2019年3月1日金曜日

SADランプに効果はあるのか?


季節性情動障害(seasonal affective disorder:SAD)を改善すると触れ込む光療法製品が人気になっている


Vox
Gaby Del Valle
Feb 28, 2019

毎年冬になると私は休暇を取って、陰気で、灰色で、4時半には日が沈むニューヨークから数週間離れて両親が住むフロリダに行く。フロリダの郊外はそれほど面白かったりエキサイティングな場所ではないが、12月でもヤシの木と青い空を見ることができて元気をもらえる。

最近出かけた時に会ったモントリオール出身の友人は、私と同じように寒い季節になると説明がつかないくらい無精になるのだと話していた。彼は私が休息を感じられるように、季節性情動障害(seasonal affective disorder:SAD)を治療するためによく使われる明るいライト「ハッピーランプ」を買うことをすすめてくれた。「私は毎朝使っているんです。おかげで冬にも耐えられています」と彼は話していた。

光り輝く明るいライトを顔に当てることで気分が良くなるかどうか、他の人はともかく自分については懐疑的だった。そして、それに効果があったとしても、何かしら根本的な問題を解決せずに冬の倦怠感の症状を抑え込むものだと考えていた。

しかし、光療法(ライトセラピー)というのは実際に非常に効果的であることが明らかにされている。ブラウン大学アルパート医療学校で薬学、精神医学、人間行動学を研究する准教授ケイティ・シャーキーは、SADと診断された患者に頻繁に光療法を処方していると話してくれた。「非常に効果的なものだと考えています」というシャーキーは精神医学と睡眠医学を専門にしている。「ですが、薬物療法や他のセラピーと同様に、鬱症状を持つ人はこの治療法に関して協力してくれる誰かに見ていてもらうことをお勧めします」

簡単に言えば、光療法は機能する、だがパーティーで会った誰かがそう言ったからといって、SADランプを買うべきではないだろう、ということだ。


季節性情動障害(SAD)とは何か?


光療法がどのように機能するのかを理解するためには、まず季節性情動障害の原因を理解する必要がある。

名前から想像できる通り季節性情動障害というのは「冬に起こることが多い鬱症状や気分障害」だとシャーキーは言う。多くは冬だが夏に罹患する人がいる記録もある。「日中の時間の長さに影響を受ける症候群の一部です」と彼女は言う。

症状は季節性のない鬱症状と同様で、継続的な落ち込み、日々の活動への関心の喪失、気が短くなる、朝起きるのが辛くなる、慢性的な倦怠感、食欲の変化。食欲の変化については、過食や拒食を意味するが「特定の高カロリー食品」への欲求として現れることがよくある。アメリカ人の1.4%〜9.7%がSADを患っているとされ、その比率は北に行くほど高くなる。

ジョセフ・ストロムバーグが書いた過去のVoxの記事によると、科学者たちはSADの存在を疑っていたことこもあったという。その存在が最初に確認されたのは1980年代のことで、最初は冬に日光に十分に当たれないことが原因で引き起こされるものだと考えられていた。この考えは、より短い日照時間が睡眠と起床のサイクルを司るホルモンであるメラトニンの過剰生産を引き起こし、冬の暗い季節に人々に疲弊を感じさせ短気にさせているとするもので、これは光周期説(photoperiod hypothesis)と呼ばれていた。

また別な説には位相変位説(phase-shift hypothesis)と呼ばれるものがあった。これは、冬には日が昇るのが遅くなるので、人間の生物リズムが睡眠と起床のサイクルと一致しなくなるというものだった。もっと簡単に言うと、人間は毎日同じ時間に起きる傾向があるので日の出の時間が変わると生物リズムが乱れることがあるというのだ。

しかし、昨年(2018)の9月に発表された2つの研究では、季節性の鬱病について別な説明が提示されている。目の中の光受容細胞と脳領域を繋ぐ脳回路が気分に影響を与えているというものである。1つ目の研究で、この種の脳回路がマウスにあることが発見され、その数週間後にもう1つの研究で同様の神経回路が人間にも存在することが示唆された。「季節性情動障害のようなものがこの神経回路に関係している可能性は非常に高い」とブラウン大学の神経科学の教授ジェローム・サネスは、昨年の12月にNPRに話している。

マウスの発見をした研究の著者の1人でアメリカ国立精神衛生研究所で光と生物リズムの部門を指揮するセーマー・ハッターは2002年に最近の研究の進歩を説明するのに役立つ発見をしている。2002年、セーマーとブラウン大学の神経科学の教授であるデイヴィッド・バーソンは眼球の中に新しい種類の細胞を発見した。SADについての他の研究と合わせて考えると、季節性の鬱症状は光の欠乏によって引き起こされていることが示唆される。

