2018年12月8日土曜日

フランスで「黄色いベスト」運動が起きている理由


フランスで広がっている抗議運動の波は環境法制を拒否しているわけではない。これは1%に対する反感である。


Al Jazeera
Rokhaya Diallo
7 Dec 2018

この3週間フランスは近年の歴史の中では最も重大な社会行動を経験している。これはこの国の社会病理、反エリート感情、不平等の拡大、社会正義を渇望する声から沸き起こったものだ。

ことは11月17日、数万の人々が全国の通りで燃料税の増額に抗議の声を上げたところから始まった。

抗議に参加した人々は目立つ黄色のジャケットを抗議のシンボルに採用したことで「Les gilets jaunes(黄色いベスト)」と称されることになった。彼らは交差点を封鎖し、人形に火をつけ、警官隊と衝突した。彼らは今年の初めからディーゼル燃料の値段が約20%上昇したことや、エマニュエル・マクロン大統領が燃料税の引き上げの計画を発表したことに怒ったのだった。

マクロンはこの税は「環境を守るため」「気候変動と戦うため」に必要なのだと話しているが、抗議に参加した人たちはこの決断について「傲慢」で「特権的」な大統領がまたしてもやりくりに苦労している一般の人々を無視していることを表したものだと受け取った。

この抗議の激しさによって政府は燃料税の引き上げについて最初に一時停止を宣言したが、その後この計画を恒久的に凍結せざるを得なくなった。しかし抗議運動は燃料代だけの問題ではなく、この国の政治機構一般と、特にマクロン大統領に対する様々な怒りや苛立ちを巻き込んでいた。結果として政府は燃料税の引き上げを取り下げただけでは緊張を解くことができなかった。

「黄色いベスト」は政府からさらなる譲歩を求めている。富の再分配と共に、給料、年金、生活保護、最低賃金の増額を求めている。中には大統領の辞任以外に和解はありえないと主張する人もいる。

燃料費の高騰や「環境税」への日々の不満が数週間のうちに全国的に何十万もの人々を惹きつける抗議運動にどのように変わっていったのだろう?

これは全てマクロンが人々との繋がりを持つことに失敗して市民の懸念を理解できずにフランスを破滅的な新自由主義政策で運営してきたことに端を発するものだ。


有権者を欺いている


40歳のマクロンは昨年の選挙でフランスの政治を変え、雇用を増やし生活を改善することを公約して当選した。

2017年の大統領選挙の前日までフランスの有権者たちはそれまでの政治家の仕事ぶりに辟易していた。彼らは長く根を張った社会と経済の問題点を理解して現実的で具体的な解決策を提示してくれる異なる種類のリーダーを求めていた。

過去40年の間フランス人たちは社会保障が削れられていくことを懸念してきた。フランソワ・ミッテランの社会党政権が1983年に物議を醸す緊縮政策を決断してから、それ以降の政府もゆっくりだが確実にフランスの国家福祉を解体し続けてきた。

このことがフランスの中間層、労働者階級の経済的な懸念を徐々に目立たせることになり、彼らに右派左派問わず主要な政治家たちに対する疑念を募らせることになったのだった。彼らは政治エリートたちが富裕層の利益を守ろうとしていて、一般市民の福利厚生を顧みていないと信じるようになっていった。

マクロンはこうした政界に対する公衆の苛立ちを読み取り、選挙運動で自身をパリの主要政党にいる存在とは違う「新しい世界秩序」を体現する存在なのだと印象づけることに徹した。

彼は若くエネルギッシュでポジティブなメッセージを発していた。彼は全く新しい政党の党首であり、右派とも左派とも認識されていなかった。彼は政治的な固定観念を持たずに現れた。そして、多くの人が彼を救世主になり得る存在だと見做し、彼に投票することに躊躇することはなかった。

その上、彼が争った相手は国民戦線のマリーヌ・ルペンであり、そのことも彼を「革新的な救世主」であるように見せることになった。フランスの選挙民のうち少なくない人々が極右政党が実権を握ることを止めることができる候補者なら誰にでも投票する用意がある。それ故にマクロンの政策を完全には支持していない人も、自分たちの懸念に応える彼の能力を信頼していない人もマクロンに投票することになったのだった。

