2019年7月10日水曜日

人工知能は未来を形作ろうとしている、今はそれに備える時だ


どんな形であれAIテクノロジーが労働環境に影響を及ぼすのは必然で、その価値を最大限に引き出すのが人間の役割である。


IEEE COMPUTER SOCIETY
Richard van Hooijdonk
9 Jul 2019

人工知能(AI)が提供する無限の可能性によって、私たちの生活はかつてない程に容易なものになっている。スマートフォンやパーソナルアシスタントから家電の自動化システムまでAIはいたるところに使われている。人間の知能を模倣する機械の能力は恐れを感じさせるものかもしれないが、実際のところ、既にAIは多くの産業に変革をもたらしている。そして、労働市場や他の伝統的な職種に於いてもこの変革の影響は避けられない。

人工知能はそれなりに昔から存在するものだが、最近のコンピューターの進化がAIの成長を加速させていて、数多の企業がこの技術に多大な投資をしている。インターナショナル・データ・コーポレーション(IDC)によると、接客の自動化、おすすめ商品の選定システム、不正分析調査ツールといったAIシステムに対する投資額は、2019年には世界で358億ドルに登ると見積もられている。さらにIDCはこの額は2022年までに792億ドルに達すると予想している。


AI駆動のロボットが雇用をより公平で客観的なものにしてくれる


AIによって大きな変化が見られる可能性のある分野の1つが従業員の採用と評価だ。既にテクノロジー企業はAIを用いて従業員採用プロセスを自動化する製品を開発している。例えば、ストックホルムに拠点置き、AIロボットを開発しているファーハット・ロボティクス(Furhat Robotics)は、テンガイ(Tengai)と呼ばれる採用面接用のソーシャルロボットを製作した。このロボットの特徴的な点は完全に偏見なく面接を実行することができることだ。人間の面接官は無意識のうちに面接者の声や性別、外見といった特徴から偏見を持ってしまうことが多い。

テンガイは重さ3.5キログラムの頭部だけのロボットで人間の話す調子や表情を真似することができる。そして、採用プロセスをより公平にするために全ての面接者に対して同じ調子で質問をする。面接が終わるとテンガイは人間の採用担当者に面接者との会話の書き起こしを提供する。誰が次の段階に進むべきかを決めるのは人間の採用担当者である。このロボットは非常に多くの採用候補者がいる場合に採用プロセスの第一段階として最適な選択肢になり得る可能性がある。テンガイは現在試行中で、開発会社ではどの採用候補者が次のステップに進むべきか自律的に判断することができるように更に洗練させることを計画している。


IBMのAI技術はどの従業員が辞めてしまう確率が高いか特定する


AIは採用プロセスを簡素化する一方で、どの従業員が会社を離れることを考えているかを見つけて経営者を助けることもできる。まさにこのことをIBMのAIシステムが可能にしている。約350,000人の従業員を抱えているIBMはワトソンと名付けられたAI技術を使ってこのシステムを開発している。CNBCが伝えるところによると、この新しいシステムは実に95%の正確性で仕事を辞めようとしている従業員を特定することができるという。

このシステムが実際にどのように機能するのかは明らかにされていないが、仕事の満足度や業績評価といったデータ群を分析しているのだと考えられる。いずれにせよテクノロジーによってIBMでは会社を離れる可能性の高い人を検出できるようになっている。管理者や経営者はこの情報を用いて、手遅れになる前に従業員に連絡を取り、教育プログラムや給料の見直し、昇進させることなどによって説得を試みることができる。IBMの最高経営責任者(CEO)であるジニー・ロメッティは「従業員が出ていく前に連絡を取らないといけない」と話している。ロメッティはこのAIシステムによってIBMでは社員保持のコストが3億ドルほど節約できているとも話している。


マイクロソフトはAIスキルのギャップを埋めようとしている


AIが現れたことによって、新しいスキルと技能を磨く必要が生じている。しかし、現在の多くの労働者は必要なスキルを持っていないため、自分が時代遅れになってしまうことを恐れている。この問題に対処するため、マイクロソフトは教育事業者ジェネラル・アッセンブリー(GA)と提携して2022年までに15,000人の労働者のスキルアップを目指すと発表した。

今後数年をかけて、マイクロソフトとGAはAIに関連したスキルについて労働者を訓練し、AIによって変化する人間の役割に彼らが適応する手助けをする予定だ。マイクロソフトはGAのAI標準化委員会に参画し、AIスキルの標準化、働き方の枠組みの設計、評価基準の作成なども行う。マイクロソフトはAI人材ネットワークの設立を計画していて、それを従業員の雇用に役立てようとしている。マイクロソフトのエグゼクティブ・バイスプレジデントでグローバルセールス・マーケティング&オペレーション・プレジデントを兼務するジャン=フィリップ・クルトワは「イノベーションを推進することに取り組むテクノロジー企業として、私たちには、労働者が現在とそして未来の職場で確実に成長するために必要なAIスキルの訓練を受けられるようにする責任があるのです」と説明している。


AIは私たちを助けてくれるものだろうか? 私たちに取って代わるものだろうか?


企業は自動化を恐れるのではなく、もっとオープンに新しい技術を取り込んで行くべきだろう。AIや機械学習というのは今日の職場に広く用いられていて、日常的な単純作業を引き継いでくれる大きな可能性がある。このことは人間の従業員がよりやりがいのある仕事に時間を使うことができるようになるという恩恵をもたらしてくれる。AIが採用されることで人間の働き方の道筋には変化が起きるはずだが、これは悪いことではない。どんな形であれAIテクノロジーが労働環境に影響を及ぼすのは必然であり、その価値を最大限に引き出す方法を学ぶのが、各企業とその従業員の役割である。

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