2019年2月7日木曜日

ポルトガルの商店主がロマの人々を「追い払う」ために使う陶器製のカエル


カエルを不幸の象徴であると考える高齢のロマの人々に伝わる言い伝えに付け込む人種差別的行為


Al Jazeera
Marta Vidal
4 Feb 2019

エレナ・コンセイソンの食料品店の入り口にはオレンジやタンジェリンの入ったバスケットに囲まれて緑色に光る陶器製のカエルが立っている。「ここではみんなカエルを持っているよ」と彼女は言う「これはジプシーを追い払うためにあるんだ、彼らはカエルを恐れるからね」

似たような置き物がポルトガル全土の商店やカフェ、レストランの入り口に置かれている。「誰もジプシーに寄ってきて欲しくないんだ」とコンセイソンは言う。彼女は、ポルトガルの法律では差別が禁止されていることには気づいている、「だけど、盗みを働いたり問題を起こしたりする人たちと付き合うことを強制されることはないだろう」と説明する。

ポルトでは10の商店主がロマが自分の店に入ってこないようにするために陶器のカエルを置いていることを認めた。その中で話を録音することに同意してくれたのはコンセイソンだけだった。他の商店主たちの説明もアルジャジーラによって密かに録音されていたが、彼らは、深く根ざした偏見と人種差別的な誹謗を含む言葉を使って、このカエルはロマの人々に「ジプシーは歓迎しない」ことを見せるためにあるのだと説明した。

ロマのコミュニティは15世紀にポルトガルに到着したが市民として認められたのは1822年になってからのことだ。数世紀に渡って迫害され、抑圧的な法律に従わされてきた彼らは依然としてこの国で最も強い差別に晒されている少数民族の1つになっている。

2016年に欧州基本権機関(FRA)が主導して行われた調査によるとポルトガルに住むロマの71%が過去5年間のうちに差別的な扱いを受けたことがあるとしている。この調査では、ロマは依然として「耐え難いレベルの差別」とサービスへのアクセスについて不平等な扱いを受け続けているとされている。彼らは雇用、教育、居住について差別を受けている、そしてお店に入る時すらそうなのだ。

「ポルトガルではロマを侮辱するのは普通のことで、普通に見るものです。私が最も恐ろしいのはこの偏見が如何に普通のことになっているかということです」とロマの俳優で活動家のマリア・ジルはアルジャジーラに話してくれた。

ジルは「忌まわしい」カエルを展示する商店をボイコットしようと試みているが、そうした店は彼女が暮らす近所にあまりにも多く、時に彼女はそこで買物をせざるを得ない時もあるという。「私は自宅近くで13のカエルを見かけました。置かれていた所には薬局や診療所も含まれています」と彼女はアルジャジーラに語った。

ポルトガルのロマ・コミュニティではカエルは邪悪と不幸の象徴と見られている。「古い世代の人々はカエルについての迷信を強く信じていて、カエルが置いてある店舗には近づこうとしません」とジルは説明する。「ですが、若い世代は気にしていません。若い世代がカエルの置いてある店に入らないのは迷信が理由ではなく、その背後に人種差別があるからです」

こうしたカエルはロマの人々に対して歓迎しないことを伝えるために置かれている。しかし、差別の形態としては微妙なものであるため、カエルを置いている商店主は矢面に立たされると常に否定することができる。「はっきりしたものではないので当局に何か対応してもらうのは非常に難しいのです。私は司法がこれを人種差別の象徴として認めてくれることがあるとは思えません」とジルは続けた。

ロマを父に持つポルトガルの映画監督レオノール・テレスは彼女自身の怒りを短編映画に表している。2016年のベルリン国際映画祭で短編部門の金熊賞を受賞した「Batrachian’s Ballad」では、彼女は、商店に置いてあるカエルをひったくって地面に叩きつけ、怒った店主に通りを追われるところを撮影した。

「彼女の映画は多くの人の認識を喚起しました」とジルは言う。「ですが、カエルについて知らなかった人が、カエルが使われる理由を知ったケースもあります。実際この映画がポルトガルで上映された後、カエルの売上数は増えたのです」