その結果マクロンは地滑り的に当選することになった。しかし彼の支持者たちが彼の「改革者」「新しい世界」のイメージが幻想だったことに気づくのに時間はかからなかった。

マクロンが変革を起こせないことは本来驚くようなことではなかった。彼は「若くて新しい」ように見えていたとしても、既存の政治家の一部だった。

マクロンは2014年から2016年までフランソワ・オランド前大統領の下で経済・産業・デジタル大臣を務めている。彼は前大統領が実施してフランス全土で抗議運動が起きた悪名高い労働法改革に責任を負っている。それ以前は彼はロスチャイルドの投資銀行家であった。

マクロンは当選するとほぼ即座に本性を現し始めた。フランスで「ISF」として知られる富裕税の改革を決断し130万ユーロを超える純資産にかかっていた税を不動産富裕税に狭めた。このことで彼はすぐに「富裕層の大統領」として認識されることになった。


マクロンの貧困層に対する侮蔑


マクロンは既存企業や裕福な個人を優遇する政策で物議を醸しながら、経済状況が過酷さを増す中で生活に喘ぐ一般市民に対する認識が足りず、時には侮蔑すらする姿を繰り返し見せている。

例えば、2016年経済担当大臣だったマクロンは怒りに震える労働組合主義者たちを前にした時、そのうちの若い1人に対する「そんなTシャツ姿で私を脅そうとするな。スーツが着たいなら働けばいい」という発言が録音されている。

2017年の7月、マクロンは演説で鉄道の駅というのは素晴らしい場所で(彼自身のような)「成功者」と(おそらくそれ以外の一般市民のような)「何でも無い人々」がすれ違うことの出来る場所だと述べている。

同じ年の10月には不満を持つ労働者たちに対して仕事を探すよりも「混乱」を招くことを好んでいると発言したことが記録されている。「血なまぐさい混乱を招いてる暇があるなら仕事を得ることができるかどうか見に行った方が良い」と話している。これは労働者の不足で苦労していたユセル地方のアルミニウム工場のことを仄めかしている。

更に最近、今年9月マクロンは失業者は「通りを歩いていれば」仕事が見つかると話している。「私が会う人はみんな従業員を探している」と述べている。

共感の欠如と大企業に有利な政策が組み合わされて、マクロンは傲慢で金持ちと権力者と親しい特権的な政治家だというフランスの公衆からの認識に拍車がかかっている。

既に自分たちの経済的な問題が無視されていると感じていた人々に対して彼が燃料税を課そうとしたことは我慢の限界を超える最後のひと押しとなったのだった。

こうしたことが黄色いベスト運動の原因であり、単に燃料の値段だけの問題ではなく社会正義に関わる話になっている。自分たちのことを気にかけず理解していない国際的なエリートによって支配された世界の敗者だと自認しているフランスの一般市民の間には深刻な不満が蔓延している。マクロンは1980年代に前任者たちが追求したのと全く同じ新自由主義を追い求めている。そしてその前任者たちの時代と同じように最貧困層を傷つけ、富裕層を更に豊かにすることに手を貸している。


抗議運動は気候変動対策を拒否するものではない


黄色いベスト運動は環境法制を拒否するものだと見るべきではない。フランスは国として気候変動に対応し環境を守るために行動する責任を負っている。しかしこうしたことは一般市民ではなく環境汚染の主たる責任を負っている大企業が必要な変革の矢面に立つべきことだ。

もちろん黄色いベスト運動は完璧なものではない。抗議者たちの中には人種差別、同性愛者嫌悪に基づいた攻撃を行う者もいる。また、国の記念碑を傷つけたり警察に対して暴力を振るう者もいる。

こうした行為に目を背けるべきではないのと同時に、この黄色いベスト運動はフランスで長い時間張り詰めてきた緊張関係を反映していることを忘れてはならない。この国ではほんの1年前には約1100万の人々が極右政党に投票している。フランス社会には過激主義的な要素が存在し、抗議者の中にそうした人々が含まれるのは避けられないことだ。

だが私達はこの運動全体を「過激主義」だと言って退けるべきではない。黄色いベストで抗議する人々はテレビでは見ることのないフランス人たちである。怒りの感情は礼儀正しくも洗練されたものでもない以上、彼らの失望は時に攻撃的に見える。混乱しショックを受けている感情が暴力となって現れている。如何なる痛ましい暴力行為も擁護されるべきではないが、フランスが現在直面している不安は、遥かに狡猾で有害な社会的排除と不公正という他の形の暴力に対応して発生したものであることを忘れるべきではない。

失業、差別、貧困はフランスの人々に日々屈辱を感じさせる根源であり、それが今や社会全体の失望に繋がってしまった。この国を統治する方法について抜本的な改革を示さない限り、フランスの政治エリートたちがこの公衆の怒りを和らげるのは難しいだろう。

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