しかし、彼は監視行為を明らかにして政府、諜報機関、巨大インターネット企業を動揺させた自身のやり方に満足している。

あの時ガーディアンがそのニュースを伝えた記念日を前に電話でスノーデンにインタビューを行った。彼はあの日、彼の世界と世界中の多くのものが良いものに変わった日のことを思い出していた。彼は香港のホテルで眠りに就いていて、目覚めた時、アメリカ国家安全保障局(NSA)が数百万のアメリカ国民の電話のデータを収集していたニュースが数時間に渡って報道されいた。

スノーデンはあの瞬間に彼自身のそれまでの生活が終わったことをわかっていた。「恐ろしかった、でも、解放された気分でした」と彼は言う。「終末的な感覚がありました。もう戻ることはないのだと」

それからの5年間何が起こっただろう?彼は世界で最も有名な亡命者の1人になり、オスカーを受賞したハリウッドのドキュメンタリー映画の題材になり、少なくとも1ダースは本が出ているだろう。彼の告発に基づいて、アメリカとイギリスの政府は監視法に関する裁判に直面している。この両国では新しい法律が制定されている。インターネット企業は市民からの反発を受けて暗号化を一般化することになった。

この5年の間の変化について、一部のプライバシー保護運動に関わる人たちからは物事の進歩の仕方に失望の声も聞かれるが、スノーデンはそれには同意しないという。「人々は何も変わっていないと言います、つまりまだ大規模な監視が存在するのだと。それは変化を測る基準ではないのです。2013年より前を振り返って、それから何が起こったのかを考えてみてください。全てが変化しています。」

彼が言う最も重要な変化は市民が気づいたことだという。「政府と企業体は私たちの無知を喰い物にしていました。しかし、今は私たちは知っています。人々は気づいているのです。人々は未だにそれを止めるには無力です、しかし試みてはいます。あの告発によってこの闘いはより均衡したものになったのです。」

彼は後悔はしていないという。「もし私が安全でいたいと思ったなら、ハワイ(彼が香港に飛ぶ前に仕事をしていたNSAの拠点)を離れることはなかったでしょう」

彼自身の生活はおそらく現在が最も不安定な状態だ。彼の庇護はプーチン政権の気まぐれに依存したものだし、アメリカとイギリスの諜報機関は彼を許してはいない。諜報機関にとっては問題はそのままに残っていて、彼らの言う裏切り行為によって公には認知されない規模の損害が引き起こされている。

アメリカ国家安全保障局と共にスノーデンによる漏洩の主な対象となったイギリスの監視機関である政府通信本部(GCHQ)のディレクター、ジェレミー・フレミングから珍しくコメントを得ることができた。このコメントにも彼らがスノーデンの漏洩によって損害を受けたことが反映されている。この「記念日」についてのガーディアンの質問に答えて、フレミングはGCHQの任務はイギリスを安全に保つことだとし次のように話した。「5年前にエドワード・スノーデンがしたことは違法であり、我々の能力を損なうものでした。イギリスとその同盟国の安全保障に不必要な損害を現実に引き起こしたのです。彼はその責任を負うべきです。」

アメリカとイギリスの諜報機関の関係者が怒っているのは、単に書類が公開された(公開された書類は全体の1%にも満たなかった)ということだけではなく、公開されていない資料についても影響が広がったことによる。彼らはスノーデンがアクセスしたことのあるものは全てが損なわれ、破棄しなければならないものとなったという前提で作業を強いられたという。

こうした諜報機関にとってはプラス面もあった。あまりにも多くを廃棄したために、計画よりも速く新しく優れた機能の開発と導入が進められることになったという。諜報機関の透明性に関しても変化が起こった。スノーデンの件の前はメディアがGCHQにコメントを求めても「ノーコメント」と返されるのが常だったが、現在では対応する意欲が増している。今回フレミングがインタビューに応じたことはそうした変化を反映していると言える。

今回のフレミングの話で彼は組織の開放性への取り組みにも触れているが、スノーデンの功績は強く否定し、2013年より前からの変化であると述べている。「私たちはできる限り開かれた組織であり続けることが大事です。私は10年以上前から透明性を高くすることに取り組んできました」と彼は話した。

特にアメリカの諜報関係者は、プライバシーと監視の何処に境界線を引くべきかという極めて重要な議論を始めさせてくれたことについて、スノーデンの功績を不承不承に認めることになりそうだ。NSAのリチャード・レジェット前副局長は、昨年引退するときに、政府は電話のデータの大量収集が行われていた事実を公表するべきだったと述べている。

GCHQの元ディレクターであるサー・デイヴィッド・オマンドは損害についてはフレミングに同意しているが、スノーデンが新しい法制度を導入することに貢献したことを認めている。「現在では必要とされる情報収集のためのより堅実で透明性の高い法的枠組みができています。もちろん時間が経てば最終的にはこうなったでしょうが、彼の行為がこのプロセスを急がせたのは確かなことです」とオマンドは話している。

