2019年5月6日月曜日

相次ぐ銃乱射事件に関係する「8chan」


インターネット上の暗く有害な場所


Vox
Emily Stewart
May 3, 2019

4月27日、19歳の男がサンディエゴのシナゴーグで発砲して1人を殺害し3人に怪我を負わせた。この事件はニュージーランド、クライストチャーチの2つのモスクで28歳の男が50人を殺害した事件の6週間後に起きたものだった。この2つの事件には不穏な共通点が存在する。彼らは2人とも同じインターネットの暗黒部分である「8chan」と言われるサイトに出入りしていた。

8chanは2013年に立ち上げられたオンラインの掲示板で、インターネット上で最も過激な内容の巣窟となっている。それ自身でオンライン世界上の「darkest reaches(暗黒区域)」を自称し、自由な言論ができる(同時に不愉快で危険でもある)ほぼ無法な場所としての評判を育んできた。

ニュージーランドとアメリカで相次いで銃撃事件の温床としての役割を果たした8chanは特別に監視対象にされている。この2人の犯人たちが過激化した原因の少なくとも一部が8chanにあったのは明らかで、2人とも虐殺行為の前に8chanに人種差別的な動機を実行の原因とする声明を投稿している。

「私はここに来てまだ1年半だが、ここで貴重なことを学んだ。敬意を表したい」。パウウェイのシナゴーグで銃を乱射した男は攻撃を実行する前に8chanにこのように書き込んで、自身のFacebookに投稿した犯行声明にリンクを張っている。

8chanと特にその中の「politically incorrect(政治の過ち)」/pol/掲示板は、白人至上主義、ネオナチ、オルタナ右翼の巣窟になったいる。その場の会話の多くは暗く不穏な諧謔であり、ユダヤ人、イスラム教徒、女性、その他の団体に対する憎悪の修辞で満ちている。参加者の多くはあまり真剣ではなく冷笑的な笑いを求めている。しかし、実世界にもたらす結果は冗談では済まない。

「8chanは多くの意味でデジタル・ヘイト団体のように振る舞っている」と名誉毀損防止同盟のディレクターであるオレン・シーガルが話している。


8chanは問題の多いプラットフォームである4chanから派生した


8chanは2013年にフレドリック・ブレナンによって立ち上げられているが、事実上はゲーマーゲート論争が勃発した2014年に出立した形になった。ゲーマーゲートはゲーム文化内の女性と進歩主義者に対する広範な憎悪運動だった。8chanの派生元である4chanは2003年に立ち上げられたもので、ゲーマーゲート支持者の温床となっていたが、最終的に4chanはゲーマーゲート関連のスレッドを停止することを決断したことで、その4chanコミュニティの一部が8chanに移動したのだった。ブレナンは2015年にArs Technicaのインタビューで、ゲーマーゲートが始まって約1ヶ月後の2014年の9月に、それまで1時間あたり100の投稿しかなかったのが4000になったと話している。

4chanの投稿に対する規制は極めて軽く緩いものだが、8chanに関してはほぼ存在しないと言っていい。8chanのルールは1つだけで「アメリカ合衆国の法律に反する内容を投稿、要請、リンクしてはならない。また、そうした内容を投稿し広めるために掲示板を作ってはならない」というものだ。これは基本的に著作権絡みの違反と児童ポルノに関するものだと解されている。

「8chanには所謂オープン・ウェブという意味の殆どあらゆるものが集まっています」と調査コンサルティング会社Memeticaの社長で、元ハーバード大学ショーレンスタイン・センターの特別研究員であるベン・デッカーは話している。「8chanや4chanでは、国粋主義者、ネオナチ、女性差別主義者、無政府主義者、リバタリアン、陰謀論信奉者などあらゆる過激派のコミュニティが存在していて、彼らの議論がこのプラットフォーム内で大きな反響を得ることも多いのです」

