2018年5月20日日曜日

あなたの小さな呼吸音が私を怒らせる:「音への苛立ち」と共に生きること


ミソフォニアの人々にとっては、人が噛む音、啜って飲む音、そして呼吸の音すらも純粋に怒りと嫌悪のきっかけになり得る。自分を苛立たせる音ばかり立てる人をどうやって愛すれば良いというのだろう?


Broadly.
Callie Beusman
SEP 12 2015, 3:05AM

少なくない割合の人が、誰かがポテトチップスをかじる時に立てる音や、誰かが地下鉄の中で荒く呼吸をする音を文字通り拷問とも言えるものと感じている。ミソフォニア、選択的音声過敏障害、「音嫌悪症」などとも呼ばれるものを患う人には、こうした騒音は激怒とパニックを引き起こすものになる。

ミソフォニアはアメリカ精神医学協会による診断及び統計のマニュアルには精神障害として記載されていないため、症状に定義が存在しない。この殆ど知られていない怒りを伴う病気についての神経生物学及び心理学による入門書である「サウンド・レイジ」の著者、ジュディス・クラウテイマーによれば、この病気は「主として聴覚への刺激に対する、怒りの感情による反応と、生理学上の闘争/逃走(fight/flight)反応とに特徴づけられる発育上の神経生物学的な障害」であるとされる。ミソフォニア治療研究所のディレクターであるトム・ドジアは、自律神経系によって制御される「パブロフの条件反射における身体的な反応の問題」であると定義している。 misophonia.com を運営するポール・ディオンはもっと簡潔に「ミソフォニアとは地獄」と表現する。

ミソフォニアとは、外部からの聴覚や視覚へ与えられた刺激に対して不快な身体的反応が起こるものと一般に理解されている。虫酸が走る、歯を食いしばる、拳を握りしめる、怒りとパニックを感じるというようなことを伴う。2013年の研究によると、一般的にきっかけとされるのは、食べている時の唇の音や噛む音、呼吸又は口の中の音、鼻を啜る音、ぜいぜいする呼吸音、のようなものである。これ以外にも悪名高い黒板を爪で引っ掻く音や、延々と止まらない貧乏ゆすりのようないくつかの視覚的な刺激も一部の人たちには同様の効果を及ぼすことがある。多くの研究では人口の15%から20%の人にこの症状が見られ、男性よりも女性の方がこれを経験する可能性が高いとされる。

ミソフォニアが何によって引き起こされるのかははっきりしていないが、研究者たちの間では基本的な感情(恐れ、喜び、怒り)と欲求(食欲、性欲、支配欲)を司る大脳辺縁系の不全によって起こると信じられている。仮説によっては、受けた知覚が別の感覚を無意識に誘発する「共感覚」に近いものであるとするものもある。別な言い方をすれば、ある種の音が無意識に大脳辺縁系を刺激し、意図せぬ怒りや恐れの感覚を作り出すということである。

ミソフォニアはこのように新しく発見された現象であり、他人が噛む音に苦しんでいることが神経生物学的な障害であるという側面を理解する機会に触れることは稀であるために、今の社会では多くの誤解が存在している。例を挙げれば、TV番組「Today Show」のカティー・リーとホダはこの現象「misophonia」を「miso-phony(いんちき)」と嘲笑して、ミソフォニアのコミュニティを怒らせ、Change.org で謝罪を要求する署名活動が行われる事態となった。クラウテイマーの説明によれば、多くの場合ミソフォニアは単に不快な音に苛立つことと一緒にされてしまうが、それは間違っているという。例えば、誰かが教室でガムを噛んでいる場合はどんな人でもクチャクチャする音に不快を感じるが、ミソフォニアの人の場合はパニックを起こし、怒りの感情で授業に集中するのが難しくなる。

「ミソフォニアは日常生活を崩壊させるのです」とクラウテイマーは説明する。「ミソフォニアの人は、誰かがガムを噛んでいれば、生理学上の反応として闘争/逃走反応が起こるのです。彼らはその音を聞き、あいつは本当に嫌だ、あいつは不愉快だ、と考えるわけです。不安のレベルが上昇し、怒りの感情でいっぱいになるのです」

ドジアもミソフォニアは誤解されることが多いことに同意して、彼が見てきた人たちには、自身の症状に名前があることを学んで「大きな救済」を感じたという人がたくさんいたことを指摘した。「彼らは狂っているわけではない、つまり単に異常に怒りっぽいわけではないことを認識したわけです」と彼は言う。「ミソフォニアは本人にとってみれば身体的な拷問のようなものです。何年もの間、間違った診断がされ『あなたの頭の中にだけあるものです』と言われてきたのです」

