2019年5月20日月曜日

イスラム教徒のフランス人は「普通のフランス人」になることはできるのか?


フランスのイスラム教徒の活動家と学者たちは、この国で蔓延しているイスラモフォビア(イスラム嫌悪)が真剣に扱われていないという。


Al Jazeera
Linah Alsaafin
17 May 2019

今年3月、ヒジャブを身に着けたフランス人の女性が、ランジェリーブランド「エタム」のモンペリエ南部にある店舗で仕事を求めて面接を受けた。オーマイマという名前のこの女性は、ヴェイルを被った女性は受け入れられないとマネージャーに言われて拒否されてしまったという。

その後彼女がTwitterに投稿した動画は240,000回以上再生されている。その中でオーマイマは、彼女は差別の被害者であり、エタムに対するボイコットを呼びかけ、「フランスでヒジャブを身に着けて、生活し、学び、働くことが如何に困難か」を説明している。

エタムの反応は素早かった。その日に声明を発表し、この出来事は「私たちの価値を反映したものではありません」と説明した。このマネージャーは解雇され、エタムはオーマイマに謝罪の連絡をした。

この出来事はフランスの政治や社会を考える場で常に議論になっていることを象徴している。果たしてイスラム教徒のフランス人は普通のフランス人になれるのか?

2015年にパリで起きたテロ攻撃では、イラクとレヴァントのイスラミックステートの武装グループ(ISILとISIS)によって3箇所で130人が殺害された。この事件からイスラモフォビア(イスラム嫌悪)の感情が広がり続けているとジャーナリストでイスラム教徒活動家であるナディヤ・ラズーニが話している。

「イスラム教徒はフランス共和国の一部になることはできない、もしくはイスラム教徒のフランス人は他国から入り込んできた敵が偽装しているのだという信奉がこの国全体に広がっています」と彼女はアル・ジャジーラに話した。

「2015年のテロ攻撃の後、政府とその他の公的機関がイスラム教徒に対しこの事件から距離を取るように要求したことは重要な出来事だったと思います。このことは政府機関がイスラム教徒をフランスを支える存在として信頼していなかったことの現れです」とラズーニは語る。「私たちが国家に忠実であるかどうか確認する方法だったのです」。活動家でもある彼女はここ数年間フランスではイスラモフォビアが「恐るべき速さ」で増進していると話している。

イスラモフォビア対策組織であるCCIF(Collectif Contre L'Islamophobia en France)によると、イスラム教徒に対する憎悪犯罪が2018年は2017年に比べて52%増加したという。2019年の最初の4ヶ月では300件の事件が報告されている。

ラズーニは元大統領のニコラ・サルコジが、移民を国家的アイデンティティに調和させることに取り組むという行政上の立場を作り上げたことを指摘する。「彼はこの2つを関係づけたのです」とラズーニは言う。そして、その後継者であるフランソワ・オランドが、「テロ」活動の疑いがある場合には、二重国籍の市民からフランス国籍を剥奪ことができるという憲法改正を提案する道を開いたのだと指摘する。

この憲法改正案は抗議により進展していないが、既に社会を傷つけている。ラズーニによれば、この憲法改正案によって、市民の心に「対峙している2種類のフランス人」が形作られてしまったのだという。

CCIFの会長であるジャワ・バシャールは国家がイスラム教徒に対する差別を先導していると感じている。「イスラモフォビアはフランスに制度的に組み込まれているのです」とバシャールはアル・ジャジーラに語った。「2つの法律があります。1つは2004年に公立学校でヒジャブの着用を禁止したもの、もう1つは2011年に顔を覆うヴェイルを禁止したものです。これらはイスラム教徒の女性個人の自由を直接的に標的にしたものです」

最もイスラモフォビア的な行為はモスクの襲撃やヒジャブを身に着けた女性が暴行される事態に現れる。しかし、最近ランジェリーブランドで話題になった件の差別のように、普段働く上でも存在している。CCIFはこうした差別の被害者たちに法的と心理的な支援を提供している。

「ですが、報復行為を恐れて被害を報告しようとしない人もいるのです」とバシャールは言う。「2015年のテロ攻撃後に国家非常事態宣言が出されてから、警察が家庭に踏み込むこともあり、フランスでは猜疑的な雰囲気が充満していました。そのことがある意味で人々を黙らせることに繋がったのです」

