2018年10月3日水曜日

人が恐怖感を楽しむのは何故か?


幽霊屋敷、フリークショー、絶叫マシン、こうしたものの魅力の背景にある科学

 
The Atlantic
ALLEGRA RINGO
OCT 31, 2013

1年間でこの時期(10月末)になると恐怖感を探し求める人たちはホラー映画、お化け屋敷などを楽しんでいる。しかし、恐怖感というのは、脅威や危険に対して生き延びるための自然な反応のはずなのに、なぜ私たちはその感覚を探し求めるのだろう?

社会学者のマーギー・カー博士は、計画から1年をかけて作られたピッツバーグの幽霊屋敷のアトラクション ScareHouse のスタッフである。彼女はロバート・モリス大学とチャタム大学で教鞭をとっていて、私が個人的に聞いた中では唯一の「恐怖についての専門家」である。エキスパートであるカー博士に恐怖感とは何か、そしてなぜ人はそれを楽しむのかを聞いた。


なぜ恐怖を感じることを楽しむ人とそうでない人がいるのでしょうか?

全ての人が恐れを楽しむわけではありませんし、本当の意味で命が脅かされるような状況を経験したいと思う人はいない、というのを誇張だとは思いません。ですが、私たちの中には(かなりたくさん)そうした経験を本当に楽しむ人たちがいます。まず、闘争逃走反応による高揚感は良い気分を感じさせてくれます。これは人を選ぶものではなく、脳内の化学反応によるものだという強力な証拠があります。そしてデイヴィッド・ザルド氏による最新の研究では、スリルを感じる状況に対する化学反応は人によって違いがあることが示されています。恐怖やスリルを感じる行動をする時に主に放出されるホルモンはドーパミンです。一部の人たちは他の人たちよりもドーパミンによる反応でより強い興奮を得ることが明らかにされています。ザルド氏が「ブレーキ」と表現する脳内でドーパミンを放出して再吸収するものが根本的に欠けている人もいます。つまり、スリルがあって恐ろしく危険な状況を楽しむ人もいれば、そうでもない人もいるということです。

終わった後に自信を感じさせてくれることも多くの人たちが恐怖を感じる状況を楽しむ理由になっています。恐ろしい映画を見終わった時、あるいはお化け屋敷を通り抜けてきた時の達成感を考えて下さい。「よし!やり遂げた!」というような気持ちになったでしょう。こうした感覚は自尊心を増大させます。しかし、繰り返しになりますが、すべての人がそうなるわけではありません。恐怖を感じる状況を楽しまない人がいることは心理学的にも個人の問題としても理由はたくさん存在します。私はお化け屋敷に入ろうとしない人たち何人かに話を聞いたことがありますが、彼らは子供の頃にそうした場所に行き、トラウマを持っていました。私は常にお化け屋敷に子供を連れてくる親には、その内容と年齢制限を徹底してチェックするように勧めています。闘争逃走反応によって脳内に放出される化学物質は恐ろしい体験を強力な記憶(「フラッシュバルブ記憶」)として残す接着剤のような役割をします。出てくるモンスターが偽物であることを理解できない年齢である場合には、極めて大きな精神的な衝撃となり、悪い意味で忘れられないものになってしまうことがあります。


恐怖を感じる時私たちの脳内では何が起こっているのでしょう?私たちが「楽しく恐れている」時と、実際の恐怖とでは違いがあるのでしょうか?

恐怖を感じる状況を本当に楽しむためには、安全な環境にいることを知っていなければなりません。結局は闘争逃走反応よるアドレナリン、エンドルフィン、ドーパミンの大量の分泌を誘発させることが全てなのですが、完全に安全な場所である必要があります。お化け屋敷はこれに非常に適しています。様々な音声、爆風、あるいは匂いといったものを使って、驚きと恐怖を提供し人間の感覚の1つを刺激するのです。こうして与えられた感覚は直接恐怖に対する反応に結びつき、身体的な反応を呼び起こします。しかし、私たちの脳にはこれが「本物の」脅威ではないことを処理する能力があります。私たちの脳は恐怖を感じると稲妻のように速く働きます。私は幽霊屋敷のアトラクション ScareHouse の壁の後ろから、何千人もの経過を見てきました。誰かが叫び声を挙げて飛び上がると、そのすぐ次の瞬間には笑って笑顔になっています。この観察は素晴らしく意味のあるものです。私は、私たちがいつどのように安全であると本当に知って感じるのか、その境界線を探すことに興味を持っています。


各文化間で「恐ろしいもの」に共通した特性は何でしょうか、あるいは幅広く異なるものなのでしょうか?

恐怖を研究していて最も面白いのは、恐怖に関するそれぞれの社会的な構造を見ること、そして学習する恐怖と遺伝とすら言えるような生まれつき持った恐怖との比較を見ることです。私たちは時間的にも過去から現在まで、そして場所的にも世界中を研究して、人間が本当に何かを恐れることができるようになることを知りました。恐怖を調整する(中立的な刺激を悪い結果に結びつける)ことで、私たちはあらゆるものを恐怖の反応を呼び起こすものにすることができます。もちろん、心理学者のジョン・ワトソンが行ったアルバート坊やの実験はこのケースの1つです。この気の毒な子供は1920年代に白いウサギを死ぬほど怖がるようにされてしまいました。まだ研究者に道徳が求められていない時代だったのです。ですから、私たちは恐怖を学ぶことができるわけです。私たちが成長して社会化していく上で、育った社会の環境が恐ろしいものとして認識するものについて大きく影響することになるのです。

