2018年4月7日土曜日

ガザ地区での抗議運動はパレスチ側に多くの死者と負傷者を出している、しかしイスラエルは殆ど批判に直面していない


ガザ地区のように包囲封鎖された都市部の地域の政治的価値は上昇している。そうした場所はその中に閉じ込められた人々の被害についての情報が公になることの妨害が困難だからだ。


Patrick Cockburn
6 April 2018

金曜日、数千数万の人々がイスラエルの占領に抗議するため国境に戻り、イスラエルの狙撃兵から身を隠すためにタイヤの山に火を付けて黒い煙幕を作り出した。ガザの保健局によると金曜日には5人が殺害され、1070人が負傷した、そのうち293人が銃弾の攻撃によるものだった。

抗議に参加した人たちはこれによって何が起こるかをわかっている。大行進の初日に撮影された映像では抗議運動の参加者が境界のフェンスから離れようと歩いているところをイスラエルの狙撃兵に背中を撃たれるところが映し出されている。それ以外の映像でも、祈りを捧げている、丸腰で境界のフェンスに向かって歩いている、パレスチナ国旗を掲げている、こうしたパレスチナ人たちが殺され、傷つけられている。境界から300ヤード以内にいる人々は全て、イスラエル軍は「扇動者」と見做し、狙撃するように命令が下されている。

「制御できていないものはありません。全て正確に計算通りであり、我々は全ての銃弾がどこに着弾するか把握しています」とイスラエル軍は3月30日に大量の銃撃の後にツイートした。この日は70年前にイスラエルに追われた人々が帰還するとして、パレスチナの人々が「帰還大行進」と呼ぶ45日間続く行動の最初の日だった。このツイートすぐさま削除された。おそらく抗議活動の参加者が背後から銃撃される映像が広まったことが理由だ。

一週間前の抗議運動初日の死傷者の数字の中で目立つのは攻撃によるものだ。ガザの保健局によればその日は16人が死亡、1415人が負傷、そのうち758人が銃弾の攻撃によるものだった。この数字にはイスラエル側から反論があり、数十人の怪我に過ぎないという。しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、ガザ市のシファ病院の医師は294人の抗議運動参加者の手当をしたとし、その多くが「実弾で下肢を撃たれたことによる怪我」だという。


1948年に難民となった200万人のパレスチナ人のことではなく、2011年以降トルコ、レバノン、ヨルダンに逃れた600万人のシリア難民が失った家に帰還しようと行進するところを想像してみて欲しい。彼らがシリア国境に近づくと、シリア軍から攻撃を受け数百人の死傷者が出る。シリアは当然行進してくる彼らは武装していて危険だと釈明するが、シリア軍に負傷者が出ていないことと話が矛盾する。

国際社会はシリアの殺戮に反発し、ワシントン、ロンドン、パリ、ベルリンで大きな反響が起こる。ボリス・ジョンソンはアサドを屠殺者だと罵り、アメリカの国連大使ニッキー・ヘイリーは安全保障理事会で死者と瀕死の犠牲者の写真を掲げる。

もちろん、イスラエルはこの2つの状況にいかなる類似点があることも強く否定するだろう。イスラエル政府の報道官デヴィッド・キーズはCNNがパレスチナ側の活動に「抗議」という言葉を使ったことすらも強く非難した。「実際に起こっていることはハマスによって計画実行されていることで、イスラエルを傷つけテロ行為をするために何千何万もの人々をイスラエルになだれ込ませているのです。事実として私たちは彼らが銃撃しているところ、爆弾を設置しているところ、ロケット砲を撃っているところをカメラに収めています」

これまでのところ強力に武装した抗議運動の参加者の映像というのは確認できていない。4日後、ヒューマン・ライツ・ウォッチは「イスラエル:計画的なガザの違法殺戮。非武装の抗議運動への銃撃を許可している」と第する報告書を公開した。この報告書では「抗議運動の参加者が銃火器を使った証拠は見つけられなかった」とされている。さらにイスラエル軍が公開した2人の男性がイスラエル兵を銃撃したとされる映像は、抗議運動の場で撮影されたものではないことが明らかにされた。

