2019年7月28日日曜日

2月29日生まれのパラドックス


4年に1回しか誕生日が来ないというのはどんなものか。


The Atlantic
DANIEL NESTER
FEB 29, 2016

21歳になった日の夜、私はニュージャージー州カムデンにある大学の池に飛び込んだ。もうコネチカット州の偽造免許を使う必要はない、カートと名乗るストニントンのやつれた42歳男性のフリをする理由もなくなった。その夜、私はついてに合法的にビールを買うことができることになったのだ。

だが、店員は私の身分証明書を返してよこした「ビールを提供することはできません」。彼は私の本物の ID カードを偽造だと考えたのだ。2月29日生まれなんて本当にいるのか? 私は彼に抗議した、だが通用しなかった。「それから」と彼は付け加えた「今日は2月28日です、明日また来て下さい」

これが誕生日に起こることで、毎年こんなことをやっている。誕生日が来ればケーキの上のろうそくを吹き消さなくても1つ年を取る。

それは誕生日そのものが来なくてもそうだ。アメリカには3年おきにしか誕生日が来ない人が187,000人いる。リープリング(leaplings)と呼ばれる2月29日生まれの私たちは、1/1461の確率でその日に生まれついた。このことで私たちを特別な人間なのだと考える人もいる。それは見方によって異なるものだろう。ニュース番組でこぼれ話を伝えるようなコーナーでは、時々うるう日(leap-day)に生まれた子供の話題や、80年経ってやっと20才になった人が取り上げられることがある。2008年にはマーサ・スチュワートが彼女のTV番組に200人のリープリングを招待した。彼らはカエルの形の名札をつけられていた(カエルは跳ねる leap するから、ということ?)。スチュワートはそれなりに敬意を払って「皆さんはとても運の良い人たちだと思います!」と言ってくれていた。彼女は全員に当時最新のデジタルフォトフレームをプレゼントした。

リープリングは2つの年齢を持っている。1つは年次で、もう1つは4年次ということになる。私たちは本当の誕生日がこない間にも年を取っている。知られているようにうるう年にはちゃんとした目的がある。4年に1回だけ2月の最終日に付け加えられるこの日は、太陽を回る地球の公転が365日よりも5時間48分45秒長いことに対応するためのものだ。紀元前46年、ユリウス・カエサルは暦に90日のずれが有ることに気づき、その差異の修正を試みた。そして1年のあちこちの月に日を追加して調整し、その後、4年毎にうるう年を設定してうるう日を作った。これにはまだ微調整の必要が残されていて、1年毎に11分のずれが残っていたために、1582年までの間にカレンダーは10日ほどずれていた。カエサルが作ったユリウス暦のずれを補うためにグレゴリウス13世によってうるう年が再構成され、世紀の切れ目の年で400で割り切れない年はうるう年でなく平年とするグレゴリオ暦が制定された。

何はともあれ、私は今年12才になる。グレゴリウス13世と母親に感謝しなければならない。

リープリングたちは昔からお互いに繋がりを持とうとしている。カンザス州のピッツバーグでは20世紀の初めに新聞記者の呼びかけで作られた「The Order of 29’ers」というグループがある。1988年以来、テキサス州アンソニーは「世界のうるう年の中心地」を標榜している。2012年にこの土地では3日間に渡り、モーターショー、ホッケーゲーム、ゴルフトーナメントなどを行って祭典を盛り上げた。「Honor Society of Leap Year Day Babies(うるう日生まれのための名誉協会)」と称するウェブサイトは19年間に渡って、うるう年の意識を高めるための活動をしている。この主催者たちは、自分が生まれた時に両親がその日を2月28日、もしくは3月1日にして貰うように医者に頼み込んだために自分の誕生日が奪われたと考えている子どもたちを支持する活動もしている。この日付については役所や政府機関でも混乱することがあるようだ。「オレゴン州に引っ越してきて運転免許を取得しようとしたら、2月29日は存在しないと言われました」と、Honor Society の創設者の1人で、今年14才(56才)になるレイネル・ドーンが話している。「免許センターの職員は『本当に2月29日生まれなんですか?』と聞いてきました。私が自分の誕生日を間違うとでも思ったのでしょうか!」

リープリングたちはだいたい2種類のタイプに分けられる。一方には、それが特別な特徴だと感じている人がいて、それは例えば親指の可動域が異常に広いとか、AOL のアカウントをまだ大事に保持しているとか、そのくら風変わりな特徴と捉えている。そしてもう一方では大した問題ではないと考えている人たちもいる。元カルバン・クラインのモデルで、俳優であるアントニオ・サバト・ジュニア(1972年2月29日生まれ)は Twitter に「私にとってこのことは十分に良いことだと言えます」と書いている。また、ラッパーで俳優のジャ・ルール(1976年2月29日生まれ)と自己啓発活動家トニー・ロビンズ(1960年2月29日生まれ)の感想は聞けていない。実際に有名人であることの方が、リープリングであることよりも重要なことなのだろう。

私自身も4年毎の自分の人生について考えてみると、4年周期というのは不思議なものだ。私たちの誕生日の年に夏のオリンピックがあり、大統領選挙がある。そして、次の2月29日が来るまでの間に私には必ず人生に関わる大きな出来事が起きている。16才〜20才の4年間の間に高校を卒業して大学に入った。36才〜40才の間に、私は父親になりニューヨークに引っ越してきた。

うるう日は誕生日として祝うには数が少ない。スーパーマンにとっては十分な数なのかもしれないが、クリプトン星ではどんな暦が使われているのか定かでない。リープリングについては子どもたち向けの本もある(そのうちの1つのタイトルは「ついに僕の誕生日が来る!…ママ!僕の誕生日は何処に行ったの?」)、そして若者向けのものもある(「うるう日」)。そして、確率論の専門家は「誕生日のパラドックス」と呼ばれる有名な演習問題をよく使っている。これはエンジニアで数学家であるリヒャルト・フォン・ミーゼスが最初に提唱したもので、その場にいる何人かの間で誕生日が同日の人たちがいる確率を考えるものだ(23人いるとその確率は50%を超える)。だが、この問題では最初の前提として、確率を均等にするためにうるう日生まれの人は除外されることになる。おそらく、リープリングについて語られた筋書きで最も有名なものは1879年にウィリアム・ギルバートとアーサー・サリヴァンによって作られた喜劇オペラ「ペンザンスの海賊」であろう。このオペラの主役のフレデリックは、21才になるまで海賊に奉公するはずだったのだが、2月29日生まれだったため、事実上84才になるまで留まることになってしまう。このオペラでうるう年について歌う楽曲「パラドックス」には「あなたはこの扱いにくい取り決めの犠牲者なのです」という歌詞がある。

Facebook は親しい友人、家族から、たまたま飛行機で隣に座った製薬会社の営業担当にまで誕生日おめでとうを伝えるように勧めてくるのだが、その Facebook はデフォルトでは私の誕生日を2月28日ということにしてしまっている。3月1日を誕生日として祝うリープリングにとっては、これは誕生日を台無しにしかねないものだろう(私自身は厳格な「2月生まれ信奉者」なのでそうではない)。もちろん、誕生日を3月1日に設定しなおせば良いだけのことだ。だが、この取り決めの扱いにくさに私は面倒になって全部投げ出してしまいたくなることがある、文字通り12才児のように。

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