2018年6月21日木曜日

彼女はなぜ自分の子供を殺したのか


2016年、キャロル・コロナドは自身の3人の娘を殺害した罪で3回分の終身刑の判決を受けた。彼女の身に何が起こったのか。


TONIC
Melissa Pandika
May 1 2018, 9:00pm

2014年5月20日、ルディ・コロナドがカルフォルニア州カーソン近郊の自宅前でトラックの修理をしている時、義理の母親が叫び声をあげた。

ルディは自宅に駆け込み恐ろしい光景を見たのだった。彼の3人の娘、2歳のソフィア、1歳のヤスミン、3歳のセニアの死体がベッドに横たわっていた。彼の妻、キャロルが彼女たちの喉を切り裂いたのだった。彼女はヤスミンの頭をハンマーで打ち、ソフィアとセニアの心臓を突き刺していた。それぞれの少女たちの胸部には、血で十字架が書かれていた。

キャロルは裸で娘たちの死体の上に屈んでいたが、彼女の夫と母親に向かってナイフを振り回した後、自身の胸を突き刺した。警察が到着した時、キャロルは娘たちの隣に横たわり血にまみれて宙を見つめていた。彼女は肺を突き刺していたが生き延びたのだった。

2016年、キャロルは彼女の3人の娘たちを殺害した罪で、仮釈放なしの3回分の終身刑の判決を受けた。2月には州上級裁判所がこの判決を支持した。

キャロル・コロナドが起こした犯罪は珍しいものだが、唯一のものではない。最近のブラウン大学の調査では、アメリカでは1976年から2007年の間に平均して年に200件のマターナル・フィリサイド(母親が自身の子供を殺すこと)が起こっているという。昨年、インディアナ州の母親が6歳と7歳の子供を手で窒息死させて自由刑130年の判決を受けている。そして今年3月にはカリフォルニア州でサラ・ハートとジェニファー・ハートがSUVに子供を乗せたまま崖から転落し、自分たちと6人の養子にした子供たちが死亡した。直前に児童保護サービスが彼女たちの家を訪れていた。子供のうちの1人が「母親たちが罰だと言って何も食べさせてくれない」と言って頻繁に食べ物を貰いに来るようになったと隣家から通報があったのだった。

こうしたケースは世間の大きな反響を呼ぶ。私たちはこうした罪を犯した彼女たちを、法的にだけではなく自然の本質を侵しているものとして見る。「私たちは母親の子供に対する愛情を神聖なものとして考えています。外界からどのような危険が子供に迫ったとしても、母親は子供を守ろうとするというものです」とサンタクララ大学法科大学院の教授で「When Mothers Kill(母親が殺す時)」の著者であるミシェル・オベルマンは言う。マターナル・フィリサイドは「私たちの本質的な部分にショックを与えます。母親が母親としての役割を裏切るからです」。しかし、私たちが母親の役割と理解しているものについて再検証する必要があるかもしれない。現在悲劇が起きているこの状況は、これまでの私たちの母親に関する見方が歪んでいることを示唆している。これは危険なことだ。

ケース・ウェスタン・リザーブ大学の分析では、マターナル・フィリサイドで有罪となり投獄された人や精神の不安定を理由に無罪になり入院させられた人は精神病への罹患率が非常に高いとされる。実際、ロサンゼルスの施設でキャロル・コロナドを担当し、裁判で証言もしたトラング・セパは、キャロルが産後精神病(妄想や幻覚を伴う出産後の精神不安定)によって娘たちを殺すに至ったのだと信じている(セパのキャロルについてのコメントは一般市民の証言とされているため、秘匿される健康情報には当たらないと考えられる)。しかし、精神病は外部からの影響も受ける。母になることは喜びをもたらすのが自然なことだという社会一般の期待は、母親になったばかりの人を精神的に追い詰め、キャロルのように助けを求めることやトラブルに陥っていることを恥ずかしく思う人を孤立したままにしておくことになる。社会的支援の欠如、睡眠不足、その他のストレスの原因となるものが更に母親たちを追い込んでいる可能性がある。