それぞれの文化には独自のスーパーヒーローになっている怪物がいます。チュパカブラ(南米)、ネッシー、妖怪(日本で伝わる超自然的怪物)、アルプ(ドイツの悪魔)等です。しかし、これらの間には共通した特徴もあります。怪物は何らかの形で自然の法則を破っています。彼らは死後の世界からやってきたもの(幽霊、悪魔、霊魂)か、非人間か半人間の生物です。このことからわかることは、自然の法則に反することは恐ろしいという事実です。そして、認知的にでも審美的にでも、全く理に適っていないか、不調和を感じさせるものが恐ろしいものとされています(斧を携えた動物、マスクを付けた顔、歪んだ体)。

世界の怪物に共通するもう一つの特徴として死や死体との関係があります。人間は死に執着するものです。私たちは死を迎えた時に何が起こるのかを考えただけで、辛い時間に取り巻かれてしまいます。死について深く考えることがどの文化に於いても人気のある怪物を産み出すことに繋がっているのです。各文化で独自の生き続ける死体が創られています。ゾンビ、ヴァンパイア、生き返ったか再生された死体、あるいは幽霊のようなものです。私たちは死後の世界の生活を想像したいと考えているのです。あるいはもっと良い方法として、永遠に生き続ける方法を見つけ出したいと思っています。そして、そのことはやはり自然の法則に反しているために恐怖を感じるのです。ですから、それぞれの文化で怪物の性質と名前は異なっていますが、その構造の背後にある生み出された動機ときっかけは世界中で共通したものです。


狙って自分たち自身を怖がらせていた古い例はありますか?

人類はその種が誕生した時から、例えば物語や、崖から飛び降りる、暗い洞窟から飛び出してくるような方法でお互いを怖がらせていました。こうしたことには様々な理由があります、集団を結束させるため、子供が恐ろしい世界で生きてゆく準備のため、もちろん、行動を統制するためでもありました。しかし、楽しみ(と儲け)のためにお互いを怖がらせることが人気の体験になったのは最近の数世紀のことです。

自身を怖がらせて楽しむことが発明された話で、私が気に入っているのはローラーコースターの例です。17世紀半ばにロシアン・アイス・スライドが始められました、この名前が付けられたのも当然で、雪に覆われた山を使った拡張された滑り台のようなものでした。現代の多くのものと同じようにソリに座って乗り込みスピードを出して山から滑り降りるのです。山には人の手でコブが作られていて、更に楽しめるものにしていました。このロシアン・アイス・スライドは18世紀になって更に洗練され、木の骨組みで作られた人工の氷の山を使うものになりました。最終的にこの「ロシアン・マウンテン」から叫びを上げて滑り降りる乗客を乗せるものが氷とソリに代わってレールと車両になったのです。革新的な製作者たちが、乗客が通り抜ける壁にショックとスリルを与える恐ろしい絵を描いたことで、更に爽快な恐怖が増したものになります。これは「ダークスライド」と呼ばれて人々は怖がっていましたが、愛されていました。

人々は身体的なスリルだけを楽しんできたわけではなく、キャンプファイヤーを囲んで幽霊話をするのはサマーキャンプをするようになるずっと前から行われてきたことです。18世紀の墓場派と呼ばれる詩人たちは、蜘蛛、蝙蝠、骸骨を主題に詩を書き、パーシー・ビッシュ・シェリーやエドガー・アラン・ポーといった19世紀のゴシック派の小説家へ繋がる道を開いたのです。恐怖を感じさせる小説は書かれ続け、私たちの生活に、陰謀、爽快感、興奮を提供し続けています。

19世紀には幽霊屋敷のアトラクション産業にも先駆けがもたらされました。1800年代の半ば以降には、サイドショーや「フリークショー」、博物館や所謂「見世物小屋」が存在していました。おそらく最も有名なのは、バーナムのアメリカ博物館で、P・T・バーナムによって経営されていました。バーナムはサーカスを経営していたことでも知られています。彼の博物館には魚のヒレがついた猿の胴体のようなものが展示されていて、それ以外のものも恐怖と驚きを提供するものでした。現代のお化け屋敷と同様に、客は自分自身とその勇気に挑戦するために、フリークショーや恐ろしい異常な場面に敢えて入っていくのでした。幽霊屋敷のアトラクション産業は魚のヒレやプラスチック製の蝙蝠から長い道のりを歩んできました。現代のお化け屋敷はハリウッド並の品質で整えられ、私たちを怖がらせるために設計された信じられない量のテクノロジーが組み込まれたものになっています。


恐怖を感じる環境で初対面の人と会うと、ストレスの少ない環境で出会うよりもその人をより魅力的に感じる、というよく言われる話があります。この話に真実は含まれているのでしょうか?

私たちがハロウィーンを好む理由の1つは強力に感情的な反応を作りだすことで、その反応の働きによって強い人間関係と記憶を作り上げることになるからです。私たちが幸せであるか恐れを感じている時、私たちはオキシトシンのような、その瞬間を脳に貼り付ける働きをする強力なホルモンを分泌しています。なので、私たちはその時一緒にいた人をよく覚えているのです。それが良い経験であれば、中庸で平凡な環境で出会った場合よりも、その愛情を覚えていてより身近に感じることもあるでしょう。心理学者のシェリー・E・テイラー氏は「思いやりと絆:ストレス環境下における生物行動」という記事の中でこのことについて言及しています。彼女は、私たちが興奮した状態にある時に一緒にいる人たちとは特別に親密に関係を築くこと、そして、更に重要なのはそれを本当に良いものにすることができることを示しています。私たちは社会的で感情的な存在です。私たちはストレスの中で生きていく必要があるので、私たちの体は恐れを感じている時に一緒にいる人を身近に感じるように進化してきたという事実は理に適った話です。なので、そうです、デートではお化け屋敷かローラーコースターを選んで下さい。きっと忘れられない夜になるでしょう。

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