「(2002年の)細胞についての論文が発表される前は、正直なところ私も含めて、多くの人が光と鬱との関係は体内時計の混乱によるものだと考えていました」とハッターは言う。「光を感じるシステムの感度と体内時計などの生体システムの感度は類似のものだと仮定していたのです。しかし、全く新しい神経回路が見つかったため、私たちはこのシステムの感度が生体システムと同じであるかどうかわからなくなりました。この気分を高める神経回路を活性化するために(人間には)どの程度の光が必要であるかもわかっていません」

これは光療法には効果がないという意味ではない。「光療法が機能することは何年も前から知られています」とハッターは言う。科学者たちは依然として何がSADを引き起こすのか解明しようとしているところだが、光療法はSADの症状だけでなく、そのものにも対処可能な効果的な治療法であるということはかなり一致した見解になっている。


SADランプは機能する — 正しく使えば


光療法又は光線療法(フォトセラピー)は季節性情動障害が実際の病気だと考えられるずっと前から普及していた。アメリカ国立医学図書館のブログCIRCULATING NOWによると、この試みは人間の気分のバランスを取るために古代から用いられており、全ての医学的問題は4つの体液(黒胆汁、黄胆汁、粘液、血液)の不均衡によって起こるとされる、2000年も続いていた奇妙な形の偽科学の時代から行われてきた。そして後にこれは乾癬狼瘡、睡眠障害などを含む一連の病気の治療法として使われた。

1903年、医師のニールス・リーベング・フィンセンは光療法の治療効果と生理学的効果の研究によってノーベル賞を受賞している。それから数十年後には、紫外線を出す太陽灯は欧州とアメリカで、治療目的と美容目的の両方で一般的なものになった。

1月には3時に日が沈むスウェーデンでは、SADの治療法として光療法は1980年代から広く利用されている。リンダ・ゲデスが書いた2017年のThe Atlanticの記事によると、スウェーデンの光療法のクリニックでは、患者は服装までも全身白いものにして、明るい光で満たされた白い部屋に座ることで冬の憂鬱を治療していた。ゲデスによると、80年代にはたくさんあった光療法のクリニックは現在では少数が残るのみになっているという。

しかし、冬が引き起こす憂鬱に苦しんでいると感じる人は、治療のために目が眩むような白い部屋に座る必要がない別な選択肢を持つようになっている。ライトボックス、あるいはライトセラピーランプが近年特にアメリカで徐々に人気を増している。それも公式にはSADを患っていない人たちの間にも広まっている。

Google TrendsによるとGoogle検索では「lamp for seasonal affective disorder(季節性情動障害のためのランプ)」というキーワードが2016年から急上昇している。そしておそらく当然のことだが、多くの人は11月と12月にこの製品を買おうとして調べていて、それもミネソタやミシガンのような厳しい冬を迎える北部の州からの検索が多い。THE CUTWirecutterCNNはそれぞれ最良のSADランプのリストを纏めている。そこには机の上に収まる洒落たライトから床に置くフロアランプまで揃えられている。

ブラウン大学の精神科医シャーキーはSADに罹患している患者にとって光療法は極めて効果的な治療法だと話している。そして、ハッターとサネスの尊敬すべき研究はSADの仕組みを理解する上で重大な発見だったという。マウスの脳回路の研究は「おそらく昨年私が見た中で最も興奮した論文でした」と話している。

「(特に冬の間は自然光が人の気分に大きく影響を与えるという)私たちが臨床的に観察してきたことに核となる根拠を与えてくれるのですから大きなことです」「私たちが普段いる人工の光は私たちが屋外で浴びる光と同じ信号を脳に与えてはいません」とシャーキーは言う。「屋外の光より少しだけ明るく見えないだけだったとしても、脳にとってはもっと差があるのです。私は今オフィスに座っていて、完璧に見えていますし、本を読むにも十分な明るさです。ですが、曇った日であっても、脳にとっては屋外は桁違いに明るいのです」

正しい機器を利用している限り、光療法によって脳を欺いて自然光に当たっているのだと考えさせることができる。だが、シャーキーはライトボックスは正しく使う必要があるという。早い時間から使い始めると通常の就寝時間前に疲れを感じることになり、遅く使い始めると就寝できなくなる。そして、頭痛や特定の薬との干渉、発疹などの副作用が起こる可能性もある。そして光療法を行うかどうかは専門家と相談して決めるべきだと彼女は付け加える。

「治療が必要なくらい憂鬱を感じている場合は必ず治療を受けることを強く勧めます」と彼女は言う。「それは人生のルールです。精神的な健康を大切にして下さい」

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