アメリカ議会は2015年に自由法を制定し、電話からの大量データ収集に制限をかけた。イギリス議会はその1年後に物議の末に2016年調査権限法を制定した。

サイバーセキュリティとプライバシーの専門家、ロス・アンダーソンはスノーデンの告発を重要な瞬間として捉えている。ケンブリッジ大学のコンピューター研究所でセキュリティ工学の教授を務めるアンダーソンは「スノーデンの告発は人々が物事を見る方法を変えた歴史的に重要な瞬間です。ジェームズ・ボンドと彼の仕事を崇拝する文化があるので、イギリスでは多くのものは変わらなかったかもしれません。しかし、世界中で監視が現実の問題として人々に伝えられたのです。」

イギリスの国会議員やメディアは、他の欧州各国、アメリカ、南米、アジア、オーストラリアに比べてこの問題に関与しようとしてこなかった。例外としてイギリス自由民主党の議員だったジュリアン・ハッパートが2015年に議席を失うまでこの問題を取り上げ続けた。「スノーデンの告発は大きな衝撃でしたが、それによって諜報機関がしていることについて以前より遥かに高い透明性がもたらされたのです」と彼は話している。

公開された情報の中でも大きな社会的影響があったものの一つが諜報機関とインターネット企業との連携の程度に関するものだった。2013年の時点ではアメリカの企業はデータ保護に関する交渉に於いてEUを出し抜こうとしていた。その交渉の最中にスノーデンが爆弾のように現れたことで、先月から適用が開始されたデータ保護法が成立したのだった。

スノーデンの告発によるわかりやすい効果の一つは、メッセージングアプリのWhatsAppが2016年の4月から黄色いポップアップに小さく次のようなメッセージを表示し始めたことだ。「このチャットと通話のメッセージはエンドツーエンド(発信者と受信者の間)で暗号化され保護されています」

スノーデンが現れる前まで、暗号化というのは攻撃目標にされている人か被害妄想の傾向がある人のためのものだった。国際的な表現の自由のためのデジタル人権団体、エレクトロニック・フロンティア財団のディレクター、ジリアン・ヨークがは次のように語る。「もし私が2013年に戻れるとしたら、おそらく私の電話にSignal(現在の暗号化コミュニケーションアプリ)の前駆体とも言えるTextSecureを入れていたでしょう。私はPGP(メールの暗号化ツール)を入れていましたが、誰も使っている人はいませんでした」。唯一の主だった例外はAppleのiMessageでこれは2011年に登場して以来、エンドツーエンドで暗号化されている。

大手技術系企業はスノーデンの告発によって怒りを買い、開発者たちも動かされることになった。スノーデンの告発から1年後にFacebookに買収されたWhatsAppのように独自の暗号化を実装したものもあった。一方でYahooのアレックス・スタモスはさらなる盗聴の支援をすることはせずに辞任したのだった。(スタモスは現在Facebookのセキュリティ部門を率いている)

「スノーデンがいなかったらSignalが資金調達できたとは思えません。Facebookがアレックス・スタモスを雇用していたとも思えません、彼はそのままYahooにいたでしょうから。こうした小さなことが大きなことに繋がったのです。こうした企業は全て『私たちはプライバシーに気を使っています』とはなっていなかったでしょう。彼らはそうなるように追い込まれたのだと思います」とヨークは語る。

テクノロジー分野での変化はスノーデンの影響が多くの意味で限定的であることを示している。Amazon Echoに代表される「スマート・スピーカー」の登場は多くのプライバシー保護活動家を困惑させた。ほんの数年前に政府の監視がスキャンダルになったにも関わらず、なぜ人々は自宅に常時稼働のマイクロフォンを設置したがるのだろう?

「人が話していることを文字通り全て聞いているデバイスを設置することによって提示された新しいプライバシーの問題は、物がインターネットに接続された時代のぞっとするような新しい発展を代表していると言える」とGizmodoのアダム・クラーク・エステスは昨年書いている。

インタビューの最後にスノーデンは彼の初期の偽名の一つだったキンキナトゥスを思い出していた。ローマ時代の偉人キンキナトゥスはローマで公務を終えると自分の農場に戻っていく。スノーデンは彼自身は役割を果たしたのだと感じていると言った。彼は静かな生活に退いて、ジャーナリストが情報源を守るためのツールを開発することに時間を使って過ごしているのだと言う。「私は今以上に充実した気持ちになることがあるとは思いません」

しかし彼はこの記念日に「ウイニングラン」をするようなことはないだろうと言う。まだやるべきことはたくさんあるのだ。「戦いは始まったばかりです」とスノーデンは言う。「政府と企業は長い間このゲームを続けてきました。私たちは今始めたばかりなのです」

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