産後精神病とは、気分の不安定さや「ベイビー・ブルー」と呼ばれるものから始まり、産後鬱病へと繋がって陥るものであるとされる。産後鬱病は10人に1人以上の女性が影響を受けると見られていて、症状としては悲壮感や罪悪感を感じることが挙げられている。産後精神病は更にまれで、2017年の調査では1000人のうち1〜3人にだけ発症した事例が報告されている。産後精神病の症状は更に重度であり思考の混乱、不規則な行動、不安な気持ちを伴うとされる。例えばキャロルは事件の一週間前に夫がテレビを見ている時に家全体の電源を切り、夫が子供と一緒に「ファミリー・ガイ(アニメ)」を見ているのを叱責したという。更に事件の数日前にはキャロルがソファーに座っていた夫に襲いかかったことを夫が話している。そして、事件の日の朝、彼女は母親に電話し、夫を恐れているという内容で酷く取り乱したメッセージを残したのだという。

現在はUSCのケック医学校で精神科の助教授を務め、病院の医師でもあるセパは2014年にキャロル・コロナドを精神病であると診断している。彼女は、キャロルは子どもたちを殺害した日に「極めて邪悪で恐ろしい思考を持っていた」と言うが、そこに至るまでの思考過程を覚えていないようだと話している。(暴力的な行動を自分でしたり、身近に経験した場合に記憶が抑制されしまうのは珍しいことではないとセパは言う)。

ケース・ウェスタンの分析ではマターナル・フィリサイドのうち16〜29%が母親の自殺を伴っており、それ以外でもキャロルのように致命傷にならない試みをする人が多い。ネグレクトのような虐待とは対象的に、こうしたケースでは母親が「利他的」な動機を持っていることが多い。自分の子供が冷酷な社会の中で母親無しで育って、彼女が死ぬことよりも悪いと考えるものに子供を直面させるよりは、と、母親として最大限の利益を考えているのだとフィリップ・レスニックは話す。レスニックはこの分析の共同執筆者であり親子関係殺人研究の第一人者である。母親は子供たちを殺すことが、子供たちを性的虐待、誘拐、その他の危害から守ることになると信じている。また、例えば、2001年にヒューストンでアンドレア・イエイツが彼女の5人の子供を風呂で溺死させたのは、子供たちが10歳より前に死ななければ、地獄の炎で永遠に燃やされると信じていたからだとレスニックは指摘する。「母性本能の極めて悲劇的な現れです」とセパは言う。

レスニックは、深刻な精神病によって母親たちは理解できる動機無しに殺害に向かうことになるのだろうと付け加える。例えば、昨年生後5ヶ月の息子を刺殺したアリゾナの女性が言ったように、彼女たちは頭の中に聞こえる「子供を殺すように」という命令を実行しているのかもしれない。

セパはキャロルも同様に深刻な産後鬱病に苦しめられていたという。彼女については出産毎に悪化した鬱症状が報告されていて、精神病に繋がる危険性が高い状態だった。鬱病は「発火作用」を伴うとセパは言う。「神経は鬱症状と共に適応不能な炎を燃やすのです。… それが広がって」精神病を発症する可能性が高くなるのだという。

オベルマンの調査では母親たちの殆どが、子供たちとだけで終日過ごすことによる「母親の孤立」と合わせて産後の精神不安定を経験しているという。セパは夫であるルディ・コロナドは「キャロルを助けていた」と話しているが、彼は自動車部品販売の仕事で長時間働き、育児の大部分は彼女に任せきりだった。産後に支えてくれる配偶者がいることは母親の負荷を軽減することになる。「ですが、精神病を患った上で子供とだけ長い時間いるならば、それだけでは不十分です」とオベルマンは言う。

セパはトラウマの経験も同様に精神病に罹る危険性を高めることになるとする。実際、キャロル・コロナドは5歳の時銃で脅されて性的いたずらを受けたことがあり、大人になってから集団に強姦された経験があったという証言がある。睡眠不足も危険な要素の1つであるとセパは言う。深夜の育児でキャロルを助けてくれる人は誰もいなかった。彼女の夫は裁判の時に、「犯罪に至るまで彼女は数日間寝ていなかった」と証言したとセパは言う。「彼は、もっと役立てる可能性があったことを気づかなかったことに罪悪感を感じていたようでした」