ブレナンは2016年に8chanの代表を退いていて、既に所有者ではないとワシントン・ポストに話している。現在はフィリピンに居住するアメリカの退役軍人ジム・ワトキンスの所有になっているという。8chanの運営者たちはこの記事のための質問の要請には答えてくれなかった。


憎悪のプラットフォームになった8chan


8chanは非道な考えを表明する場所として生き残っただけでなく繁栄している。過激派の人々が集い、意見を交わし、お互いを煽り立てる。そしてそれは匿名で行われる。

投稿者たちは特定の言葉遣いで話し合いミームを想起させる。ここでは最悪の種類の人種差別が陽気な笑い話として扱われる。仮にそれに気分を害する人がいると言うなら、問題はその話ではなく、その人の方にあるとされる。冷笑とミームは更なる過激主義や憎悪への道程として機能している。ジョークは「つま先を水につけて水温になれさせるようなもの」だと調査組織Bellingcatのジャーナリストであるロバート・エヴァンズが話している。「ネット上のネオナチの溜まり場になっているのです」

8chanの/pol/板はヘイトの震源地になっている

サンディエゴの銃乱射犯は実行前に8chanに感謝の意を述べ、自身の声明と(明らかに攻撃の様子をネット中継しようとしていた)Facebookのページへのリンクと音楽のプレイリストを投稿している。Bellingcatの調査によると、この投稿に対する最初の反応は別な「匿名」の投稿者によるもので、多くの人を殺害するという意味で「高得点を期待している」というものだった。クライストチャーチの乱射犯も8chanの/pol/板に計画を公表している。

/pol/板で行われている多くのことは「シットポスティング(shitposting)」と呼ばれるもので、これについてはVoxのアジャ・ロマーノが説明している。「読み手を主題から脱線させて面白がらせるためにする無意味な投稿を指すネット用語」だそうだ。

クライストチャーチ事件の実行犯による犯行声明は74ページに渡る「シットポスト」であると言える。ネットに精通した人だけにしか理解できないミームとジョークで溢れた、わからない人は混乱させられるものだ。これは読み手の気を逸らすようなものだが、同時に白人至上主義者たちに対して、自分がその1人であるという合図を送っている。ロマーノは次のように書いている。

だが、ミームを含めることの究極の目的はこの犯行声明の主要な読み手との連帯感を示すことにあるように思える。この「仲間内」の人々は、「copypasta」がただのジョークであり、そこに過激主義的なイデオロギーは何も存在していないことを理解できるような人たちだ。犯行声明にミームを挿入することは、仲間の過激主義者の熱意を喚起させることになる。ミームを共有することで人種差別に賛同している仲間として一体感を感じさせる。究極的にミームは犯行声明それ自体を過激化させるのに役立っていると言える。

「この場所の参加者たちの最も重要な目標は、実生活に影響を及ぼす程に匿名の仲間たちを過激化させること、つまりは現実世界で暴力行為をさせることである」とエヴァンズはBellingcatに書いている


閉鎖的だが外の世界を見ている


8chanコミュニティは彼らの正しい言葉を使い、同じジョークを共有する仲間を報いようとする。このことで、今起きていることやニュースについて全く異なる解釈が生成されることになる。例えば、4月にパリのノートルダム大聖堂が燃えた時、Media Mattersの分析によると、4chanと8chanでは反イスラム教徒部門が盛り上がりを見せていたという。これはこの出来事にイスラム教徒が関わっているという誤った噂のためだ。

「イスラム教徒は全てテロリストであり、彼らはフランスのような国を侵略していて、キリスト教徒を迫害しようとしているという固定観念で見ているのです。ハンマーだけを持っていれば全てが釘になるのです」と、Media Mattersの過激主義担当者クリスティーナ・ロペスが話してくれた。

