2019年4月12日金曜日

人工知能は人間の創造性を強化する


オックスフォード大学の数学者が語る、AI時代のアートとイノベーション。


The Verge
Angela Chen
Apr 10, 2019

DeepMindによるコンピューターと人間のチャンピオンとの間で行われた囲碁の対局は、オックスフォード大学の教授で数学者であるマーカス・デュ・ソートイのような人物にとっては存在の危機を感じさせるものだった。「私はこれまで常に数学を思考することと囲碁を打つことを比較してきました」と彼は話す。そして彼は、直感力と創造性が求められる囲碁はコンピューターが簡単にはプレーできない種類のものだと考えていた。

デュ・ソートイはDeepMindのAlphaGoがチャンピオンであるイ・セドルに囲碁で勝利するのを見て、人工知能(AI)が創造性を求められる領域で影響力を持つことによって大きな変化の波が押し寄せると考えた。彼は、私達が創造性を理解するためにAIを利用する方法を研究して、この程「The Creativity Code:Art and Innovation in Age of AI(想像性の法則:AI時代のアートとイノベーション)」を書き上げた。

The Vergeはデュ・ソートイに創造性(creativity)の様々な種類について、AIが(人間に取って代わるのではなく)人間をより創造的にするために役立つことについて、そして、人工知能が創造性が求められる分野で苦労していることについて話を聞いた。

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ではまず、「創造性(creativity)」について読み解いてください。この本であなたは3種類の創造性について述べています。それはどんなものでしょうか、そしてその分類はAIの役割にどのように関係するのでしょうか?

多くの人たちは芸術的創造性というと人間が人間たらしめるものを表現することだと考えていて、そこにAIが近づく余地があることに疑問を持っています。多くのアーティストたちやその作品群には背後にパターンや組織立ったものがあることがわかっています。それは非常に数学的な性質のものです。このことが、私たちがこれまで考えていたよりも、芸術的創造性についてパターンやアルゴリズムが関わることができる可能性があると私が信じる理由になっています。この種のパターンというのは隠れていることが多いのですが、AIは隠されたパターンを見つけることに非常に秀でているため発見することが可能なのです。

創造性の1つ目は、探索的創造性(exploratory creativity)というものです。これはバッハがするように、そのゲームに於けるルールを作り、そのルールを極限まで守り続けるものです。2つ目には、組み合わせ創造性(combinatorial creativity)があります。これは互いに関係を持たない2つのアイディアを用意し、一方がもう一方の新しいアイディアを刺激するのに役立つ方法を見ていくものです。第3の創造性は最も神秘的なものです。どこから出てきたかわからないような瞬間です。水を熱すれば突然沸騰して状態が変化して水蒸気になるように、完全に状態が変化する瞬間です。


こうしたパターンのどこにAIは当てはまるのでしょうか?

それぞれのタイプの創造性がAIに対して異なる挑戦を提供します。探索的創造性はコンピューターに完璧に向いたものに思えます。人間の脳以上に多くの計算ができるわけですから、これこそがコンピュターができることです。組み合わせ創造性とAIの関係については興味深いところです。AIはパターンを学習してそれを新しい分野に適用することができます。ですが、最も難しいのはなにか新しいものを作り出して既存のシステムから抜け出すということだと思います。

伝統的に「AIはルールを破ることはできないのではないか?特定の方法で機能するようにプログラムされているのだから、システムの中でしか動くはずがないのでは?どうやってその外に出ることができるのか?」このように考えられてきました。しかし、AIが「ルールを破るのだ」と伝えられた場合には、それ自体がルールになるのです。基本的な法則を破るようにプログラムを伝えるメタ的なコードを使うことができるわけです。


この本で、あなたは多くの創造的なAIプロジェクトについて語っています。そのうちで特に興味深いものはどれでしょうか?

