2018年10月29日月曜日

郵便爆弾は爆発しなくても社会に影響する


テロリズムの一般的な動機、目的、効果、影響とは何か


The Verge
Angela Chen
Oct 26, 2018

今週、連邦当局はトランプ大統領を批判する有名人を狙った一連の郵便爆弾について捜査を続けている。狙われた中にはバラク・オバマ前大統領や有名投資家のジョージ・ソロスが含まれている。今朝(10/26)も新たに2つ、民主党議員のコーリー・ブッカーと放送局 CNN に送られていたものが発見された。

(この記事の時点では)まだ容疑者の名前は公式には挙げられていないが、この出来事はヘッドラインを賑わせ続けている。The Verge はジョージア州立大学のテロリズムの専門家で、「The Psychology of Terrorism(テロリズムの心理学)」の著者であるジョン・ホーガンに、テロリズムの目的、適切な対応の仕方、そして、この郵便爆弾が雑な仕事だと言い続けるのを止めた方が良い理由を聞いた。

このインタビューはわかりやすくするために多少編集している。


まず最初にですが、テロリズムとは何なのでしょう?他の暴力行為とテロリズムとはどう違うのでしょうか?

テロリズムとは恐怖を徐々に植え付ける戦略のことです。暴力そのものや暴力の脅威を利用して、社会的、政治的、あるいは宗教的な変化を作り出そうとする心理的戦争の一形態です。テロリストの暴力は他の暴力と異なり大きな将来像が描かれています。短期的な効果は、脅迫すること、混乱を起こすこと、あるいは具体的な殺害も含まれますが、テロリズムの要点は幅広い市民を対象にした広範なメッセージが存在することです。


では、ある意味ではテロリズムには注目を集めることが必要ということでしょうか?

その通りです。近所をうろついていれば犬に脅かされることもあるかもしれませんが、それがテロリズムということにはなりません。


テロリズムの形として効果的なものとそうでないものという序列はありますか?何が広がることが最も恐れるべきことなのでしょうか?

斬新さが人々の注意を引くという傾向はあります。私たちは日常的に銃乱射事件が起きる国と時代に暮らしています。そこからすると爆弾というのはドラマチックなものに感じます。銃の暴力とは異なる手法で恐怖を植え付けるものです。今起きている事件の場合はターゲットにされた人々に具体的な特徴があるようですが、爆弾を使う場合のポイントはそれが無差別に効果を発揮するということです。爆弾を使ったテロリズムが作り出す心理的な戦争の形態は、郵便局員やたまたまそこにいた近所の人のように運悪くその時その場所にいた人全てに影響を与える可能性があるというものです。

私たちは既に短期間に大量の爆弾が送りつけられるのを見ています。これ自体極めて異常なことです。これは一回限りとして計画されたものではなく、テロリストには繰り返し攻撃を行うことができる力があることを感じさせています。


今回の件は公衆を怯えさせてはいますが、今の所誰も怪我はしていません。このことに問題はありますか?

私たちは極めて注意深くなる必要があります。今回の件について嘲笑にも等しいような「偽旗作戦」であるとか「原始的な計画」だとかいう声があります。1940年代から50年代にかけて「マッドボンバー」と名付けられたジョージ・メテスキーという非常に興味深い連続爆弾魔がいました。彼は約30ヶ所に爆弾を仕掛けた人物で、警察は彼を捕まえるのに16年を要しました。

大事な点は、彼の使った爆弾は最初は非常に雑なものだったことです。最初のうちは機能せず爆発しませんでしたが、彼は徐々に技術を上げて最終的には多くの人々を傷つけることになったのです。私たちは現実に機能していないことを大袈裟に誇張しないように注意する必要があります。今の所 FBI が私たちにあまり多くを公開していないことは、私は良いことだと考えています。


テロリズムには注目を集めることが必要だということを前提にして、メディア報道の倫理についてはどうお考えでしょうか?これは常にジャーナリストたちが考えていることだと思います。

これを報道するなというのは非現実的な話だと思います。重要なのは動機について推測が氾濫するのを避けることです。今回の件は動機については明確に推測できる部分もありますが、私たちが現在認識していることよりも多くの事実が存在するはずです。事実として、私たちはこの事件について多くのことを知っているわけではないのです。

この事件は誰に責任があるのかと多くのことが言われていますが、心理学者の役割りとして私が言うべきことは、一般的にイデオロギーと妄想というのは紙一重だということです。一般的に連続爆弾魔を見た場合、傾向の1つとして、自分が虐げられていて、自分に対する悪意の陰謀に緊急に対応する必要があると感じている、というものがあります。私たちはそんな奇妙な時代に生きていますよね。私は大統領が暗黙のうちに将来の破壊的な行動を促しているように見える、という事実から私たちが逃れることはできないと思います。

この種の行為をする人についての研究から明らかにされてきたことでポジティブなことの1つに次のようなものがあります。それは、その人の周囲の人々は事件を起こす前からその人が不満を持っていることについて何かしら知っている場合が多いということです。私は119件の「単独犯」について調査をしました。その中では60%を超える割合で、友人、家族、職場の同僚が犯人の意志に気づいていました。それは本人が実際に話すからです。また、半分のケースでは犯人はいつも怒っている人だと考えられていました。この研究から今回の事件について絞り込むことはしませんが、この犯人について一般に「孤独な一匹狼」という比喩を数多く目にすることについては、実際には犯人がそのような人であることは稀だということは言えると思います。


こうしたテロリズムが私たちに与える影響とは何なのでしょうか?

テロリズムはテロリストが長期的な目標を達成するにはそれ程効果的ではないかもしれませんが、多種多様な実行者にとって魅力的な戦略である理由は短期的に見れば極めて効果的だからです。テロリズムは私たちを一時停止させるのです。

大統領を批判する有名人たちを害することが真の目的であったとしても、偶然にも何処かその場所にいる人は誰でも犠牲になる可能性があるという考えを広めることについては不安を煽ることに成功するわけです。テロリズムというのは根本的な混乱を起こすものです。「私は次にこれをして良いのだろうか?」と考えるようになる、郵便受けを開く前に一時停止するようになる、地下鉄に乗る前に一時停止するようになる。こうしたことは意図した効果です。


銃による暴力はあまりにも頻繁に使われすぎていてテロリズムとして殆ど機能しないというお話がありました。このことは私たちに更にショックを与えることになるのでしょうか?心配している人たちは安心を得るために何ができるのでしょう?

戦術としてのテロリズムの矛盾の1つは、長期間に渡って恐怖を効果的に持続させるのが困難なことです。それは、人間の体は不安が維持されるようにできていないからです。私たちは時間と共に機能として何らかのベースラインに戻ることになります。ここでの皮肉は大衆はかなりの速さで適応してしまい、普通に生活するようになってしまうことです。

私たちは今でも郵便を受け取る必要があり、朝には仕事に行く必要があり、生活を続ける必要があります。私たちにはショックから回復するための能力が備わっています。なので、警戒心と安心感との間はそう離れたものではありません。結局「グズグズせずにやれ(just get on with it)」という古典的なアドバイスに行き着くことになります。自分の生活を続けることです。私たちはテロリズムよりも私たちを傷つける可能性が高い危険な普通のことに日々晒されています、例えば自動車に乗るといったようなことです。ですから、今回のようなことを恐れるべきではないのです。

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