2018年6月8日金曜日

女性が虐待関係から「ただ逃げる」ことが難しい理由


「もし彼が常に怪物のようになっていたら、たぶん私は簡単に逃げ出せた。でも彼は優しくて繊細にもなる。だから私は留まっていた」


The Conversation
Daniel G. Saunders
Apr 20 2018, 2:00am

だから私は留まっていた(And so I stayed.)

上のリンクは広く読まれたブログの記事で、これを書いたジェニファー・ウィロウビーは彼女が夫の虐待に耐えるいくつもの理由を書いた後に、このフレーズを繰り返しています。彼女はホワイトハウスの補佐官だったロブ・ポーターと結婚し虐待されていました。

ウィロウビーが虐待に耐えていた理由として挙げているものは、数百人の虐待されていた女性たちに対する調査結果と共通したものです。孤立し、自信を砕かれる虐待を受け、より大きな被害の現実的な恐怖に囚われてしまっているのです。彼女たちは第三者からの無関心、もっと悪い場合には侮辱されたような場合にも、さらに囚われた感覚に襲われるのです。

私はソーシャルワークについての研究者で、恋人間と家庭内の暴力問題について研究しています。同僚のデボラ・アンダーソンと私とで、他の研究者たちと同じように、女性たちが虐待から離れる時に直面する障壁について多くの研究論文を発表しています。私たちはその障壁がいくつかの局面では何重にもなっていることを発見しました。

個人として仕事を持っていない、限られた収入しかない、といったような金銭的な事情が重要な要素になっていることは驚くべきことではありません。他の家族、友人、専門家による支援の欠落、場合によってはこうした人たちが被害者を非難するようなことが虐待に対する無力感を後押ししていることもあるのです。

多くの場合、逃げたとしても虐待やストーキングが続く、更に酷いものになるという恐れが常に実際に存在しています。例えば、虐待してくるパートナーから女性が逃げ出した場合、その後一定期間は殺される危険性が高くなります。

隠れた障壁


女性たちが留まろうとする心理学的な理由は自然なものには見えません。このことが多くの人にとって被害者を理解し同情することを難しくしています。

ウィロウビーが「自分がどこかおかしいに違いないと考えた」と言うのは典型的な第一段階を表現しています。そして彼女は「自分でなんとかしようとした、だから留まっていた」と言うのです。

そして彼女は他の理由を書いています。「もし彼が常に怪物のようになっていたら、たぶん私は簡単に逃げ出せた。でも彼は優しくて繊細にもなる。だから私は留まっていた」

「彼は泣いて謝った。だから私は留まっていた」

「彼は助けを求め、いくつかのカウセリングやグループセラピーに通うことまでした。だから私は留まっていた」

「彼は私の知性を卑下し私の自信を破壊した。だから私は留まっていた。私は恥ずかしさと囚われた気持ちを感じていた」

ウィロウビーは私たちの研究でよく見られるテーマを描写しています。虐待者は極端に優しい人物から怪物と化します。そして被害者は虐待者が謝ると哀れみを感じます。被害者は虐待者が変わってくれるだろうという希望を持ち続けています。そして虐待者はその被害者の気持ちを踏み躙るのです。

ポーターのもうひとりの元妻であるコルビー・ホルダーネスはこのテーマを次のように表現しています。「何年間も非難の言葉を浴びせられたことで、私の独立心や自尊心は失われていきました。この関係から離れた時、私は抜け殻のようになっていていました。うつ状態になっていて勉強が手に付かないので大学院から休学措置を延長してもらわなければなりませんでした」

虐待者から離れることは多くの場合いくつかの段階にわかれた複雑な過程を辿るものになります。虐待を最小化し、虐待者を助けようとする。関係を虐待として見ることができるようになり、関係が改善する希望を失う。そして最終的に、自身の安全と正気を保つことに集中して、外部の障壁を乗り越えるために戦うことになるのです。

高い地位によって障壁が増える


虐待するパートナーから離れる時の障壁は、尊敬を集める有名人、例えばアメフトのスター選手、敬意を集める軍人、愛されている大臣のような人と結婚している女性の場合には異なってくるものでしょうか?