バシャールは政府が発表するイスラモフォビアに関するデータは、告発された事件のみを数えているので信頼できないと話している。「CCIFでは必ずしも最終的に裁判沙汰にならなかった状況や手続きもカウントしています」


世俗主義 vs 新世俗主義


パリ・ナンテール大学で政治科学の教授を務めるアブデラリ・アジャットによれば、2003年にフランスの伝統的な世俗主義を、アジャットが新世俗主義(neo-secularism)と呼ぶものに変容させようという意識的な思考運動があったという。

フランスに於ける世俗主義は1905年から法律に謳われている。宗教と国家を明確に分離する規定であり、それは次の3つの原則に焦点が当てられている。国家の中立性、宗教活動の自由、そして教会と公権力との関係である。

「今日のフランスで見られるイスラム教徒に対する非難の仕方は新世俗主義のレトリックによって行われます。それは宗教的中立の原則を国家公務員だけでなく、一般市民に対しても適用を広めようとするのです」とアジャットは述べ、そしてそれは表現の自由に「敵対」してきたと付け加える。「マニュエル・ヴァルス(オランド政権下の首相)やニコラ・サルコジに代表される中道右派および中道左派の政治家と政党はこの新世俗主義の論理を拡張することに力を注いでいました」

2004年のヒジャブ禁止令によって頂点に到達したこのレトリックは、米国で起きた9・11テロ事件、そしてそれ以前の1995年と96年のフランス国内で起きたアルジェリア内戦に関連したテロ事件の影響も受けている。これによってフランスにおけるイスラム教徒に対する市民の認識が変化したのだとアジャットは言う。

1989年以来、知識層の中にはヒジャブの禁止を志向する人たちがいて、彼らは現在でも公に力を持っていると彼は続ける。「エリザベット・バダンテール(作家)やアラン・フィンケルクロート(哲学者)は故ピエール・ベルジェ(実業家)と共に、政治家たちに対して、フランスにはイスラム教徒問題が存在しており、その唯一の解決方法は公立学校で完全にヒジャブを禁止することだと説得したのです」と彼は言う。「彼らは確実にヘッドスカーフを身につける女性の数を減らしました」

しかし、アジャットは現在の大統領であるエマニュエル・マクロンについては、「多様な政治的背景を持っている真の意味で異なるイデオロギー的な見解を持った混生の閣僚に囲まれているせいか、もとの意味での世俗主義を保っている」と話している。

活動家のラズーニは、イスラモフォビアは現在でも反ユダヤ主義と同様の犯罪として認識されていないことを指摘する。「政府は決意を持って反ユダヤ主義と戦っています、それは素晴らしいことです」と彼女は言う。「私たちはそれと同じ熱意であらゆる形の差別と戦って欲しいと思っているだけです」

アジャットはそれに同意した上で、差別の一形態としてのイスラモフォビアというのは合法な修辞だと考えられていると主張する。「イスラモフォビア的な見解に対しては何の社会的な抑制も働いていません」と彼は言う。「こうしたことが起きるのは、公共の空間そのものが同じレトリックを用いる人たちによって運営されているからです」

例えば家族担当相を努めていたローランス・ロシニョールは、ヴェイルを身に着けた女性を「奴隷制を支持する黒ん坊」と例えた。「明確なイスラム差別発言が政府関係者から上がる背景には、イスラモフォビアというのは犯罪ではなく意見の1つだという考えがあるのです」とラズーニが言う。

ニュージーランドのクリストチャーチのモスクが攻撃を受け、少なくとも50人のイスラム教徒が白人至上主義者に銃撃を受けた事件を経て、「コラムニストやいわゆる知識層のジャーナリストたちはこれを説明する必要に迫られて、彼らはこれを(ISILが犯してきた行為に対する)復習なのだと言ってテロリストを正当化しようとしていました」とラズーニは言う。

彼女はイスラモフォビアと戦うためには文書化して法的根拠を持たせる以上の事が必要なのだと説明している。「私たちが反イスラム教徒の差別と効率的に戦うためには、立法論以外のところにも注意を向ける必要があります」

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