2016年6月18日土曜日

世界怪奇実話

青空文庫で牧逸馬の「世界怪奇実話」シリーズを3作立て続けに読んだが面白かった。
小説ではなく、実際の事件を紹介した話なのでかいつまんで内容も紹介したい。
読んだ後に自分で調べた部分も少しあります。


双面獣

  • 1928年、アメリカ、ミシガン州マウントモーリスでのこと
  • 5歳(この文章では7歳)の少女 Dorothy Schneider が学校帰りに誘拐され、強姦惨殺死体として発見される
  • 途中犯人は車が泥道に嵌り近所の農夫の手を借りたため面が割れていて、似顔絵が出回る
  • Harold Lotridge という大工が自身の同僚である Adolph Hotelling が少女を殺害している夢を見る
  • Lotridge の夢をきっかけに Hotelling は逮捕され自白
  • いくつも余罪があり、同様の幼女強姦殺人のほか、成人女性に対する強姦殺人、墓場の死姦事件など
  • Hotelling は妻と5人の子供があり教会の要職も務めている人物だった
  • ミシガン州に死刑はないため Hotelling は終身刑となり、1955年に獄中死。模範囚だったと言われる

あまりにも事件の内容が酷いのと、犯人が地元の名士であったということのギャップに緊張感がある。面が割れている、車の車種がわかっている中での捜査だが中々足がつかなかったのは当時は普段の人格とかけ離れた犯罪(で逮捕された)例が今ほどなかったためではないか。

夢の話はようは出回った似顔絵からの無意識の連想であろうと思われるが、この話もドラマチックさを高めていた。夢に見たという Lotridge は Hotelling よりずっと若い人なのだが皮肉にも1932年に早逝しているそうだ。



チャアリイは何処にいる

  • 1874年、アメリカ、ペンシルバニア州フィラデルフィア
  • 4歳の Charley Rossと 5歳の Walter Ross の兄弟が二人組の男に誘拐される
  • Walter はその日のうちに離れた場所で発見される
  • 犯人からは身代金を要求する文章が届くがしばらくして連絡が途絶える
  • Charley の捜索が続けられ手がかりはあるものの見つけられない
  • ある民家に強盗に入った二人組が家人と警察に射殺される、そのうち1人は数時間息があり自分が Charley Ross の誘拐犯人であると告白する
  • Charley の行方はその場で射殺された相棒しか知らないという
  • Walter Ross はこの二人組を誘拐犯人に相違ないと確認
  • 結局 Charley Ross の行方は知れず、父母は死ぬまで捜索を続けたという
  • 家族には数かぎりない申し出の連絡があった
  • 1934年、69歳の Gustave Blair が自分が Charley Ross であると申し出、裁判所は彼を Charley Ross であると認める
  • Walter はすでに諦めたことだと言い、Blair を認めなかったという

結局行方がわからず、牧逸馬が文章を書いた時点では青年になってどこかに生きているであろうという結び。捜査途中で犯人が少年を粗雑に扱ってはいないという証拠(牛乳を強奪している、おもちゃを作っている)が挙げられていて生きているのではないかという話に繋がっている。

勝手に推測するなら、慣れない男2人で4歳児の世話はかなり困難と思われるため、早い段階で殺害されたか、放置されたか、または親戚か何かに預けたのではないかという気がする。生きていたかもしれないし、名乗り出た人の誰かだったのかもしれないが、誘拐された本人も含めて真実を分かっている人は犯人が射殺された時点で誰もいなくなってしまったのではないだろうか。



浴槽の花嫁

  • イギリス人 George Joseph Smith (1872年生)が結婚し保険や財産を自由にした上で花嫁を殺すということを繰り返す
  • いくつもの変名を使い結婚と殺人を続ける
  • 常に妻を浴槽に沈めて殺すという同じ手口
  • 直前に妻を病院に連れていくのが定例だった
  • 夫婦で先に死んだ方の財産がすべて残った方のものになるという遺言を必ず作っていた
  • 同じ手口で何人も殺していて余罪がいくつあるかわからないらしい
  • 過去身内が殺された人から同様の事件を不自然に思う声が上がり逮捕につながる
  • 1915年に死刑になる

イギリスらしい、と言ったら怒られそうだが、陰惨な殺人犯である。極めて周到な全くの金目当ての連続殺人で、妻の死を発見した時の演技も上手かったという。しかし長年殺さないで連れ添った本妻がおり、表向きは骨董屋稼業を営んでいた。出張にいくということにして殺人を繰り返していたため、本妻は事件について知らなかったとされる。



上記三つの中では一番最初の Adolph Hotelling が犯罪者としては一番酷いと思うのだが、量刑については別として、検索してみても2番目、3番目の事件より扱いが少ないのが意外だった。Charley Ross 事件George Joseph Smith も Wikipedia に項目があるが、 Hotelling はなかった。

ちなみにこれを書いた作家、牧逸馬について Wikipedia で調べてみると、本名長谷川海太郎は林不忘、牧逸馬、谷譲次の3つのペンネームをどこぞの殺人犯の如く使い分けていたそう。あの丹下左膳を書いた林不忘と同じ人だったとは気づかなかった。

0 件のコメント:

コメントを投稿