当然のことながら、通常は無害なその場の雑音の存在に純粋な怒りを感じることは社会生活を崩壊させる。クラウテイマーは彼女自身が好きなバレエを鑑賞しに行くことを恐れていると話す。静寂が求められる状況では、観客の誰かの鼻を啜る音によって邪魔されることに特に脆弱になるからだと言う。ミソフォニアを伴う人の多くは、食べるか飲むことについて何かしらの心配の種を抱えてる。「周りに他の人がいる場合は常に危険が伴います」とディオンは言う。「周りの人が、私が狼狽するような音を出さないことはできないので、どうしようもないのです」

親密な人間関係の中では事態は更に悪くなる。愛する人がいて、その人たちと多くの時間を共有したいと思っている時に、生きるために不可欠な行為である食べる時と呼吸をする時の音に我慢ならない場合、どうしたら良いのだろうか?ミソフォニアの集会や支援団体では、彼らの愛する人が無意識に出す様々な騒音についての不満を共有することが一般的になっている。また、この分野の専門家によると、ミソフォニアを持つ人の多くは自身でコントロールできない怒りの感情について、罪悪感を語るという。

「私はボーイフレンドに対して文句を言うことにうんざりしています。彼はとても協力的で、私の生活が楽になるようにベストを尽くしてくれるのですが、私は気分が悪くなると彼をがっかりさせるようなことを言ってしまいます」と、ある女性がミソフォニア支援団体のFacebookに書き込んでいた。「私は自分が悪化していることを知っています。私の視界の範囲で誰かがガムを噛んでいるだけで、頭に血が上りストレスが溜まるのです… その場で泣き喚かないように全神経を集中するので、本当に疲れます」。(もちろん、ただ怒ってそれを吐き出そうとする人もいる。「私の父はなんでもクチャクチャ噛んでいます。前にスープまで噛んでいるのを見て、私はその場を離れました」と、あるユーザーが書き込むと、1時間以内に他の誰かが「私は本当にそれが嫌です。なぜ元から柔らかいものを噛むのでしょう?」と反応していた)

クラウテイマーは現在ミソフォニアと親密な人間関係についての本を書いていて、彼女はそのために既に100時間近いインタビューを行っている。「咀嚼、いびき、鼻を啜る、爪を噛む、啜って飲む、飲み込む、こうした時の音が怒りを呼び起こす、という要素が加わることで、人間関係に全く別の問題の層が追加されます」と彼女は言う。ミソフォニアの人々は聴覚への刺激に対して過敏になっていることが多く、無意識に彼らが嫌う音を探してしまっている。「いびきに刺激されて誰かと一緒に寝ることができないのは大きな問題になります。一度いびきに刺激を与えられてしまうと、音の大きさは関係なくなるのです」とドシアは言う。「耳栓をしてボリュームを下げても普通の人が感じる厄介な音とは異なり、いつまでも怒りが湧いてくるのです。これは人間関係に困難を及ぼします」

ミソフォニアの支援団体には、この状況を助けるための豊富な資料が存在する。misophonia.com のサポートフォーラムには「元カレの瞬きの音を聞いたことがある!」という題の投稿がされている。他の投稿では、ドイツの男性がガールフレンドとのことについて長々と書いている。「私のガールフレンドの、呼吸、嚥下(えんか)、咀嚼が私を激昂させます」というものだ。そして、3月にはある女性が、夫の呼吸音が気になり、同じベッドに寝ることができなくなったと書いている。「彼は呼吸しているだけなのですから、私が彼を突いたり押したりすることを正当化することはできません。私はベッドに横になって、ずっと起きていて不満と怒りを募らせています」と彼女は書いている。「このことで泣くことも少なくありません」

ミソフォニアの人々が、絶えずスープをクチャクチャする人や、常にいびきをかく人と生活をすることは上手くいくものではないかもしれない。しかし、研究者たちは、暴露療法による心身症患者の治療技術を用いて、ミソフォニアに対応する方法をいくつか提案している。その間の最善の緩和策は理解と忍耐があるパートナーを見つけることであるとされている。「私の夫は私がミソフォニアにとらわれる瞬間を掴んでいます」とクラウテイマーは話す。「彼がシリアルを食べている時に、私がコーヒーを取りにキッチンに入っていくと、彼は必ずスプーンを口から3インチ離れたところに留めて私が出ていくまで待っていてくれます。私はとても感謝しています」

ドシアの娘も成長する中でミソフォニアに苦しめられていた。「彼女は食卓の何処に誰が座るかやかましく言い、なるべく私から離れて座ろうとしていました」と彼は振り返る。「私は不満な顔をしていましたが、彼女はそれについて不平を言いたげでした。私はその場を離れることにして『メリッサ、私にはどうすることもできないんだよ』と言いました」。そのやり取りで彼自身が傷つくことはなかったかと聞くと、彼は少し笑って「いいえ、『他にどうしようもないのだ』と考えました」と答えた。

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