イスラエルの閣僚たちは抗議運動が軍事的脅威を与えているという主張が信頼を損なっても動じていない。国防相のアヴィグドール・リーバーマンはイスラエルの兵士は「ハマスの軍事工作員を断固として出来る限り撃退する… 私はそれを完全に支持している」と述べた。自由に狙撃して良いという方針はこれまで通り継続されている。それに応じてイスラエルの人権団体ベツェレムは「司令官すみません、私は撃てません」と称するキャンペーンを立ち上げた。これは非武装の市民を違法に銃撃することを拒否するように兵士たちに働きかけるものである。

なぜここに来てパレスチナ人の抗議が激化しているのか?そしてなぜイスラエルはここまで暴力的に対応するのだろうか?パレスチナに於いては土地を失った人々の抗議運動もイスラエルの積極的な軍事行為による反応も新しいものではない。しかし、現在の対立には特別な理由があるのかもしれない。パレスチナ人たちは12月にドナルド・トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都とし、アメリカ大使館をテルアビブから移設させる決断をしたことに怒っている。これはアメリカがイスラエルの立場を無条件に支持しパレスチナ人を無視することを明確にしたもので、残された希望は少なくともアメリカの支援からいくらかの譲歩を勝ち取る可能性を探ることになる。

トランプ政権からの強力な支持によりイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はガザでの銃撃による悪評がアメリカでのイスラエルの地位に悪影響を与えることはないと確信している。過去には、パレスチナやレバノンに於けるイスラエルによる大量殺戮の物議がアメリカの否定的な反応を引き起こし、イスラエルの軍事行動が抑制されるということもあった。

これまでのところ、国際メディアはガザの話に無関心なのか、イスラエル側の説明に納得しているのか、イスラエルは殆ど批判に直面していない。ニュースで使われる言い回しからもそのことが明らだ。例えば、3月31日BBCのウェブサイトは「ガザ-イスラエル国境:衝突で16人が死亡し数百人が怪我」というものだった。「衝突」という単語は戦う能力がある2集団の間で戦闘が行われたことを示唆している。しかしヒューマン・ライツ・ウォッチによればパレスチナの抗議運動側はイスラエルの強力に武装された軍隊に脅威を与えることはできないとしている。死者と負傷者がパレスチナ側からしか出ていないという事実がこのことを裏付けている。

おそらくイスラエルは極度な武力行使が世論に与える影響を見誤っている。インターネットの時代には暴力の被害者の映像は瞬く間に世界に配信され、しばしば破壊的な影響を与える。シリアやイラクの時と同じように、ガザや東グータのように包囲封鎖された都市部は政治的な価値が高くなっている。作戦の進行そのものに影響はないとしても、そうした場所では中に残された人々の被害状況についての情報が公にされることを防ぐことが不可能だからだ。

キーズ報道官の主張とは反対に、ガザの国境のフェンスへ向かう行進のアイディアは最初にソーシャルメディアで注目を集め、その後にハマスによって採用されたと見られている。軍事的な選択肢はなく、強力な同盟国もなく、指導者層は死に体で腐敗しているパレスチナにとって残された唯一の戦略だったのかもしれない。しかし、彼らには数の力がある。イスラエル国会クネセトに最近報告されたところによると、パレスチナのアラブ人は東エルサレムとガザ地区を別にしても、およそ650万人いて、イスラエルとヨルダン川西岸地区のユダヤ系のイスラエル人とほぼ同数である。イスラエル当局にとっては武装勢力と戦闘することよりも、非暴力の市民運動型の活動に対処する方がより困難なことになってきている。

キーズ報道官はデモはハマスによって組織されていると主張しているが、現場で見た人の証言によれば、抗議運動の原動力は無党派の個人であり、この点も彼は誤解している。破綻し、分断され、自分のことだけを考えているハマスとファタハによるパレスチナの指導者たちに対する不満が声となっている。この状況が暴力的になる可能性として最も危険なことは、実際には誰も統率している人が存在しないということかもしれない。

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