2019年7月25日木曜日

人工知能が農業を変革する


人工知能が次の大規模な農業革命を先導することになるかもしれない。


QUARTZ
Jeremy Deaton
July 24, 2019

優れたワイン農家はより風味豊かなワインを作るための技を持っている。ブドウに水を与えないのだ。収穫直前にブドウを乾いた状態にし、果汁が少なく皮が厚くて小さな実がなるようにする。小さな実のブドウからは深い色合いの複雑な味のするワインを作ることができる。

カリフォルニアのナパ・バレーにあるトリンチェロ家族農園では、ブドウの水やりの量を適切なものにするために、航空写真の会社であるセレス・イメージング(Ceres Imaging)と協力して農場の分析を行っている。セレスはドローンを使ってぶどう畑の色を撮影したり、赤外線で温度のわかる撮影をする。そして、その画像を人工知能(AI)を用いて分析し、水をやり過ぎていないかどうかを確認している。

この分析によってトリンチェロの農場の一部で、やや水をやり過ぎていたことがわかり、その場所のブドウはほんの少し風味が落ちていることもわかった。現在農園ではこの画像技術を駆使して、ブドウに水をやり過ぎていたり少なすぎたりしないようにしている。また、灌漑システムの漏れを確認するためにも使われている。

この技術は農業用技術の最先端だ。セレスの他、プロスペラ(Prospera)やファーマーズ・エッジ(Farmers Edge)、クライメート・コーポレーション(Climate Corporation)などの高度技術系企業は人工知能を使って農家が、植える、水をやる、薬を撒く、収穫する、こうした作業をする時期の判断を助けている。気候変動によってアメリカ中西部では嵐が酷くなり、カリフォルニアでは干ばつが起こっている。新しい農業用技術はこうした変わりやすく厳しくなっている天候の中で農家を導くことにも役立っている。

「これまでの灌漑システムというのは、植物毎に水分を保持する方法が異なっていたとしても、同じ量の水を農場の全ての植物に供給するようになっています」とプロスペラの CEO ダニエル・コッペルは言う。プロスペラのシステムでは、特に可動式スプリンクラーシステムに搭載されたカメラで撮影された画像を分析している。「植物が必要とする水の量は時期や大きさによっても違いますし、実がなっているのか、花が咲いているのか、そうした状態によっても異なるのです」

例えば、温度がわかる赤外線撮影を利用すれば作物に十分な水が行き渡っているかどうかを確認できる。乾き気味の植物は少し温度が上がる傾向がある。それは、植物は通常根から吸い込んだ水分の一部を葉の裏側から放出し、その水が蒸発することで、ちょうど人間が汗で体を冷やすように植物は冷やされる。だが、水不足になると植物は水分を失うことを避けるために葉の穴を塞ぐのでやや温度が上がる。どの植物が水を要しているのか正確に特定できれば、必要な作物だけに水を与えるだけでよくなり、その分、水を節約することができる。気候変動によって長期的な干ばつが続くようになれば水の扱いも更に重要になるはずだ。

技術系企業はスプリンクラー・システム、ドローン、航空機、衛星に取り付けられたカメラで画像を撮影し、その画像をコンピューターで分析して、どの作物が虫につかれているか、雑草に囲まれているか、菌がついているかを特定する。そしてコンピューターは問題のある植物だけに、殺虫剤、除草剤、殺菌剤を散布するように提案を行うことができる。

このことで農家は水も農薬も使用量を抑えた上で、農場全体を健康に保つことができる。例えば、使用する殺虫剤の量を減らすことができれば、植物の受粉に役立ってくれるミツバチを守ることに繋がる。化学肥料の量を減らすことができれば環境汚染を減らすことができる。農場で使われる肥料は、水路へ流れて最終的には海に流れ込み海洋生物に破滅的な影響を与える。コッペルはプロスペラの技術によってハウス栽培の農家は肥料と水の使用量を30%減らすことができると主張する。

このシステムで難しいのは、作物の病気、傷、水不足などの状態をコンピューターに判断させるところだ。そのために各企業は画像の解釈を学習して賢くなるシステムを開発してきた。このシステムは画像から収集した情報を、気温、降水量、土壌の質などのデータと組み合わせて、水や薬品をいつどのくらい散布すればよいのかを判断する。

