2018年6月24日日曜日

ゴシップは人類が生きるための知恵


陰で人の話をするのはなぜこんなに気持ちが良いのだろう


TONIC
Jessica Dore
May 3 2018

ゴシップの甘い誘惑に抗うのは困難なことである。どんなに努力しても私たちの心の中の高潔な意志は、何か秘密を知りたい、誰かについて驚くようなことを知りたい、という衝動に負けてしまう。セレブについての雑誌やリアリティ番組の存在は時間の不毛な浪費と道徳感の失墜の間でゴシップを楽しむことに需要があることを証明している。しかし、進歩的な科学者たちは、ゴシップは初期の人類にとっては共同体に好ましい影響を与える良いもので、参加した人にとって利益になるものだったと信じている。別な言い方をすれば、私たち人類はくだらない話をするのが生まれつきの習性なのかもしれない。

ゴシップの発達に関して最も広く受け入れられている理論は、文化人類学者ロビン・ダンバーによるものだ。オックスフォード大学の教授で進化心理学を研究するダンバーはゴシップを幅広く社会の出来事について議論するものと定義づけた。この定義によって、彼は1997年の研究成果でショッピングモールや公共の場所に於ける人々の会話の約65%をゴシップが占めていることを明らかにした。

ダンバーの理論は、ゴシップとは社会集団が規模を広げていくための手段として機能するものだということだ。人類の初期、狩猟採集の小規模な社会集団からより大きなコミュニティに変化していく上で、資源を消費せず効果的に社会的規範を伝え、同時に悪しき行いをチェックする手段が必要だったのだ。ゴシップは私たちの祖先が悪行をする者とフリーライダーによる集団に対する悪影響を緩和するための手段だったのである。

「フリーライダーは人々の良心に付け込むもので、自由にさせておけば結果として社会を崩壊させます」とダンバーは言う。「フリーライダーのような振る舞いは社会生活に前提とされている信頼を損なうものです。私たちはゴシップ無しに大きな社会集団の結束を維持するのは難しいのです」

ダンバーの定義によればゴシップとは本質的に悪いものではない。しかし、社会心理学者のロイ・バウマイスターはゴシップは特別に抵抗することが難しいものになることを指摘する。これは危険なものを学ぶという進化上の利点を求めたからであって、良いもの、あるいは脅威にならないものは対象にされていないからである。つまり例えば、私たちの祖先にとっては、社会集団の中に悪しきフリーライダーが存在するかどうかが、善きサマリア人について知ることよりも重要なことだったと言える。

そして現代の生活でも同じことが言える。同僚が月間最優秀社員として表彰された理由を知ることよりも、同僚が解雇された理由を知ることのほうがより重要であり、そしてずっと面白いことである。

古代のゴシップは話す人が考えていたよりもずっと進化上の利点があった可能性がある。ゴシップは社会規範を伝えるというダンバーの理論を前提にして、バウマイスターは、人類が集団のメンバーか、あるいは更に広い範囲の人々の失敗と成功から学ぶことを可能にしていたのだと付け加える。ちょうど、夜のニュース番組で他人の身に起きた不幸について放送されることが特定の行動について警告する手段となっているように、もしゴシップが存在していなければ、私たちの祖先はすべてのことを直接に厳しい方法で学ばなければならなかったかもしれない。

私たちは通常、ゴシップを共同作業として見ることはないが、そうした側面も存在する。英語学の教授で物語とその語り部について研究しているブライアン・ボイドはダンバーの理論からゴシップは初期の人類が協力し合うことの助けになっていたという理論を展開する。社会の他のメンバーに関する情報を共有することは、社会の共通の目的のために人々がどう協力しているかを監視し、逸脱した人を特定して処罰するための、低コストかつ効果的な方法であるという。古代のコミュニティが生き残るためには社会で情報を共有することに価値があったため、適切な種類のゴシップを広めることは社会的地位を高めることになっていたかもしれない。

「ゴシップが利己的なものであると評価された場合は、それ自体が協調する上での規範に違反していると見做され評価されませんでした。しかし、適切なゴシップを広めることは社会集団の他のメンバーに注意を促すことになりました。見たものを公共の利益のために共有することは好意と地位を得る要因になり得たでしょう」とボイドは言う。このことは、なぜ噂話の甘美な響きは聞く人を喜ばせるのかだけでなく、同僚、友人、家族についての詳細情報を社会集団の他のメンバーに撒き散らしたくなる理由として理にかなっている。

進化生物学者デイヴィッド・ウィルソンと大学院生のケヴィン・ニフィンのチームによる2010年のゴシップについての研究では、現代のゴシップもダンバーの理論で強調されているのと同じ機能を果たしていることが確認されている。ゴシップは社会集団のメンバーがお互いに、集団のメンバーそれぞれの行動を規定する規範について合意を形成することに役立っているとされる。

地球規模の社会問題を解決するために科学を利用することを目的とした非営利のシンクタンク「エボリューション・インスティチュート」の共同設立者であるウィルソンは、より良い社会を創造するために、ゴシップの進化について私たちが知っていることを利用することに興味を持っている。彼は、協調と責任のためのツールとしてのゴシップ理論は、責任ある行動を促すためには私たちはどのようにFacebookのようなプラットフォームを使えば良いのかを考える上で重要な意味を持っていると言う。

ウィルソンによれば、ゴシップが行動規範として機能するためには3つの条件が必要になるという。第一に、その規範が適切か否かについて合意が存在すること。第二に、社会集団のメンバーがその規範から逸脱した時に見つけることが可能であること。第三に、逸脱者の行動を矯正できない場合には、逸脱者を罰することが可能であること。

残念ながらFacebookはこうした条件を備えていない。「Facebookは行動規範として直接に機能するために更に出来ることがあるはずですが、広告を主にしているFacebookの収益モデルがより大きな問題になっています。これは私たちを『権力の腐敗』に導きます」とウィルソンは言う。

ローカルビジネス評価サービスであるYelpはゴシップがインターネット上の行動をどのように規定するかの良い例を示している。利用者が作成したコンテンツを通じて、Yelpで評判を管理することが可能になることによって、責任あるビジネスを展開することを促し、消費者と事業者との間に説明責任を生じさせている。

ゴシップがどのように進化し、今の社会でどう機能しているのかを理解することは、私たちがインターネットのような社会空間を、どうすればより協力的に責任感を持って利用できるのかを考える入り口になるものかもしれない。そして、私たちが噂話を好んでしまうことについて、多少気持ちを軽くしてくれるかもしれない。

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