2019年3月13日水曜日

人工知能によって患者と医者の関係を改善できる


医師エリック・トポルの著書「Deep Medicine」ではアルゴリズムと医療の未来について楽観的な見解が記されている。


The Verge
Angela Chen
Mar 12, 2019

人工知能アルゴリズムが医者に取って代わる日が来るのかどうか多くの人が話しているが、エリック・トポルは心配していない。スクリップス研究所の心臓専門医であるトポルは、遺伝学者でもあり医療の未来について何冊か本を書いている。

彼は最近「Deep Medicine:How Artificial Intelligence Can Make Healthcare Human Again(ディープ・メディスン:人工知能は如何にして医療を再び人間的なものにするのか)」という本を出版している。トポルは、人間というのは常に他の人間に世話をしてもらう絆を求めるものであり、AIはその絆を取り戻すのに役立ってくれると主張している。そしてそれにはビジネス上の利益に惑わされない医者の姿勢が必要だとする。

The Verge はトポル医師に、今日医療がどのように機能しているのか、AI時代の健康についてのプライバシーの問題、そして医者の積極的な活動の重要性について話を聞いた。

***

AIが医療と患者と医者の関係に与える影響を話し合う前に、今現在の患者と医者の関係をどのように見ているか話して頂けますか?

この関係は悪化していて、実際酷いものになっています。患者と医者が向き合う時間が短くなっていて、その短い時間に目を合わせることすらないので、患者に対する関心が薄くなっています。そしてそれは時間についてだけでなく、データ管理者としての役割から医者の気をそらしてしまいます。こうなると患者はきちんと話を聞くようにはならないでしょう。医者は酷くがっかりして幻滅し、疲れ果てて憂鬱を感じます。

更に、ゲノムやセンサーから収集されたデータは全て揃うようになっていますが、それは着飾ったものの出かける場所がない人のような状態になっています。私はこの話を裏付けるエピソードからこの本を書き始めました。医師や私を担当していた人たちが情報をきちんと処理していなかったために、私自身と私の回復を毀損した形になったのです。このエピソードは、患者のためのデータが準備できていれば物事をより安全により良い結果を得るために効率化を図ることができることを後押しするものです。ですが、臨床医は忙しすぎるのです。彼らはそれぞれの人々のデータにまで手を回すことができていません。私は、AIによる変革の可能性というのは、医療に人間的な側面を補填してくれるものだと考えています。これは私たちが失ってしまったものです。


医療の人間的な側面というのが、あなたがAIが医者に取って代わることはないと考える理由にもなっていると考えて良いでしょうか?

検証されたものであったとしても、ハッキングや誤作動の場合を考えれば常にアルゴリズムを信じるわけにはいかないので人間による監視が必要でしょう。それだけでなく私たちは絆、つまり親密なコミュニケーションを求めているものなのだと考えています。私たちは過去にはそれを持っていました。この関係は貴重なもので、私はその時代を思い出すことができます。時間の経過とともに起こったのはビジネスが医療を占領してしまい、そのことがこの関係を侵食してしまいました。私たちはこれを取り戻すことができるはずです。


AIによる診断についてお聞きします。毎週のようにAIは何かしらの状態について医者よりも優れた診断ができるという研究結果があがっています。これはどう機能するのでしょうか?

AIは人間が見ることができないものを見ることができます。ディープ・ラーニングは機械を人間が見るよりも優れた見方ができるようにします。私たちはかつては想像もしなかったものを目の当たりにし始めています。既に多くの例があがっています。腕時計で血中カリウムを採血もせずに測定することができます。網膜を分析して男性か女性かを高精度で判断できます。大腸内視鏡検査とマシンビジョンによって、消化器科医が見逃すようなポリープを発見することができます。あげていけばきりがありません。

足りない部分は検証と繰り返しを伴った先を見据えた慎重で厳格な研究です。私たちは今、将来が約束された状態です。十分なデータが有ります、それは私が医療に関わって40年の間に見てきた全てのものに匹敵するほど興奮させられるものです。しかしまた、私たちはこれを興奮と誇張から現実的で明白な形で証明される段階に引き上げる必要があります。


あなたは診断を助けるAIやあらゆるデータを統合するアルゴリズムを私たちが利用する世界を想定されています。それは具体的に病院ではどのようなものになるのでしょうか?