これは人工知能として考えても良いものだろうか? 「私の会社にはコンピューター科学の博士号取得者が3人いますが、彼らにそう聞いたら、長々と説明されて1日や2日は帰してもらえなくなりますよ」とコッペルは言う。プロスペラのシステムは常に自身で学習を続けていることを考えれば、AIとしての資格があると彼は話している。「この機械によって農場で何が起こっているのかを継続的に把握することができます」と彼は言う。「この機械は判断を下すためにデータを合成することもしています」

コッペルは人工知能が次の大規模な農業革命を先導することになると考えている。過去の技術的進歩、例えば、灌漑設備、機械化、化学肥料、遺伝子工学、こうしたものは人類により少ない労働でより多くの作物を育てることを可能にてきた。そして、人工知能によって、農業から当て推量に頼っている部分を排除することにより、更に効率的にすることができるのだとコッペルは話している。

「通常、農家は決定を下す時、データからではなく直感に基づくか、あるいは地面から感じ取るものでしょう」。だが、直感に頼るよりも農場全体の画像を元にしたコンピューターによる分析を使うほうが良いと彼は主張する。このコンピューターは世界中の農場から収集したデータに基づいて行った判断を提示することができる。メキシコの農家がイスラエルの農場で収集されたデータから恩恵を受ける可能性もある。

コッペルは農家の現状は、間違いを犯しやすい医者に例えることができるとし、コンピューターによって農家の盲点を補うことができるのだと言う。「間違いの多い医者に診てもらうよりは、偏りのない機械を手に入れる方が良いと思います。医師は何千人もの患者を診るものでしょうが、機械は何億人分もの診察を把握しています。そして、医者は大学で勉強した全てのことを覚えているわけではないでしょうが、機械は全てを覚えているのです」

将来的にはイチゴが熟すのを見分けることができて、それを慎重に収穫することができるロボットを見ることになるかもしれない、あるいは、雑草を見つけて除草剤を撒くドロイドや、牛に与える餌の適切な量と時間を毎日計算してくれる機械なども見ることになるかもしれない。AI は信じられないほどに農業の将来を約束するものだが、現在多くの農家が伝統的な農法に立ち戻ろうとしていることを考えると、大きな混乱を招くことも考えられる。

「農家の方の中にはこうした変化を望まない人もいるかもしれません。最新技術中心のシステムの中には、丹精して実らせるスキルが存在しませんし、モチベーションにも欠けるものです」 イースト・アングリア大学の環境地理学者デヴィッド・ローズは農業の未来についてこのように書いている。「自分たちの生活習慣に AI の利用を取り込むことは望まずに、それよりも経験的な知識を利用して、自分の土地との繋がりを大事にしようとする人もいるのではないでしょうか」

彼は、自律型ロボットは労働者や動物の安全を脅かす可能性があること、そして、多くの人から仕事を奪う可能性を指摘している。極めて信頼性の高い AI は、農家とその土地との繋がりを切断してしまう可能性もある。これが米農業機械メーカー、ジョン・ディアのコマーシャルで描写されている未来であり、ローズはこれを「ゾッとする」と表現している。



「私は農業技術に AI を取り入れるべきではないと言っているわけではありません。AI の農業利用は様々な可能性を秘めています。データに基づいて意思決定を改善し、薬物散布の効率化、面倒な作業の自動化、若い技術系の労働者をこの業界に惹き付ける可能性もありますし、得られる利益も大きくなるかもしれません。ですが、農業に於ける AI 利用の社会的、倫理的影響については誰も話していません」

「農場で日常的に AI が使われる世界というのはどのようなものでしょう? 今とどう違うのでしょう?」と彼は問うている。「そして、この技術革命で勝者と共に生み出される敗者となる人たちをどう扱えばよいのでしょうか? 私たちがこうした疑問について考え始め、その上で民主主義の中では技術の進展による挑戦の敷居は高くするべきではないことを受け入れるなら、それは良いことだと思います」

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