2018年10月23日火曜日

UAEの学問の自由


UAEの国立大学で4ヶ月過ごしてわかったこと


John Nagle
October 22, 2018

ダラムの博士課程の学生マシュー・ヘッジスがスパイ容疑で逮捕され勾留された事件によって、アラブ首長国連邦(UAE)では学問の自由が大きく制限を受けていることが明るみに出ている。だが、今回の件は酷い話ではあるものの、この石油で潤う湾岸の君主制国家をよく知る人にとっては驚くようなことではない。

今年、私は客員教授として UAE の国立大学に4ヶ月間勤務した。大学は多くの称賛に値するものだった。職員たちは来訪者が羨むような世界レベルの施設で研究を行っていて、学生たちの高いモチベーションは教える側として心地よいものだった。

しかし、この恩恵には対価がある、それは学問の自由だ。この国では学者は安全保障上の脅威として分類されているためにしばしば入国が禁止されることがある。学者たちは人権運動に関わったとして気まぐれに収監される。研究や学術上のイベントに対する検閲は日常的に行われている。私が UAE にいる間にもインターネットとスカイプの使用が予告なく規制された。

こうした学問の自由に対する制限は、権力者たちが安全保障と権威機構の脅威になると考えられる全ての活動を取り締まることについての執着が動機になっている。この国は「アラブの春」による抗議とデモ運動で混乱に陥ることに怯えていて、これを防ぐためにあらゆることをしようとしている。

この国のエリートたちに対する異議申し立てや、より広範な自由を求めることを少しでも匂わすようなことは当局の取り締まりを受けることになる。インターネット上の民主化運動を啓蒙するようなもの、特にソーシャルメディアに関しては特別に疑いがかけられている。2012年にはサイバー犯罪についての法律により、国に何らかの損害を与えるような発言に対しては懲役刑を科すことが可能になった。


カタールとの不和


現在 UAE は隣国のカタールに対して特に苛立っている。UAE はカタールがこの地域を不安定にするためにテロリストを支援していると非難している。この主張は現在ではカタールに対する制裁や封鎖を伴う外交危機に発展している。サウジアラビア、バーレーン、エジプト、UAE、そして内戦状態にあるイエメンで国際的に認知されている政府がカタールとの外交関係を断絶している。

しかし、UAE のカタールに対する敵意の本当の原因になっているのはカタールの国家出資のメディアネットワーク、アルジャジーラである。この放送局は UAE の権力者たちにとって都合の悪い話を放送する棘のような存在になっている。この批判者を追い落とすために UAE 政府は同盟国に助けを求めたのである。

アメリカの特別検察官ロバート・ミュラーの調査では UAE が2016年のドナルド・トランプの選挙運動に資金を注入して政治的な影響力を得ようと試みたという情報が検証されている。そして今年の3月に BBC は UAE が当時の米国務長官レックス・ティラーソンが対カタールについて UAE を支援することに失敗したために、解任させるようロビー活動を行っていた内容のメールを入手している。

今回のヘッジスのケースに戻ってみると、UAE 当局はこの博士課程の学生が「他国の利益のためのスパイ活動」をしていたとし、「 UAE の軍事、経済、政治上の安全保障」を危険に晒したと発表している。マシュー・ヘッジスの研究の内容は「アラブの春」が UAE の安全保障戦略に与えた影響を調査するというもので、これは明らかに UAE 当局の神経を逆なでする。彼の逮捕はこの国が学問上の言論の自由を縮小しようとしているという強力なメッセージになっている。


学問の自由の制限


私は社会科学の分野で働く学者の1人として、大学というのは言論の自由と批判的思考の拠点であるとおそらく楽観的に考えるようになっていた。UAE の国立大学で数ヶ月を過ごしたことで、私はこの地では教育というものが別な機能を果たしていることを学んだ。UAE に於ける教育とは、批判的思考を奨励するよりも、テクノクラート的な論理に基づいている。教育は複雑な社会問題を解決して現状を維持することを助けるためのものになっている。

例えば、国立大学の学生の90%が女性であり、大学は男性と女性とでキャンパスが別れている。女性は大学で学ぶことで、伝統的な母親と妻としての役割りを失うことなく、労働力として統合されることに役立つ実践的な技術を学ぶことになっている。

しかし、この国は負け戦を戦っている。女性たちがさらなる独立性を求めていることで、結婚率は下がり続け、UAE はこの地域では最も高い離婚率を記録している。教えていく中で私は、雇用の可能性が増えていることで女性の学生たちが信じられないくらい勤勉で、熱心で、意欲的になっていることがわかった。言論の自由は今後はこうした学生たちの間から問題になるかもしれない。


UAEの魅力


世界レベルの研究機関で資格を取得することを望んでいる裕福な学生が数多くいることを考えると、UAE は金銭的に余裕のない英国の大学にとっては魅力的な場所である。例として、今年9月にはバーミンガム大学がドバイにキャンパスをオープンした。しかし、こうした大学にとって学問の自由は避けられない問題になる。2008年に開設されたニューヨーク大学アブダビ校では有名になった事件がいくつも存在する。

私は学者として UAE での生活を大いに楽しみ、個人的な経験で不平を言うべきことは何もない。しかし、私はすぐに学問の自由が制限されていることを学んだ。私は再度この国に行きたいと思っているが、この記事を書いている事で UAE 当局が私に不快感を持つのではないかと恐れている。

既に何人かの英国の学者たちが UAE を批判する文章を書いたことで、入国禁止処分を受けている。そして、ヘッジスの事件からわかるように、微妙な問題について研究を行うことは恐ろしい結果を招くことになる。

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