2019年6月5日水曜日

気候危機は勇気ある対応が必要な第三の世界大戦だ


グリーン・ニューディールを批判する人たちは、我々がそれを達成する余裕があるのかと疑問を投げかけている。だが、それを達成しないわけにはいかない、我々の文明は危機に瀕しているのだ。


The Guardian
Joseph Stiglitz
Tue 4 Jun 2019

グリーン・ニューディールの提唱者たちは、気候危機は緊急事態であるとして、戦うために必要な対応の規模と範囲を強調している。彼らは正しい。彼らが「ニューディール」という言葉を使うのは、フランクリン・デラノ・ルーズベルトとアメリカ政府による世界恐慌への対応を想起させることによって、大規模な反応を呼び起こすためだ。そして、第二次世界大戦のために必要とされた国家による動員令は現在の状況になぞらえることができる。

批判者たちは「私たちにそんな余裕があるのか?」と疑問を投げかけ、グリーン・ニューディールを支持者する人たちは、正しい思考を持つ個人は地球を保全するための戦いに賛意を示すべきだとして、更に議論が必要なはずの社会変革の問題と意図的に混乱させていると主張している。両方の意味で批判者たちは間違っている。

私たちには、適切な財政管理と統一された意志によってこれを達成する余裕がある。しかし、更に重要なのは、私たちはこれを達成しなければならないということだ。現状の気候緊急事態は第三の世界大戦である。私たちの生活や文明はちょうど第二次世界大戦の時と同じように危機に瀕している。

第二次世界大戦でアメリカが攻撃を受けた時「私たちには戦争を戦う余裕があるのか?」などと尋ねる人はいなかった。それは既に存在する問題だった。私たちは戦わない余裕がなかったのだ。気候危機についても同じことが起こっている。私たちは今既にこの問題を無視してきたことの直接の対価を経験している。近年アメリカでは洪水、ハリケーン、山火事などの気候関係の災害によってGDPの2%を失っている。気候変動に関連した疾病によるコストが最近明らかにされてきているが、それも数百億ドルに達すると見られ、それだけでなく既に数えきれない命が失われている。私たちはいずれにせよ気候の崩壊に対する対価を支払わなければならない。それならば、気候だけでなく海面上昇の問題を考えても、先延ばしにして結果として多大な対価を支払うより、早々に炭素排出量を削減するための対価を支払う方が理に適っている。使い古された言葉かもしれないが、「1オンスの予防は1ポンドの治療に値する」これが真実である。

気候緊急事態に対する戦いは、第二次世界大戦が歴史上最も速い成長を遂げたアメリカ経済の黄金時代の準備段階として機能したのと同じように、正しい形で行われれば経済的にも良い効果をもたらすことになる。グリーン・ニューディールは需要を刺激し、そのために利用可能な全ての資源が利用されるようになる。「グリーン経済」への移行は新たな好景気を呼び起こす可能性が高い。トランプが石炭のような過去の産業に注力していることは、風力や太陽光への賢明な移行を妨げている。石炭産業の衰退で失われるよりも遥かに多くの雇用が再生可能エネルギーで生み出されるはずだ。

グリーン・ニューディールを実現する上で、最大の課題は人的資源を集約することだ。報道されている失業率は低いものの、アメリカには十分活用されていなかったり非効率的に割り当てられている大量の人的資源が存在する。アメリカの生産年齢人口に対する就業人口の比率は、過去の時代や他の国と比べれば依然として低く、特に女性とマイノリティについて低くなっている。適切に設計された有給家族休暇と支援政策、そして労働市場におけるより時間的に柔軟な対応により、更に女性と65才以上の人たちを労働力に取り入れることができるはずだ。アメリカでは長い差別の歴史の遺産が障害になっていて、本来あるべき状態で人的資源を効率的に利用することができていない。より優れた教育と保健政策、インフラとテクノロジーへの更なる投資、真のサプライサイド経済に基づく政策によって、生産能力が増強され、気候崩壊と戦い、順応するために必要な資源を確保することができるようになる。

ほとんどのエコノミストは経済拡大の余地がまだ多少はあることには同意している、そして、ここには気候危機と戦うために利用するものも考慮されている。しかし、短期的なボトルネックに陥らずに生産量をどれだけ増やすことができるかについては論争が続いている。だが、ほぼ間違いなく、この戦争を戦うためには第二次世界大戦の時と同じように、人的資源の再配置が必要になる。第二次世界大戦時には女性を労働力にして生産性の拡大を図ったが、それだけでは十分ではなかった。

例えば、数百億ドルに及ぶ化石燃料に対する補助金を削減して、汚いエネルギーから綺麗なエネルギーへの転換を図るのはそう難しいことではない。アメリカはある意味で幸運だと言える。アメリカの税制は、経済効率を上げると同時により多くの資金を調達するのが簡単であるという、逆累進で抜け穴も多い貧相に設計されたものである。汚いエネルギーに関わる産業に課税し、資本家から少なくとも生活のために働く人々と同じくらいの税率で課税するようにした上で抜け穴をふさぐことができれば、今後数十年の間に政府は法外な額の税収を得ることになり、気候緊急事態との戦いに利用することができるはずだ。更に、気候危機と戦って利益を得るために住宅に投資して断熱材を施したい個人や、「グリーン経済」に貢献するために工場や社屋を改装したい企業に資金を提供するために国家による「グリーン銀行」を創設すれば民間部門に資金提供を行うことができる。

第二次世界大戦の時の動員への努力は私たちの社会を変化させた。農業経済と広大な田舎を基本とした社会から、製造業経済と大規模な都市型の社会へと変化を遂げたのだった。国家が労働力の必要性を満たすために、女性を労働力として利用したことによって彼女たちが一時的にでも解放された影響は、後に長期的な影響を及ぼした。このことはグリーン・ニューディール支持者の非現実的ではない野心に繋がっている。

20世紀の経済がそれ以前の農業と農村の経済モデルに従う理由が無かったのと同じように、21世紀の革新的なグリーン経済が、化石燃料を基礎にした20世紀の製造業中心の経済と社会のモデルに従わなければならない理由は全く無いのだ。

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ジョセフ・E・スティグリッツはコロンビア大学教授で2001年にノーベル経済学賞を受賞している。元大統領経済諮問委員会委員長、世界銀行チーフエコノミスト。最近の著書に「People, Power, and Profits: Progressive Capitalism for an Age of Discontent(市民、権力、利益:不満の時代のための進歩的資本主義)」がある。



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