この分野に関してはまだ調査結果は多くはありません。最も近いものとして個別の事例研究と警察官と結婚した人たちに対する調査研究が存在します。この両方の研究から、こうしたパートナーを持つ人たちはこれまで示してきた障壁に加えて、更に2つの理由で虐待を報告することに消極的であることが示されています。

1つはパートナーのキャリアを破壊することを恐れることです。

ウィロウビーが助けを求めた時、彼女は「自分の話すことが彼のキャリアにどう影響する可能性があるのかを慎重に考えること」を相談したのだと言います。そして観念して「だから私は口を閉ざて留まっていた」と付け加えるのです。

2つめの黙っている理由は脅威を信じてもらえないことです。

ウィロウビーはブログに次のように書いています。「みんな彼のことが好きだった。人々はいつも私がどんなに幸運かを話していた。私たちが出かけるときはいつも、見知らぬ人も彼に対する賛辞を私に言うのだった」。そしてその結果として「友人も聖職者たちも私の言うことは信じてくれなかった。だから私は留まっていた」

同様にホルダーネスも次のように話しています。「虐待の性質は職場の環境で同僚たちがわかるようなものではありません。輝かしい履歴や実績があるような人の場合は特にそうなのでしょう」

また、ホルダーネスは聖職者たちは「起こっている虐待について十分に対処していない」と付け加え、更に彼女は「プロのカウンセラーに会って話をするまでに私は誰にも理解してもらえませんでした」と話しています。

ポーターの2人の元妻たちの証言は、シャーロット・フェダーズの話と一致しています。フェダーズは証券取引所の最高執行責任者と結婚し虐待されたことについて1987年に出版された「砕かれた夢(Shattered Dreames)」という本に書いています。

フェダーズは最近ウィロビーとホルダーネスと並行して手記を公開しています。その中で、人々が彼女の夫について話していたこととして「彼は一緒に暮らしたら素晴らしいに違いないと思わせる人で、特別に魅力的で頭の良い人でした」としています。

信じてもらえず非難される


世間や専門家の反応が被害者が逃げることをより難しくする可能性があるのです。例えば、ある研究では、同じ力を使った攻撃をしている場合でも、親密な相手に対するものは見知らぬ人に対するものよりも周囲の市民からは深刻なものに見えないとされています。

家庭内暴力の公的な認知件数は時間と共に減少していますが、虐待について被害者を非難する行為は依然として存在しており、これは性差別的な見方に結びついています。男女差別というのは最早問題ではなく、男性と女性には平等な機会が与えられているのだと信じているような場合です。

専門家ですらもこうしたこうした態度と無縁ではありません。医療機関、夫婦療法の場、家庭裁判所等の面談の機会に、専門家たちはしばしば虐待について尋ねることに失敗しています。虐待について話を聞いたとしても、誘発したことで被害者を非難したり、あるいは信じようとしなかったりするのです。

専門家は被害者の訴えを信頼せず公式な報告書からの裏付けを強調することがよく見られます。しかし、恐怖と恥じる気持ちは被害者を思い止まらせてしまうのです。家庭内虐待の被害者で警察や医療機関に訴え出る人は半分にもなりません。

私たちが、警察官、裁判官、看護師、医師を含む人々の態度について行った調査では、被害者を責めたり女性の被害者の訴えを信じようとしない態度は性差別的な意識に強く関係したものでした。

幸いなことに、家庭内虐待への対応の仕方についての職業訓練が、聖職者のためのプログラムから裁判官や警察官のためのものまで可能になっています。性的な偏見と戦うために全米州裁判所センターでは、無意識な偏見への認識を高める訓練のような新しい戦略の適用を進めています。

最終的には、私たちは家庭内虐待が最初から起こらないようにする必要があります。少年と成人男性の関係に取り組むことは有望な手立ての1つになっています。例えば、高校の運動部のコーチが選手たちに対して敬意を持って行動することを手助けすることや、父親にもっと子供の教育に関わってもらうことを奨励することです。

一方で、専門家でもこの問題に関わる誰でも、被害者の訴えを受けて虐待から逃げるための気持ちの強さを助けるための訓練は必要ありません。

これを私たちはジェニファー・ウィロウビーが最近被害者に対して語った言葉で実現できます。「これが現実であると知って下さい。あなたはおかしくはありません。あなたは1人ではありません。私はあなたのことを信じます」

0 件のコメント:

コメントを投稿