2019年7月23日火曜日

魚にとっても別れは辛いもの


魚の中には伴侶を失った時に悲観的になる種のものがいるという研究。


Vox
Sigal Samuel
Jul 20, 2019

私たちは、自分たち人類が特殊な生き物だと考えている。人類は多様な感情を持ち、例えば魚のようなものよりもずっと複雑な存在だと考えている。そうだろうか?

最近発表された研究結果によると、魚というのは私たちが想定していたよりもずっと感情的に複雑な存在であることが示されている。フランスのブルゴーニュ大学の研究者たちは、長期間にわたって一夫一婦制の生態を取るコンビクトシクリッドと呼ばれる魚について研究を行った。この研究によると、メスのシクリッドは伴侶を失ったときには、不機嫌になり世界に対して悲観的な態度をとるようになるという。

このことはパートナーに対する感情的な愛着というのが、人間や哺乳類特有のものではないことを明らかにしている。魚にとっても別れは辛いものなのだ。

この研究の実験では、まずこの魚のメスの1匹ずつに2匹のオスのうちでどちらを好むのかを表現する機会を与えた。水槽をメッシュの仕切りで3つに区切り、真ん中にメス、両側にオスを1匹ずつ入れる。そのまましばし観察していると、メスは仕切りを通してオスを見極め、好みのオスの側に寄っていくようになる。

だが、この実験では全てのメスがそのまま好みのオスと一緒にいることは許されない。メスのうちの何匹かは拒否した方のオスとペアリングさせた。そして、この不幸なカップルはそうでないカップルと比べて産卵に至るまでに時間がかかることを発見した。

研究は更に続けられた。メスに対して、水槽の中に小さな陶器製の箱を用意する。この箱には蓋があり、白い蓋のものには食べ物が詰まっている(具体的には美味しそうな何かの幼虫が詰まっている)が、黒い蓋の箱には何も入っていない。この魚は押したり引いたりして蓋を動かすことができるようになり、徐々に白い蓋の箱に餌が入っていることを理解するようになる。

ここで少しひねりが加わる。実験では第三の箱が用意される、この箱には灰色の蓋がついている。研究者たちは、この曖昧な主張(白と黒の中間)をする箱にメスがどう反応するのか見守った。そして、その反応が、そのメスが望んだオスとペアリングされたか、望んだオスからは切り離されて拒絶したオスとペアリングされたか、に関係があるのかどうかを見極めた。

研究者たちは、ポジティブな経験によって楽観的になっているメスは食べ物を得るために灰色の蓋を押しのけるが、悲観的になっているメスは敢えて努力はしないだろうという仮説を立てていた。

そしてまさにその通りになったのだった。「望まないパートナーを与えられたメスは悲観的な態度を示しました」と研究者たちは雑誌「Proceedings of the Royal Society B」に掲載された論文の中に書いている。「これにはネガティブな感情の状態が表されています」

実験を主導し、論文を執筆したクロエ・ルウブは「同じ水が入ったコップも、半分入っているか、半分空になっているか、気分によって見え方が異なるのと似ています」と説明する。

この研究はどういう動物がどの程度の感覚(痛みや快楽を感じ取る能力)を持っているかというこれまでの考えを覆す可能性がある重要なものだ。心理学者によると、私たちは動物がより高度な感覚を持っていることを認識すると、動物たちを私たちが倫理的に考慮する必要があると考えるようになる道徳上の境界線の内側に含めるようになる傾向がある。つまり、私たちが魚について、私たちと同様に感情的な痛みを感じる生物として見るようになれば、私たちは魚に対する扱いを変える可能性がある。


動物の認知能力の複雑さの程度をどう評価するか


今回ブルゴーニュ大学が行った実験は、研究者の間では判断バイアス実験として知られているもので、特に哺乳類や鳥類を対象に感情の状態を確認するために使われてきたものだ。何が動物に対してネガティブなバイアスを引き起こすのかを突き止めることは動物福祉に於いて重要な課題である。2015年に実施された64件の判断バイアス実験についてのレビューには「動物園や水族館に収容されている、絶滅危惧種の動物福祉について新たな考察を提供することができる。動物福祉は繁殖の成否に影響を与え、最終的にはその種の生存にも影響を与える」と書かれている。

ブルゴーニュ大学の研究者たちは、今回の実験が魚が特定のパートナーに感情的な愛着を持つことを明らかにするために実施された最初の判断バイアス実験であると述べている。これとは別に、今年2月にPLOS Biology誌に掲載された研究結果では、その生物の種が自己を認識しているかどうかを判断するための古典的な手法である「ミラーテスト」に魚が合格することが示されている。これらの2つの研究結果を考え合わせると、魚が私たちに比べて遥かに複雑さを持たない生き物であるという認識を変えるのに十分な示唆が与えられている。

「ミラーテスト」では、ホンソメワケベラとして知られる縞模様の魚について実験が行われた。実験では、彼らの喉の部分に色で印をつけた。それはその魚自身では鏡の反射でしか見ることができない。ところが魚たちは鏡を使ってその模様を認識し、その印を擦って取り除こうとする仕草を見せた。そのことでホンソメワケベラは自分自身を認識していることが明らかにされ、自己認識テストに合格したと見られている。

この研究結果には異議を唱える研究者もいた。それより前までにこのテストに合格したのは、類人猿、バンドウイルカ、カササギ、そして1頭のアジアゾウだけだった(これらの結果についても懐疑の声は上がっていた)。異議を唱えた研究者たちは、認知的に空虚だと見られていた魚たちが、より高度に格付けされる種の中に含まれるようになることに消極的になっていた。

「2頭の象のうち1頭がミラーテストに合格した時はみんな『凄いことだ』と言っていたのです」とホンソメワケベラの実験についての論文の著書の1人であるアレックス・ジョーダンは述べている。「それが、みんなが大好きな魚についてのことになると『同種内での対照実験が必要だ、共鳴していた場合の対照群が必要だ、あれもこれも必要だ、… 魚はどれもやってないじゃないか』というのです」

ジョーダンはこの実験結果を疑う人がいる理由の一部には、次のようなものがあると推測している。魚は見た目には私たちとは程遠く、その感覚と認識の複雑さを知ることになれば、「私たちが行う商業漁業が、彼らを痛みとストレスの中で死に至らしめている」ということを考えざるを得なくなることも含めて私たちの生活習慣に変化を強いることになるかもしれない、ということだ。

逆に言えば、私たちは思っていたよりも魚に近いということになるのかもしれない。


【動画】活け〆の方法

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