2019年1月19日土曜日

虐待する人が被害者を操る方法


「私はその日彼が刑務所の中にいる姿を見ても同情を感じる理由は無かった」


Elizabeth Brico
May 10 2018

私は薄暗い部屋に張られた二重ガラスの前に座って、コードに繋がった電話の受話器を耳に当てていた。私のボーイフレンドが赤いジャンプスーツを着てその反対側に座っていた。私の両側でも私と同じように女性が椅子に座ってガラスの反対側の男性と話していた。私のボーイフレンドはガラスの向こう側にいる男性の一人に向かって頷いた。その男性は、痩せていてガラスの向こうで小さくなっている私のボーイフレンドよりも大きくて凶暴そうに見えた。私のボーイフレンドは受話器に口を近づけて「あいつは俺を殺そうとしてる」と囁いた。「ここから出ないといけない」彼の青い目が見開かれて訴えかけてくる。

その当時私は17歳だった。私は刑務所に面会に入るために18歳の友人の身分証明書を使わなければならなかった。彼に向かい合って座ったとき、なぜ私はこの人に面会して自分の自由を危険に晒さなければならないのかよくわかっていなかった。彼は3日間私を無理やりモーテルに監禁して殴りつけて噛みついてきた。その3日間、彼は私に、金を渡さないなら森の中の木に縛り付けて目の周りの痣が治るまで放置してやると言っていた。その前には彼は私が気を失うまで首を絞めた。その前には彼は私を強く押した。

だから、私はその日彼が刑務所の中にいる姿を見ても同情を感じる理由は無かった。私は面会に行った時、自分が彼を助けようとしているのか、彼にさよならを言うつもりなのかどちらなのか確信が持てなかった。面会が終わった後、更にわからなくなった。それ以降、彼が電話をかけてくる度に、そしてそれを私が受け入れる度に、彼を刑務所送りにするという私の意志は減退していった。そしてついに、私は検察官に電話をかけて、私は何が起こったのか覚えていないし、法廷で証言するつもりもないことを彼女に伝えたのだった。

数年後にまた同じことが起こる。私(あるいは心配した隣人)が警察に通報する。私のボーイフレンドは暴行で逮捕される。彼は私に電話をかけてきて面会に来るように頼むか、その後も電話を受けてくれるように懇願する。電話のやり取りが続くに連れて彼の罪について証言したいという私の欲求は減衰していく。ついに私は訴えを取り下げて彼は自由の身になる。

ジョージ・ワシントン大学ロースクールの研究によれば、ドメスティック・バイオレンスの被害者の80%近くが証言を撤回しているという。多くの人がこの現象の原因を、虐待関係の明白な要素である恐怖であると考えている。「あなたを支配下に置こうとする人と関係を持っている場合、そうした人たちはあなたを実質的な人質状態にするため、あなたは協力しないことを恐れるようになります」とジュリー・オーウェンズが語る。オーウェンズは自身が虐待の被害者であり、法務省の相談役として30年に渡って人々がドメスティック・バイオレンスと戦うのを助けている。確かに私は自分のボーイフレンドを警戒していたし怯えていた。しかし、それは私が証言を撤回した唯一の理由ではなかった。

2011年に研究者エイミー・ボノミらが主導した研究では、虐待者が被害者に証言を放棄させるために使う5段階の操作方法を分類している。私はボノミの研究論文を読むのが辛かった。それはそこに私が個人的に経験していた屈辱的な人間関係が表されているからだけではなく、この調査は私を虐待していたボーイフレンドがいたのと同じ施設からかけられた電話を聞き取ることによって行われていて、そして調査対象の少なくとも1人は同時期にいた人だったからだ。研究者たちは、虐待していた男性と法廷でそのことを証言をすることになっていた被害者の女性という17組のカップルの通話を調査した。この研究では通話している人の名前は提供されていない。この通話のうちの1つが私自身のものであるのかどうか私にはわからないが、研究者たちがこうした通話から明らかにしたパターンはあまりにも馴染みのあるものだった。

5段階は次のようなものだ。第1段階として、まずカップルが虐待事件について話し合う。被害者は通常怒っていて自分で立ち上がる決心をする。第2段階では加害者が虐待を矮小化しようとする。私の個人的な経験では、私のパートナーは私が彼を挑発したのだと非難したり、自分はその時ハイになっていて治療が必要な状態だった、そうでなければ起こらないことだったと言ったりした。第2段階では虐待者が直面している何らかの困難についても言及される(例えば、私のボーイフレンドが「殺される」と言って怖がっていた男性)。第3段階ではカップルの楽しかった時間(一緒に自転車に乗った、お気に入りの映画を見た)を共有して絆を取り戻す。第4段階では被害者の女性から同情を引き出し、彼女の決意を和らげて証言を取り下げるように頼む。そして私がしたように被害者はそれに同意してしまう。そして第5段階では、彼らはその件をどう効率的に収めるか計画をたて、例えば無礼な態度の検察官や過度に懲罰的な国家機関などを共通の敵として共有し絆を深めることになる。

これは衝撃的な研究で、様々な人種や経済階級に跨る虐待者たちが暴行の罪から逃れるために同じ戦術を用いていることが描写されている。この研究に示されていないのはこの後に起こることだ。私の場合は最終的に証言をするまで、この後に何度も繰り返し証言することを決心しては取り下げることになった。4年間虐待を受け続け、彼がこれを止めることはないのだと私の中でついに気づいたのだった。彼が私のことを尊重するようにさせるために私にできることは何もなく、彼が私のことを尊重しないのであれば、彼自身のためには機能している行動を彼が止める動機は何もないのだった。

私の証言では彼を暴行の罪に問うことはできなかった。私はあまりにも何度も証言することを放棄してきたために、信頼できる証人として証言することができなかったのだ。代わりに彼は接触禁止命令への違反と証人に対する不正の罪に問われた。これらは記録された刑務所の電話によって裏付けられた。私の証言と私が警察に証拠として渡した刑務所からの800件の電話の記録(私が答えたのはごく一部)や膨大な数の手紙等は、彼に有罪判決と5年の服役刑を与えるのに十分なものだった。

多くの被害者が恐怖から同情、性差別に至るまで様々な理由で証言を取り下げている。私達の裁判制度は他の社会一般と同様に、特に女性が虐待について証言することに困難を伴う。ドメスティック・バイオレンスの被害者がより良い正義を得るためには「裁判に関わる人や法制度が実際に女性を平等な人間として扱うこと、そして、女性や子供に対する暴力をそれ自体犯罪として扱うこと」が必要だと、ドメスティック・バイオレンス関連法の専門家で、ジョージ・ワシントン大学の教授であるジョーン・マイヤーは話している。「私たちは男性による女性や子供に対する暴力の多くを[普通のものとして]受け入れてしまっています」

本質的にドメスティック・バイオレンスの被害者(男性でも女性でも)が証言する権限を与えられていると感じてもらうためには、まずその人たちが話をする上で安全であると感じられるようにする必要がある。これはつまり、犠牲者非難をしないこと、被害者に虐待者を怒らせるような何かをしたのか、どれだけ酒を飲んでいたのか等と尋ねたりしないことだ。裁判に関わるすべての過程で心理的な支援を受けられるようにする必要もある。被害者が虐待者に操られていることを認識するのを助けることができれば、それに抗う方法を支援することも可能になる。

こうしたことは、最終的にいつかは自由になる虐待者に対して証言することの恐怖や実際の危険を解消することにはならない。しかし、その人に関係そのものが危険なのだと認識させることの助けにはなる。私自身、理解することが同じパターンの繰り返しを打破するためにした唯一のことなのだった。

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