同じく2016年にジルはポルトガル各地で活動する18人のロマの1人として、差別を意味するカエルについての認識を高めることを目的としたキャンペーンに参加した。このキャンペーンは、写真家のルイ・ファリーニャが人権組織「SOS Racismo」と協力して組織したもので、ポルトガルの6都市で商店に置いてあるカエルを対象にして実施された。

活動形の小さなグループが商店主たちに話を聞いて周り、彼らにロマに対する差別について話をした。「私たちはこの問題を争いにせずに話し合ってみることを決断したのです。商店主の中には話すらしたがらない人もいましたが、最終的にほぼ全ての人たちがロマを寄せ付けないためにカエルを置いていることを認めたのです」とファリーニャは言う。

「私たちはいくつか良くない経験もしましたが、最終的に半数の商店主たちがカエルを取り除くことを決断してくれたのです。あるレストランの店主は始めのうちは躊躇していました。ですが、店の常連客が彼にカエルを取り除くべきだと言ってくれたのです。そして彼が実行したときは全員で拍手をしました」

公的機関である移民高等弁務官事務局の支援を受けて、この運動は44の店舗を訪れ、そのうちの半数の店主がカエルを「全ての人に開かれている」「偏見には閉じられている」といった意味のサインと交換したのだった。ファリーニャはこのキャンペーンの対立的でない方法が商店主たちの態度を変えさせるのに役立ったのだと考えている。彼は、テレスの短編は「非常に挑発的だった」と語る。だが、「ポルトガルに蔓延する微妙な差別意識に立ち向かうこと」も重要なことだとも言う。

人種差別と不寛容に反対する欧州委員会が2018年に公開した報告書によれば、ポルトガルではヘイトスピーチと差別が公の場に現れていて、それは特にロマと黒人たちを対象にしたものであるという。

昨年12月ポルトの地方議員が、自身のFacebookに自宅近くの盗難やごみ問題を「ルーマニアのジプシー」のせいだと非難した投稿をしたことで、人種差別として罰金の支払いを命じられた。

SOS Racismoのメンバーでベテランの反差別活動家であるマルタ・ペレイラは、この件は差別のために公人が罰金を科されるという画期的な事件だったと考えているが、まだ十分ではないという。「反ロマの人種差別について多くの訴えがありますが、それを調査できる独立した組織が存在せず、何の結論にも至らないケースが殆どなのです」と彼女は言う。「ロマの人々の殆どは、貧困の中に生きていて、自身の権利について知識がありません。そこには諦めが広がっています。多くのロマは不平を言いません、それは不平を述べても何かが変わるとは思っていないからです」

2013年ポルトガルは国家戦略としてロマ・コミュニティを統合する方針を採用した。そこには彼らの排除と差別に取り組むためのいくつかの方針も示されていた。しかし、ペレイラによれば、これらの対策は上手く実施されてはいない。「ロマには依然として住居と仕事へのアクセスが欠けています。彼らは500年間差別されていて、市民となってからさえも絶えず権利を否定され続けています。政府の計画はロマの人々が直面している構造的な問題の対策としては十分ではありません」

移民高等弁務官事務所が主導した調査によると、ポルトガルには37,000人のロマが暮らしている。しかし、この調査は全ての地域が含まれてはいないため、この数字は実際は更に多いと考えられている。フランスと同じようにポルトガルも民族と人種についてのデータを収集していない。

ペレイラはポルトガルは「人種についての色覚異常」が制度上の人種差別を明らかにすることを不可能にしていると主張する。しかし、これは2021年に国勢調査に民族と人種に関する質問が含まれるようになることで変わるかもしれない。

「ポルトガルには 決して認められることのない構造的な人種差別の形態が存在しているのです」と俳優で活動家のジルは言う。ジルは、マイノリティは社会から取り残されていることを自分たちのせいにされることが多いと主張する。

彼女の親類の中には仕事を失わないために、ロマであることを隠している人もいると言う。「私自身も今後誰も雇ってくれなくなるから、ロマの権利について声を上げるのは止めたほうが良い、とよく言われます」と彼女は言う。「ですが、活動家として止めるわけにはいきません。止めることはできないのです」

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