だが、8chanは内輪話だけで歪んでいるわけではない。公の場所にも日々滲み出し始めている。

QAnonによるドナルド・トランプ大統領に関する「ディープ・ステート」と呼ばれる陰謀論は4chanで生まれたものだが、8chanで花開いたと同時にTwitterやYouTubeのようなより表立った空間にも広がりを見せた。QAnon信奉者たちはこうした場所に陰謀論を解説する動画を投稿していた。そしてこれは現実世界にも姿を見せることになる。QAnonの印章がトランプ支持の集会の中で頻繁に見られるようになり、QAnon陰謀論は大統領のTwitterにも現れるようになった。

2016年にSplinterが8chanの沿革を伝えた記事で、彼らが主張を主要メディアに広げる方法について説明している。「MicrosoftのTwitterボットであるTayを人種差別的にし、ヒトラーを賛美させるようにしたグループがあるのです」とジャーナリストのイーサン・チエルが書いている。「主要な出演者が女性と黒人であることを理由にスター・ウォーズをボイコットするよう主張するハッシュタグをトレンドに載せるような活動もしています」

8chanは児童ポルノが掲載されたことを理由にGoogle検索から排除されているが、存在を見つけ難くはなっていないし、既存のプラットフォームは彼らの発展を阻んではいない。8chanはTwitterで認証済みアカウントを持っている。そして誰でもTwitter、Facebook、YouTube、Redditに8chanのページをリンクできる。

「このことは、彼らの集中したエコーチェンバーの中にある不快な思想やプロパガンダに影響力をもたせる方法として機能している」とシーガルは話している。

ジャーナリズムの観点から8chanについて伝えることに複雑な問題を孕んでいることをこの記事を書くにあたって考えさせられている。8chanが2つの銃乱射事件事件で重要な役割を果たしていることは無視できないことだ。一方で、私たちが8chanについて伝えるほど彼らは増幅されていく。より多くの人が覗いてみたくなるかもしれず、そのうちの何人かは過激派への道を進んでしまうかもしれない。

「8chanが文化的影響力を持つのは人々がそれについての話を書くことが原因です、それだけなのです」とシラキュース大学の教授であるホイットニー・フィリップスは話す。「コミュニティとしては多くのオーガニックリーチを持っているだけのものです」

社会研究所を主催するダナ・ボイドは、過激主義者たちがソーシャルメディアやニュースメディアを操作して彼らのメッセージを拡散させようとする方法について述べている。彼女の2018年に行われた講演による。

ソーシャルメディアの利用者の殆どは利用規約に反しているという警告を受ければ速やかに態度を正すものです。これは情報操作に当てはまるようなものではありません。ルールを知った上で、敢えてそれを軽んじてプラットフォームを混乱させようとする人たちがいるのです。そうした人々は非難を受けることすら長期的に見て利益になると考えています。特にそれによってメディアが彼らの活動を伝えてくれるようになるなら尚更です。なので彼らは押しの一手になり、規範に従おうとせずに他の人々を傷つけることをします。ルールを捻じ曲げて冷笑することで自らを優位に立たせようとし、修辞学的なゲームに終始することを止めるのは難しいのです。彼らは自分たちがしていることをよくわかっています。


簡単な解答は存在しない


クライストチャーチの乱射事件の後、オーストラリアとニュージーランドのISPは犯人が事件を撮影した動画を掲載していたウェブサイトをブロックしている。そこには4chanと8chanも含まれている。これが正しい解答なのかどうかはわからない。

1つにはアメリカでは言論の自由の保護について憲法上強力な伝統が存在し、法的にインターネット上のプラットフォームというのは、第三者が投稿するコンテンツがどの程度辛辣だったり不快だったりするものであるかには責任を負わない。「8chanを法的に閉鎖に追い込もうとすることは危険な道を開くことになり、おそらくアメリカでは支持を得られないでしょう」とミシガン大学の歴史学教授であるアレクサンドラ・ミンナ・スターンは話している。

サンディエゴの乱射事件をきっかけに、8chanに対する何かしらの対策を求める声が大きくなっている。ゲーマーゲートで標的にされた経験を持つソフトウェア開発者のブリアナ・ウーは現在2020年の選挙に向け下院議員を目指している。彼女は8chanと犯罪行動に関する投稿を監視することについて、法執行機関がより先手を打って行動することを求めている。