しかしセパはこの件で犯人探しをしないように気をつけている。コロナド家のような低所得層の家族の場合、精神医療サービスへのアクセスが難しい場合が多いが、ロサンゼルス郡のように市民に無料で提供しているところもある。大事なことは医療関係者が、新しく母親になった人が異常な変化の兆候を見せていることを見極める方法を公共に周知し、より早期の介入を可能にして産後精神病に対応することだと彼女は言う。「新しく母親になった人が『助けが必要です、狂ってしまいそうです』と言う時、私たちはその声に真剣に応える必要があるのです」

しかし、新しい母親たちは喜びに溢れ、バラ色の出来事の最中に精神衛生上困難に直面していることを人に話すのは恥ずかしいと感じることが多く、「私は何処かおかしいのではないか?」という考えが残ってしまうのだとセパは言う。「私は今、至福のときのはずなのに」と。医者たちも母親に対する文化的な期待を繰り返し、患者に対して祝福をしようとすることが多い。「私たちは、寝ていない、助けが必要だ、気持ちが沈んでいる、本当に不安を感じている、という女性の言葉を聞く耳を常に持ってはいないのです。私たちは母親になるという経験を世界で最も幸せな経験にしてしまったので、そうした言葉を聞く余地がないのです。良いものしか置こうとしない Pinterest のボードのようなものです」

キャロル・コロナドは家族の「拠り所」になろうと努力し、常にポジティブでいるよう務めていた。そのことが警告のサインを見逃しやすくしたのかもしれないとセパは指摘する。「彼女は落ち込んだり鬱になったりしないように大変な努力をしていたはずです … 彼女は常に前に進もうとし、どんな状況でもベストを尽くしていました」

彼女と面談した時、セパは母親の気持ちを切り替えさせることが難しいことは知った上で、彼女の視点を子供から母親である自分のことに動かそうとした。そして、彼女が仕事に出て不在の時に子供たちの世話を手伝ってくれる人はいるのかを尋ねたりもした。こうした会話は彼女を元気づけ、全てが理想的に進むものではないのだと納得していたという。

ごく最近の世代まで、新しく母親になった人には、近所の人、友人たち、家族が子育てを手伝いに来るものだった。そうすることで、母親は昼寝することやお風呂に入る余裕ができたのだとオベルマンは言う。「そうした習慣は完全に消え去りましたが、私たちはまだ古来の『優しい母親』のイメージを捨てないでいるのです」。母親に女神のような穏やかな姿を保つことを期待し、睡眠時間の短い新生児の世話を全て1人でさせることは「無理な要求」である。

それに加えて、子供を持つことを個人の選択の結果として考える私たちの資本主義システムは、新しい母親と生まれたばかりの子供たちの利益を念頭に置いて作られてはいないのだとオベルマンは指摘する。新生児の世話は最早地域の共同体の仕事ではなく、育児のプロを雇うことだけが唯一の選択肢で、その余裕がある人だけが可能なものになっている。シンクタンク、ニュー・アメリカの報告書によると、フルタイムの託児所の平均費用は4歳までの子供で年間9,589ドル(約105万円)になり、州立大学の授業料の年間平均9,410ドル(約103万円)を上回る。この育児費用は最低賃金労働者の収入の約3分の2にもなり、低所得世帯にとっては特に難しいことになる。

レスニックの調査によるとフィリサイド(子供殺し)が起きる他の原因として、子供を邪魔だと思い誤って虐待や放置のような状態にして殺してしまうケースが含まれている。しかしこれらもより大きな社会システム上の問題に起因している。特に放置してしまうケースは子供の世話をする余裕がない低所得世帯の親によく見られる。「彼らは子供が泣くと苛立ち、困惑して子供を揺するのです」とレスニックは言う。親が配偶者に対する復讐のために子供を殺すというケースは殆ど存在しない。検察はこれをキャロルの動機として採用しようとした。検察は彼女の夫が離婚すると脅しをかけ、彼女に子供を残して出ていこうとしていたことを描写し、彼女は病気のふりをしてそれに復讐したのだと非難した。しかし、セパは他の2人の精神科医もそれぞれ彼女を精神病と診断したこともあり、この主張は受け付けない。

「キャロルに身に起こったことは私たちの文化的にこうあるべきという母親像を象徴したものです」とセパは言う。「起こったことについては、キャロルを知らなかった人も含めて私たち全てに責任があります。これは1人の人が1つの行為で起こした結果ではありません。人々の多くの失敗が重なって起きたことなのです」

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