2018年10月6日土曜日

制限速度を緩和しても交通の高速化にはならない


英国政府の大蔵首席政務次官リズ・トラスは生産性を改善するために高速道路の制限速度を上げるべきだと考えているようだが、実際はどうなのか。


The Conversation
Richard Llewellyn
October 5, 2018

英国の国家的な生産性を高める方法として普通自動車の高速道路の制限速度を80mph(約130km/h)に上げるべきだという話が最近政府筋から出てきている。この提案は昔から延々と出ているもので、この10年でも1度政府によって却下されている。現在の70mph(約110km/h)という速度制限は英国民の精神に刻み込まれているという主張もあるが、ドライバーの48%はそれに従わない選択をしている。

制限速度を上げることで本当に生産性に影響を与えることができるかどうかは別として、そもそも高速道路の制限速度を上げることで移動時間は変わるだろうか?

大きな問題点は継続的な渋滞によって人々がとても制限速度では移動できていないことにある。高速道路管理局の前の局長は、高速道路のいくつかのルートでは混雑のピーク時の速度は40mph(約65km/h)程度になっていると考える必要があるとしている。別な問題としては、【ファントム渋滞】と呼ばれる現象がある。これは周囲に比べて速すぎる速度で車間を詰めて運転する車がいる時に起こるもので、もし、1台の車が急ブレーキをかけた場合、その後ろにいる車は強制的に停止させられるまですべてブレーキをかけることになってしまう。

近年、英国が渋滞問題について取り組んできた主な方法は道路を増設することではなく、所謂スマート高速道路の導入を進めることである。この道路は交通の流れに応じて制限速度を変化させるものだ。皮肉なことに、スマート高速道路が車の速度を下げることでファントム渋滞の発生を防ぎ、すべての人が目的地に早く着くことができるようになる。

この技術は道路上に車が少ない場合にはより高速な走行を許すことにも使える。オランダではスマート高速道路が制限速度を120km/h(75mph)から130km/h(81mph)に上げることがある。しかし、混雑のピーク時に移動する人たちは、スマート高速道路が適切な速度に制限をするため制限速度自体を上げても利益になることはなく、生産性向上の可能性という意味でも効果は限定的なものになる。

制限速度を上げる議論の中で言われることに、現在の速度制限(と殆どの道路)は古い世代の車両に合わせて設計されているというものがある。あらゆる道路には自由な状態で運転手の85%が選択する速度を参考にして決められた設計速度が存在する。現在の英国での標準的な設計速度は50km/h(31mh)から120km/h(75mph)であり、道路の種類によって異なる。そして道路の設計速度は必ずしも法定速度とは一致しない。

つまり、道路はこの設計速度で安全に走行ができるように作られている。これには車がその速度で道路からはみ出るほどカーブを鋭くしないことや、運転手が緊急時に安全に停止できるような視界の確保が含まれている。つまり、設計速度よりも高速で走行する車は事故を起こす可能性が高いことになる。

多くの人は、こうした基準は歴史的な設計に基づいたもので、現代の車両はより効果的な制動装置と操舵装置を備えていると主張している。仮にこれが正しいとすれば、既存の道路は設計基準が保守的であり、設計速度よりも高速で運転する場合の危険性は低減されているということになる。2020年までに、車両設計の変化の調査も含めた幅広い基準の見直し作業が完了する予定で、道路の構築方法も更新される可能性がある。

しかし、現代の車が道路の設計速度よりも速い速度で安全に走行が可能だとしても、全ての道路で起きる事故の95%は人為的なミスによるものである。私たちの殆どは自分で考えているほど良いドライバーではない。イングランドのドライバーたちは十分な車間距離を取ることが出来ていないということを強調したキャンペーンが最近開始されたことがこのことをよく表している。より高速になれば、何か起きた時に対応する時間も少なくなる。

最近、経済開発協力機構(OECD)が10カ国を対象に行なった調査で、高速道路を含めて道路の制限速度が上がるほど重大な事故が一貫して増加することが示されているのは驚くに値しない。そして、より多くの事故が起きることは、より多くの渋滞と移動時間の長時間化に繋がる。


最善のシナリオ


しかし、これらの要素をすべて脇に置いて、高速道路を制限速度で継続的に運転できるとして、それが10mph速くなったところで何かが救われることがあるだろうか?高速道路は他のルートと比較して大規模な交通量を比較的安全に処理できているが、それはイギリスの道路網全体のごく一部に過ぎない。あらゆる旅行の最初と最後は最も速度が遅くなるその土地の都市部を通過するものであり、この部分に速度制限の変更で得られる利益はない。

政府の統計によれば高速道路を利用した移動の88%が50マイル以下の距離とされる。これを70mphではなく80mphで継続して走行できると仮定すると、短縮される時間は最大でも5分程度である。

つまり、条件の良い日であれば制限速度を緩和することで多くの運転手たちはお茶を一杯飲む程度の時間を作ることができるかもしれない。お茶を飲むことが国家の生産性を向上させるかどうかはまた別な議論になる。

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