7) #8chan で計画される将来的な銃乱射事件を防ぎたいなら、取るべき行動は単純です。

令状を取得してその場で公然と行われている違法な行動を訴追するのです。盗まれたクレジットカード情報を投稿するのは犯罪です。児童ポルノをホストするのも犯罪です。

インターネットのパフォーマンスとセキュリティに関する会社であるクラウドフレア(Cloudflare)が行動を起こして8chanに対するサービス提供を停止するべきだと提案する人たちもいる。一部の活動家たちは、8chanの所有者の維持コストを引き上げて閉鎖に追い込むためにDoS攻撃を行っている。クラウドフレアはウェブサイトを攻撃から守り、パフォーマンスを低下させないようにすることを助けるもので、伝統的にその方針として内容に関係なくどんなウェブサイトにもサービスを提供するとしている。現在も世界で8chanを含む何百万ものウェブサイトを保護している。

そこには例外の前例がある。2017年ヴァージニア州シャーロッツビルでの人種差別暴力事件の後、クラウドフレアは白人至上主義者のウェブサイドであるDaily Stormerのアカウントを停止し、実質的に閉鎖に追いやった。これまでの所、クラウドフレアは8chanに対してはそのような措置は講じていない。

クラウドフレアの法律顧問ダグ・クラマーは、同社は「その件について話し合ってきましたし、多くの話し合いが続いています」と話していて、「非常に活発に」議論を続けているという。しかし、クラウドフレアはウェブサイトのコンテンツが適切であるかどうか、という決断をビジネスに持ち込みたくないと考えている。「私たちはインターネットを安全に保つためのインフラ企業なのです」と彼は言う。「私たちがサービスを停止してもそのコンテンツがオフラインになるわけではありませんし、サイバー上の自警行為のようなものに発展するだけです」

クラウドフレアは2月に同社のオンラインコンテンツに関する立場の説明をブログに投稿している。

しかしそれでも依然としてクラウドフレアに行動を求める人たちもいる。

「(インターネットから)悪しき勢力を完全に排除するつもりではなくても、新規の人がそうした会話を見つけることをより難しくすることはできるはずです」と国際安全保障政策アナリストであるエマーソン・ブルッキングは話している。

8chanを閉鎖に追いやったとしても、白人至上主義者、ネオナチ、人種差別主義者たちはどこかに集合する場所を見つけるだろう。8chanは4chanがわずかに規制を厳格にしたことから派生した。名誉毀損防止同盟は、Twitterが過激主義者に対する対策を強め始めたときに、それが「言論の自由」を標榜するソーシャル・ネットワークであるGabに利用者を募集する機会を与えることになったと伝えている。Gabはピッツバーグのシナゴーグ乱射事件の犯人も利用していた。

「虚ろで、煽り合い、過激主義的な空間は常にインターネットと共に存在したものです」とデッカーは話している。

少なくとも今すぐには8chanが消えることはありそうもない。8chanの管理者が同サイト上で醸成される暴力についてどの程度気にかけているのかははっきりしない。8chanのTwitterアカウントは、パウウェイ乱射事件の犯人の投稿をそれが作られてから9分間で削除したと述べている。この犯行声明はニュージーランドの乱射事件の時のものよりもオンラインで見るのは困難だった。しかし、8chanでは事件について話が続けられている。その中には銃乱射犯を「聖人」と表現する投稿も存在し、それに対して「せいぜい半端な模倣者程度」という反応がついたりしている。

恐ろしいことはこのサイクルを本当に止める方法が存在しないことだ。

「何かについて十分に長い時間ジョークを言い続けていると、やがて誰かがそれを実際に実行しようとします」とエヴァンズは言う。「現時点で、8chanではナチスに関して既にジョークになっていません。彼らは真剣に、白人ナショナリストたちがアーリア人でない人なら誰でも処刑することができるように、国家を内戦に陥れたいと話しているのです」

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