2019年9月2日月曜日

音楽を好まない人の頭の中


「音楽アンヘドニア」の人にとって音楽は、退屈と気晴らしの中間にあるという。それは脳の反応を反映している。


The Atlantic
DIVYA ABHAT
MAR 10, 2017

アリソン・シェリダンは音楽にあまり関心がない。彼女は、愛の歌に胸を打たれて涙ぐむことはないし、偉大なクラシックの作曲家たちに驚かされることもなければ、軽快なリズムに合わせて踊りだすこともない。元エンジニアで、現在はポッドキャストを主催するシェリダンが持っているのは12枚のレコードだけで、車のラジオも調整されていない。彼女にとって「音楽は退屈と気晴らしの中間の奇妙な場所にある」のだという。

シェリダンは極めて音楽に造詣の深い家族の出身であるにもかかわらず、世界で3〜5%の人が当てはまるという音楽に無関心な人の1人だ。これは特に「音楽アンヘドニア(musical anhedonia)」と呼ばれるもので、あらゆる喜びが感じられなくなって多くの場合鬱病に繋がる一般的な「アンヘドニア(快感消失症)」とは異なるものだ。実際、音楽アンヘドニアであることは人間の本質には何の関係もなく、音楽に無関心であることは、鬱病やその他の精神疾患の原因になるものではない。シェリダンは「唯一の問題は他の人をがっかりさせてしまうことです。みんな音楽が好きですからね」という。

これまでの研究では、音楽を楽しむ人の大半は音楽によって心拍数が上がったり、発汗によって皮膚の電気抵抗が一時的に低くなる皮膚コンダクタンス反応が見られることが示されている。だが、音楽アンヘドニアの人にそうした生理的な変化は起こらない。「米国科学アカデミー紀要」に掲載された最近の論文では、音楽に対する脳神経の反応を観察することで研究を進めている。

この研究では、バルセロナ大学(この研究の拠点)の45人の学生たちに音楽に関する脳の報酬系の感受性を判断するためのアンケートに答えてもらった。その回答に基づいて、彼らを、音楽を全く気にしない人、音楽にある程度興味がある人、音楽とともに生きて呼吸をしている人、という3つのグループに分けた。その上で、fMRIを用いて、彼らが音楽を聞いた時の脳の反応を測定した。

音楽を楽しむ人は、脳内の聴覚領域と報酬領域の活動が密接に結びついていて、音楽を聞くことが楽しみと喜びを齎している。しかし、特定の音楽アンヘドニアの人は脳の聴覚領域と報酬領域が音楽に反応して相互作用しないことが明らかにされた。対照実験として、音楽アンヘドニアの人たちが他の刺激には反応することを確かめるために、ギャンブルのゲームをプレイしてもらい、お金を得ることで脳内の報酬領域が正常に動作することが確認されている。

一方で、音楽アンヘドニアの人の対極に位置する「ハイパーヘドニア」の人々は、脳の聴覚領域と報酬領域で強力な情報伝達が成されていることが発見された。「音楽を聞くことは、この種の脳神経反応のパターンに関係しています。この2つの領域の相互作用が増えれば増えるほど音楽に喜びを感じるようになるのです」と、モントリオールにあるマギル大学の認知神経科学者で、この研究の著者の1人でもあるロバート・ザトーレは話している。「この相互作用が多いのが、音楽なしの人生は想像できないという人たちです」

グリーズボロにあるノースカロライナ大学で心理学の教授を務めるポール・シルヴィアは音楽好きの側に偏った人物だ。彼はロック、電子音楽、ジャズなど様々な音楽に没頭している。彼は「私は心で音楽を聞くのです。音楽を想像しただけで背筋に戦慄が走ることもあります」と言い、一日に何度も音楽を聞いて戦慄を感じているという。実際、シルヴィアはおよそ10年前からこの戦慄について研究を始めている。

「この戦慄は魅力的なものです」とシルヴィアは言い、「ラジオで好きな曲を聞くのと、深遠な音楽から受ける情緒の間には違いがある」のだという。特別に感動的なものを聞くと泣きたいような気分になる、音が大きくなり壮大になるにつれて胸が高鳴っていく。「この戦慄は全体として言葉に表すのが難しい感覚の一部なのです」とシルヴィアは話している。

シルヴィアは彼の研究の中で、一部の人は他の人よりも音楽を聞いて頻繁に戦慄を感じたり、鳥肌を立てたりする傾向があり、そうした人たちは新しい経験に対してより開放的である傾向があることを発見している。「新しい経験に対して開放的な人たちは、創造的であり想像力に富んでいて、外からの刺激に対して畏敬の念を感じるような経験を頻繁にしています」とシルヴィアは言う。「こうした人たちは楽器を演奏することも多く、コンサートに行き、幅広い分野の音楽を聞いています。音楽を上手く活用していると言えるでしょう」

この種の研究結果は、他の研究者たちが報酬系への経路を探索するのに役立つかもしれない。「音楽以外の全てに報酬系が反応する音楽アンヘドニアの人と同様に、音楽以外の何にも反応しないという人も存在します」とザトーレは話している。「おそらく、そうした人たちは音楽を通して報酬系を活性化することを学ぶことができるはずです」と彼は言う。「そしてそれができれば、その知識を別の分野に応用して、報酬系をコントロールして、その時の気分や喜びの反応を制御することができるかもしれません」

ザトーレは彼の研究結果が、音楽アンヘドニアの人たちが善意の友達や家族を説得するのに役立っているという。「私のところに来て言うのです『科学的に証明してくれたおかげで、友人たちに音楽のことで私を悩まさないで欲しいということができるようになりました。これまではどうしようもなかったのです』とね」

0 件のコメント:

コメントを投稿