面白かったものを1つ上げるならjazz Continuatorでしょうか。ジャズ・ミュージシャンの演奏した音楽のパターンを学んで、そのミュージシャンの前で演奏を始めたのです。秀逸だったのはそのミュージシャンの反応でした。彼は「今聞いているものを理解していますよ。これは私の音楽です。私が演奏するように演奏しています、これまで私が一度もやろうと思ったことがないことをやっていますけど」と言ったのです。

これはAIが今後果たすことができる素晴らしい役割だと思います。人間は行動のパターンを繰り返すものです。おかしなことに、ある意味で私たちは物事を繰り返すという意味で機械のようになっていることがあります。jazz Continuatorの件で私が面白いと思うのは、このAIはミュージシャンの彼にほんの少し刺激を与えて、彼が機械のように振る舞うことを止めさせたということです。彼の創造性を再び目覚めさせるのに役立ったのです。彼がすでに持っている能力でできることがあり、そのことに彼自身が気づいていなかったことが示されたからです。私は創造性についてAIができることは人間の創造性を高めることなのだということを明らかにしたいと考えました。今後人間がAIをパートナーとして努力を続ければ、人間だけよりもずっと面白いことができると思います。

もう1つ興味深い話として、この本全体の中で私が重要なものだと考えるものはビジュアル・アートの世界に関するものなのですが、それがGoogleのDeepDreamです。Googleは画像認識ソフトウエアにランダムなピクセルの配列が何に見えるかを判定させ、それを画像として出力させたのです。ここから私たちはAIがどのように考え、どのように見えていて、どのようにプログラムされていたのかを学ぶことができます。


ここで重要な点は何でしょうか?

今日のAIがやっていることの1つは機械学習プログラムによってコードを生成することですが、それがどのように機能しているのか私たちはあまり理解できていません。GoogleのDeepDreamプロジェクトはそこで何が起こっているのか理解するのに役立ちます。人間としての私たちのためにある芸術作品は、私たちが他の人の心の中を垣間見る手段になっています。それと同じように、AIによって生み出される芸術作品は、私たちがAIの中で機能している謎のコードを理解するのに役立つはずです。

Microsoftのレンブラント・プロジェクト(レンブラントが書くスタイルの絵をAIで作り出そうというもの)を見てください。これについては「レンブラントをもう1人作り出そうとする意味は何だろう?既に素晴らしいレンブラントがいるのに?」と考える向きもあるかもしれません。このプロジェクトの大事なところは、芸術作品について新しいことを理解するのに役立つかもしれないということです。ジャクソン・ポロックの作品を数学的な視点で見ると、それまで見逃していた新しいものを見ることができます。ですから、AIには、現在私たちが当然のものと考えている芸術作品の中に、見逃しているかもしれない新しい構造を明らかにするという興味深い役割があるのです。


そうしたパターンを検出することは、視覚芸術だけに限られたものではありませんよね?

そうですね。映画について、ネットフリックスが私たちが好む映画をオススメしてくるアルゴリズムを考えてみてください。興味深い新しい方法で映画を分類しています。「コメディ映画をまとめたもの」と第されたグループの中には、人間の好き嫌いの表現に基づいて映画を分類していて、そのまとめられた共通のテーマは私たちには理解できないものがあります。これはAIが人間が誰も考えなかった映画のジャンルを新しく作り出したようなものです。「ここには言葉にできない新しい趣向があります、新しく名前をつける必要があります」とAIが提案しているような感じです。この場合、AIは私たちの創造的な出力を受け取り、私たちが無意識的に表現はしているがまだ意識はしていないものを読み取っているのです。これは私たちが見る芸術の中にある私たちが意識していない何かを明らかにすることに役立つかもしれません。


創造的な分野というのは数多くあります。その中でAIが最も苦労していると思うのはどれでしょうか?

驚きだったのは、「書き言葉」というのが如何に難しいものかということです。AIが学ぶために使える書き言葉というものもたくさん存在しています。私が驚いたのは、今のAIは短い文章を書くのは得意であるにもかかわらず、長い書き言葉を維持して続けることができないのです。例えば、 続き物の文章を書く感覚が全く良くなく、3ページ以上一貫した文章が続いたものは見たことがありません。この原因はよくわかりませんし、できるようになるのを期待してもいますが、AIが私たちのように洗練された言語を正確に操るのは非常に難しいことなのかもしれません。データ出力以上のものを必要とするものですし、おそらく私たちが経験したような進化の過程が必要なのでしょう。それでも結局はそれも時間の問題なのですが。

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