別な世界になると思います。患者に会う時もデータ資料の色々なページを見て努力をすることはないでしょう。「患者さんを前後関係から文脈化して、意味のある人間関係を築き、その人の存在を理解して、人間的な知恵と共感を与えることができるようにする」ということになるでしょう。これは今の私たちとは全く違うものです。

より効率化が進み、医者たちが「その効率化を患者に還元する」という姿勢を持てばあらゆる人の利益になります。データとアルゴリズムの助けを得て人々はより大きな活力とパワーを得ることになると同時にそれらは臨床医の負担を軽減してくれます。臨床医はパフォーマンスと効率を上げることができ、そもそも何故自分が医療を志したのか思い出すことができるでしょう。ここにフライホイール効果が生み出されます。両側からパフォーマンスが増強されることになり、臨床医の全体像を基本から変化させることになるでしょう。


プライバシーについてはどう考えていますか?

非常に重要なことです。一人一人が自分のデータを所有し、それを纏めて引き出すことができることが重要です。これは医療記録だけでなく、他の様々な場所、病院や検査機関等に分散した情報も含めてです。現時点では誰も自分のデータを全て持ってはいませんが、子宮にいるときから検査を受けるときまで持っていたいもののはずです。

私たちができる最大限のことはデータの所有権を一人一人に手渡すことです。データとプライバシーの安全性を評価する必要がありますが、様々な所有の形を含めて考える必要があります。


効率化されて医者が短時間で多くの患者を診るようになるのではなく、その効率化が患者に還元されるというのはどう理解していますか?

国民保健サービスの評価と見直しを手助けするために英国政府の仕事に2年間関わっていました。そこでは経済学者も取り組んでいましたが、音声認識による時間短縮効果は驚くべきものでした。(情報を入力するためにパソコンの前に座らなくて良いことで)これは医師が膨大な時間を自由に使えるようになることを意味しています。この影響は非常に大きく、全く素晴らしいものです。

AIによって効率性、生産性、ワークフローを向上させることができますが、もしそういうことになるなら、私たちはその分患者に寄り添う意志を持たなければならないでしょう。これは過去には起こらなかったことです。もし私たちがこれまでと変わりない状態を続けるなら、医学界は更に圧迫され、燃え尽き症候群と鬱病と自殺が更に増えることになります。そして本当の試金石は医学界が金融業界の興味を退けることができるかどうかです。私たちはこれまで時に受け身になっていて、余裕を失っていました。機械が優れたものになり、人間の効果を増強してくれるようになる一方で、人間をより人間的にするために行動主義を採るべきだと思います。


医者ができる行動主義というのはどういう種類のものでしょうか?

医者が何かで立ち上がるというのはあまり見ることはありませんでした。最近になって銃規制の話題で医師たちが立ち上がって発言し、全米ライフル協会が「自分の分野から出てくるな」と言ったのを見たと思います。こうしたことをするのは若い医者たちで、医学界に多くいる高齢の人たちではありません。医者たちは黙らずに声を上げ始めるようになると思います。私たちには最重要課題であるヘルスケアのケアの部分を再構築するために大規模にできることがあります。私はその方法があると確信しています。


こうしたことはどのくらい先のことなのでしょうか?

多くの人たちが興味を持っているという確証があります。事態はとても速く動いていますが、何年もの経験から私は自分で見積もった時間よりも、4倍とか5倍の時間がかかることを学んでいます。どんなに興味深いものであっても思ったより長い時間がかかるものなのです。

質の高い研究を行うために必要な投資が不足しています。放射線医学のアルゴリズム、皮膚病学のアルゴリズム、あるいは病院での音声認識プログラムを開発する多くの優れたスタートアップ企業がこれに当てはまります。彼らはGoogleかAmazon(どちらも厳密な医学研究を行った実績はありません)にでも買収されない限りは必ずしも十分な資産を得られていないのです。

証拠を提示するのは難しいですね。医学界やこの問題に関しては患者の人たちも実績の証明なしに再構築されたヘルスケアを受け入れることはないでしょう。もちろん、間違ったアルゴリズムは一瞬で多く人を傷つける可能性があるので厳密であるべきで、そのためには研究には厳格な基準と要件があるべきだと思います。誰にも異論の余地のない証明が必要で、それによって更に動きが速くなり私たちが必要とする契機を得ることになるはずです。

0 件のコメント:

コメントを投稿